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ファンタジックな冒険譚  作者: コノハ
目指せゴブリン洞窟!
7/13

呑み比べ! ―と、とほほな依頼再開

 ガシャン!

 テーブルにジョッキが叩きつけられるようにしておかれた。

「や、やるじゃねえか、ルミナ!」

「そっち、こそぉ! ウワバミかなんかかあんたは! とっとと酔い潰れなさい!」

 ルミナとファランは、もう二桁目になるジョッキに手を伸ばした。

 周りには見物人が山のように人を囲んで、くだらない勝負の結果を騒ぎながら見守っていた。賭けをやるものまでいる。

「ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……ブハァッ! どうだ、まいっらか!」

 調子良く飲んでいた二人だったが、二桁を超えたあたりでペースが落ちていく。

「ゴク、ゴク、ゴク……まだまらっ!」

「なんらと!? まら飲めるのか!」

「あんら、わらしのころ、なめれんじゃない? わらしらっれねぇ! のむろきゃ飲むし、みられるろきはみられんのよ! ほら、メリッサ! さけもっれこーい!」

「二人とも、もうやめといたほうがいいんじゃない?」

「うるせぇな! いいらろ、メリッサ! はやくもっれこいよ!」

「はぁ、この酔っ払いが。後悔してもしらないからね?」

「いいからもっれきれよ! はやく!」

「はいはい」

 しばらく飲み比べが続き、やがて二十杯目のジョッキが運ばれてくる。

「お待たせ!」

「ありがろよ!」

「あんがろ、メリッサ」

 ジョッキを受け取ると、二人はあっという間に飲み干した。

「さっさろ……らろれろ……」

「それは……こっちの……せり、ふ……」

 バターン! 二人同時に、仰向けに倒れた。

「わー、引き分けだね!」

「あなたの勝ちよ、ゼロ……」

 メリッサは呆れたように言った。

 テーブルの端で見守っていたゼロの前には、三十杯以上の空ジョッキがあった。

「じゃ、お医者様に見せてくるね!」

 ゼロは二人の足を持って酒場を出ようとする。

「そうしてあげて。それからね」

 メリッサの『それから』の先は、ほろ酔いだったゼロの頭を素面に戻させた。


 数日後。三人は再びゴブリンの巣窟へ向かって歩いていた。だだっ広い草原の中を、甲冑と魔術師とゼロの三人がポツンと存在していた。

「……お前が変なこというからだぞ、ルミナ」

「あんたが勝負に乗るからでしょうが、ファラン」

「どっちもどっちだと思うな、私」

「ゼロはゼロで飲み過ぎ!」

 二人に突っ込まれ、ゼロはいたずらっぽく舌を出した。

「いやぁ、私もあのとき酔ってたの。ほら、せいじょーなはんだんりょくが失われてた? ってやつ」

「……ったく」

 ファランは毒付いた。

 元々、いつか中断していた依頼はこなさないといけないとは、ルミナとファランの二人は思っていた。だがこうも可及的速やかに依頼を達成しなければいけなくなったのは……誰のせいでもなく、パーティ全体の責任である。

 簡単に言うと。

「全く、ゼロから聞かされた時は目玉飛び出るかと思ったわ」

「俺は心臓止まるかと思った」

「私は頭が真っ白になった」

 まさかねぇ、と三人同時に声を合わせる。

「三千五百Gとは」

 ちなみに、エール一杯五十Gである。驚くべきことに三人で七十杯杯を平らげた一行は、その代金を払うことができなかった。

 決して高い値段ではないが、駆け出しの彼らに払うには少々荷が重い。だから、報酬二千五百Gのゴブリンの巣窟を叩く依頼を再開したのだ。それでも、まだ千Gほど足りないことは三人とも考えないようにしている。

「高いねぇ。お酒」

「安いほうよ。たしかここまでくると笑えてくるけど、でも振り返れば当たり前の金額よ」

「だな~。さ、早めに終わらしてゆっくりするぞー!」

 おー!

 ゼロは楽しそうに声をあげ、手を掲げた。

「ったく、こどもは元気よね」

「お前も一週間前は子供みたいだったけどな」

「うっさい!」

 ちなみに、酔いを覚ますのに四日、準備に三日、である。旅路自体はそう時間がかかっていない。

「ていうか、ファラン、あんたバケモノじゃないの?」

「は? いきなりなんだよ?」

「私『消化』の魔法かけてたのに、なんで無強化のあんたと同じなのよ」

「いやまて聞き捨てならない言葉があった」

「幻聴よ」

「その切り返しおかしいだろ!?」

「いいじゃないルールになかったんだし」

「次は絶対明文化するから覚悟しとけよ……?」

「次があると思ってんの? こんな金のかかること二度とやるか」

 あー……とファランは妙に納得した。

「そりゃそうか」

「ま、ズルしたのは認めるわ。飲み比べの勝ちはあんたに譲ってあげる」

「何当たり前のこといかにも『譲歩してやりました』みたいな風に言うんだよ」

「はいはい。じゃ、先急ぐわよ」

「スルーすんなよ!」

 はいはーい、と言いながら、ルミナは先を歩くゼロを追う。

「ったく、殊勝な態度で『お、可愛いな』とか思った次の瞬間あれかよ……。俺、もっと相手選べばいいのになぁ」

 そう言って、ファランも続く。と言っても鎧を着込んだ彼はゆっくりとした足取りで歩き出した。

 置いていかれないだろうな、なんて心配しながら。


「ぜーろっ!」

 ルミナは、はしゃいだ様子で草原を歩くゼロの肩を掴んだ。

「ルミナ! 早く行こうよ!」

「ダメよゼロ。ファランがいるでしょ?」

 え、だからどうしたの? と言った表情をゼロはする。

「ファラン、そんなに早く歩けないでしょ? 遅い人に合わせるのが、パーティの基本よ」

「え? ルミナのことだからてっきり『きりきり歩けない鉄塊なんて置いてきゃいいのよ!』とか言って先行くものだと思ったのに」

「あんた私を何だと思ってるのよ」

「ファランをいじめるひと?」

「……純真な子供の言葉って、胸に痛いわね。そう見える?」

 ゼロは頷く。

「……そう。ま、いっか。と、とにかく。先に行きすぎちゃダメ。いざというときファランがカバーできない距離にいたら絶対ダメよ。私ら軽装の人間なんて、オークの槍でも死ぬんだからね」

 神妙な顔で、ゼロは頷いた。

「わかった! 次からはファランと付かず離れず行動する!」

「極端ね!?」

 ルミナは思わず驚く。

「いいじゃん、どっちでも。ほら、ルミナ、ここで待っとこう」

「あなた何様よ……」

「わたくし様! なんちゃって!」

「調子狂うわね、ホント」

 少しだけ微笑んで、ルミナは言った。両親が死んだ子供とは思えないほど、明るい。カラ元気だとしても嬉しかった。

「おーい、二人とも、そんな先に行くなよぉ!」

「うるさい! もう少しチャキチャキ歩きなさい!」

「無茶言うなよ……どう考えても無理だろ。これ着てるだけでもすげぇのに」

「へえ、それそんなにすごい鎧だったの? てっきり鉄塊かと」

「もう何度目だよそれ……」

「冗談よ。まぁそりゃこんな豪華なゴチャゴチャしてるの着れればすごいでしょうよ」

「そうだろそうだろ……あれ? 褒められてる気がしない?」

「褒めてないもの」

 ルミナは笑って、ファランと並んで歩く。

「ほー……」

 時々荒っぽいやりとりをしながらも仲良く? 歩く二人の姿こそ冒険者なんだ、とある意味で悲しい勘違いをしていた。

「てかさ、ルミナ。これこなしたとして、あと千Gどうやって稼ぐ?」

 む、とルミナは唸った。

「確かに。依頼こなすんだったら、私の準備にお金がかかるし、もっと稼がなきゃ。あーあ、手っ取り早く稼げないかなぁ。こう、ドーン! と一攫千金」

「あのなぁ。ドラゴンの宝物庫を漁りゃいけるだろうけど、ゴブリンの巣じゃせいぜい百G程度の宝石だろ」

「それすらあるか怪しいよね?」

 ゼロの辟易したような表情に、二人は頷く。

「はぁ。多分マスターのことだから待ってはくれないだろうなぁ」

「というかツケで許してくれたのが驚きよ。ファランの信用がありすぎて引くわ」

 本来、冒険者にツケ払いはできない。ちょっとしたことで死ぬからだ。荒れくれが多いため踏み倒すバカも出てくる可能性もある。

「正直、担保に私かゼロかが要求されなかったのが不思議なくらい」

「まぁ、俺人望あるし」

「妄想……でもないからこうしてゴブリンの巣、目指してるのよねぇ」

「ルミナ、担保ってどういうこと?」

「なんでそういうとこだけ子供なのかしらね?」

「私子供だよ?」

「子供はエール三十杯も飲めないわよ」

「あれくらい軽いよ?」

「もし私らが倒れなかったらずっと飲み続けてたんだと思うとゾッとするわ。代金的な意味でね」

 ゼロは苦笑で返した。

「あんたの飲み代は冗談にならないから。次から十杯以上飲んじゃだめよ?」

「え~っ!?」

「え、じゃない! これ以上うだうだ言うならウォーターぶつけるわよ!?」

 ルミナが言うと、ゼロは不満そうに頷いた。

「けちんぼ」

「ケチで結構! さ、行くわよ」

 はーい、とゼロは打って変わって元気に頷いた。

「……ふうん」

 ファランの表情は、兜に隠れてわからなかった。

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