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有須inワンダーランド!<18>完

「蔵斗。蔵斗の全部を俺にくれ。俺の全部も蔵斗のものだから」

一瞬、キョトンとした顔になった蔵斗が、しばらくしてかぁっと赤くなる。どうやら意味は飲み込めたらしい。手で顔を覆ったかと思うと、隠した顔から涙が伝い、今度は美作が慌てた。何が蔵斗を傷つけてしまったのか。

「う、れしい……です」

泣きながらの不明瞭な言葉を、美作は聞き逃さなかった。

「俺も、嬉しい」

最初は、蔵斗の物慣れない様子が可愛いと思っただけだった。いつもむっすりとした顔が嬉しそうな笑顔を浮かべる様子に、その笑顔を美作だけに向けたいと思った。早川に盗られると思ったときの焦りは自分でも何故か解らなかった。

恋に落ちるとはこういうことなのだろう。

美作は蔵斗を抱きしめながら思う。まさしく『落ちた』のだ。

顔を覆い隠した蔵斗の腕をとり、縫いとめる。流れる涙を舌先で美作が掬うと蔵斗は微笑んだ。

美作が蔵斗の身体に舌を這わせると、蔵斗は片手でシーツを握り締め、もう片方の拳を口に当てた。必死に声を殺す蔵斗に、美作は何処まで我慢出来るかとじっくりと蔵斗の身体を溶かしはじめる。

うなじを吸い上げて跡を残しながら、乳首を摘んで逞しい胸を揉みしだく。片方の手は既に蔵斗の股間を刺激していた。

勃ちあがりはじめたそれに気を良くした美作の顔に、意地の悪い微笑が浮かぶ。もっと攻め立ててやろうと考えた美作の頭上で、がりっと骨を噛む音がして驚いて顔を上げると、蔵斗が拳に歯を立てていた。

「蔵斗。嫌、か?」

辛そうな顔の蔵斗の拳を取ると、くっきりと歯型が残っていた。痛々しいそれに舌を這わせ、美作が問う。向けられる好意の意味を解っているつもりだとは言っていたが、やはり同性には嫌悪が勝ったかと美作は手を止めた。

「あ、違ッ、その……俺の声なんか」

「声?」

意外なことを口にした蔵斗に、美作は何を今更と感じたが、一方で漸く蔵斗の戸惑いの理由を理解した。

「蔵斗。俺なんかって言うの、止めないか?」

蔵斗が己を卑下することは判ってはいるが、それでも気持ちのいいものではない。

「蔵斗を好きな俺の気持ちも否定されてる気がする」

「み、将棋」

蔵斗はじっと美作を見つめ、逸らされない強い視線に己の間違いを悟った。

「ごめん、なさい」

うな垂れる蔵斗は主人に叱られた大型犬のようで、あまりに可愛らしく美作は思わず喉が鳴るのを感じる。

「可愛いな」

「え?」

欲望のままに蔵斗の身体を押し倒し圧し掛かった。うな垂れていた蔵斗は変化について行けず、目を見開く。

「俺が、蔵斗を可愛いと思ってる。それでいいだろう」

美作の言葉に、蔵斗は一瞬あっけにとられたように口を開いた。しばらく言葉を捜して口をパクパクさせた後に、美作を睨んで口を閉じる。何を言っても美作には適わないのだと蔵斗は知っていた。

「将棋。ゲテモノ好きって知ってますか?」

少なくとも、こんなガタイのデカイ、厳つい顔の愛想の無い男が可愛い筈が無い。だが、美作の目には可愛く映っているらしい。

「ああ。知ってる。早川も雅もうちの店の常連もそうだな。アリスは狼の巣に入ってきたカワイコちゃんだ」

何を言っても無駄と悟った蔵斗はひたすら恥ずかしい発言を黙らせることを考えたが、方法を思いついて赤面した。

「蔵斗。黙らせる方法、思いついたか? 試すか?」

蔵斗の頭を見透かしたかのような美作の言葉に、蔵斗はより一層赤面し、悔しくて実行に移した。

美作の唇に蔵斗の唇を押し付けると、美作の舌が滑り込んでくる。蔵斗の口腔を美作は思うさま味わい、再び身体をまさぐりだした。

「あ、将棋……」

若い蔵斗の身体はすぐに限界を迎えているのが判る。美作は股間を煽り立てながら、ローションをそこへ塗りつけた。

「蔵斗、膝つけて、力を抜いて」

何も判らない蔵斗は、素直に美作の言葉に従う。股の間を美作の指が辿る。核心に触れそうで触れない指に蔵斗は焦れた。若く経験の無い蔵斗は刺激には敏感だ。

ローションの己自身の零したものでぬる付いた股を割るように、熱いものが触れる。それが美作の欲望だと蔵斗が自覚したのは、切っ先が蔵斗のそれを突いたからだ。

「蔵斗」

熱い息を吐きながら、美作の欲望が蔵斗の股に擦り付けられ、後ろから蔵斗自身も刺激される。

「あ、ああッ」

ひたすら追い上げられ、美作自身で加えられる愛撫に酔いしれながら、蔵斗は素直に声を上げた。

美作の荒い呼吸が、感じてくれていることを蔵斗に教えてくれる。

美作に求められていると思えた。

さえない風貌は怖いと言われることが多かった。親も早くに大人びた蔵斗を甘やかしてはくれなかった。だからこそ蔵斗は美作の差し伸べられた手を嬉しく思った。

美作は美作で美しい風貌に群がる男はキリが無く、遊ぶだけの相手だと見られていることに嫌気が差していた。

上手い出会いだ。割れ鍋に綴じ蓋とはこういうことだろうと美作は思う。

蔵斗の震える欲望に手を伸ばす。限界だったのだろう。触れただけで蔵斗は泣きそうな声を上げながら達した。

美作も自分を追い上げることに集中する。力の抜け切った哀れな獲物の姿にさえ欲情する。やがて、美作も達し、蔵斗を背後から抱え込んだままベッドへ横になった。

離れがたい気分で蔵斗の首筋に吸い付いたり、軽く身体を揺らしたりしてみる。

いつもなら欲望を解消すれば、汗ばんだ身体が気持ち悪いと思ったが、汗とローションに塗れた身体も蔵斗であると言うだけでいいものだ。

「あの、将棋…、えと」

だが、蔵斗はそうはいかないらしい。ごそごそと腕から逃れようとする蔵斗に美作は態と音を立ててキスをした。

蔵斗の顔が真っ赤になる。

「シャワーは右手のガラス張りの扉。一緒に入るなら」

「ひ、一人で入ります!」

美作に全部言わせず、蔵斗はさっとベッドから出て行った。バスルールへ走りこむと中から鍵を掛ける音がする。あからさまな反応に美作は笑い出した。

「蔵斗。今日はこれで勘弁してやるよ。でも俺を本気にさせたツケは払ってもらうからね」

美作は呟きながらサイドボードのミニボトルに手を伸ばす。

悪い男に捕まったのか、それとも捕まえたのか。迷い込んだワンダーランドを抜け出す日は蔵斗には遠いようだ。


<おわり>

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