プロローグ
日本のどこか、私、《丹波 遥》はビルの屋上で靴を脱ぎ、あと一歩で真っ逆さまに落ちることができる位置に居た。
私がなぜこのようなことになっているかというと、ハッキリ言って疲れたのだ。
学校の子達は私を無視したり、机に汚い落書きを残したり、黒板いっぱいに「丹波死ね」と書かれていたり。
もう散々だ。もういっそ死んでしまいたい。…そう思って私は今ここにいる。
私には兄が居た。
いじめを受けていた時、我慢できなくなった時はいつもお兄ちゃんが居た。
お兄ちゃんは優しく私を抱擁して、慰めてくれたり、何か悲しいことがあると励ましてくれた。
私はお兄ちゃんが大好きだった。妹としてではなく、一人の女として…。
私の今の世界にはたった一人お兄ちゃんしか優しくしてくれる人は…残念ながら居なかった。
そんな兄は、私の目の前で、心臓の病気で…死んでしまった。
ねぇ、なんで死んでしまったの…お兄ちゃん。
もう、寂しいのは嫌だよ…。
待っててね。今、そっちに行くから。
後ろが騒がしい。野次馬か、それとも止めに来てくれた人か、はたまた酒とギャンブルが好きなクズ両親か。
でもそんなことどうでもいい。どうせ私のこの蛮行を止められるのはお兄ちゃんしかいないのだから。
お兄ちゃんと会いたいな…天国で会えるのだろうか。
私は一歩踏みだそうとする。が、あとちょっとのところで、後ろに居た誰かに組み付かれる。
邪魔だよ!私は死にたいの!もう疲れたの!
私が死んだら悲しむ人がいる?
そんな人居るわけ…居るわけないじゃ…居る。
お兄ちゃんは、私が死んで、そっちにいったら悲しむ…よね。
自覚したら、なんだか気持ちが冷めた。もう、なんだか死ぬのが怖い…。
気持ちが冷めて、自分の今の状況を瞬時に理解した、理解して、怖くなって…
――そのまま足を踏み外した。
あ、さっき組付かれた人の顔が見える。
あんな顔だったんだね。変な顔。必死になって助けてくれて嬉しかったけど…ごめんね。
どうやら私、死んじゃうみたい。
私の意識は、そこで何やら強い光と共に消え失せたのだった。