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ファンタジックな冒険譚  作者: コノハ
目指せゴブリン洞窟!
5/13

覚悟を問う!

 ルミナが再び目を覚ますと、心配そうに自分を見つめるゼロとファランが目に入る。ファランは鎧を脱いでおり、その野性味溢れる顔が露わになっている。茶髪に茶色の瞳の、黙っていれば美男子に見えるほどの顔ではある。体つきも引き締まって筋肉質ではあるが、がっしりとした印象はあまり受けない。

「……ゼ、ロ」

「ルミナ! よかった、よかった! ルミナ、一度死にかけて……本当に心配したんだから!」

 ガバリ、とゼロがルミナに抱きつくと、ぐ、と彼女はうめき声を上げた。

「ゼロ、き、傷口、当たってる」

「え? あっ! ご、ごめんなさい」

 バッとゼロはとびのくと、申し訳なさそうに頭を下げた。

「いいのよ。それで、ファラン、連中どうなった?」

 二人の様子を微笑ましそうに眺めていたファランは、頷いてから

「やっぱあいつら奴隷商人でな、誘拐と殺人の未遂で憲兵に連れていかれたよ」

「ふうん。で、憲兵はなんか言ってた?」

「これからもゼロをよろしくだとさ」

「なんて答えたの?」

「任せろって」

「は? 私らじゃゼロを養えないからギルドに行ったんでしょうが。もう忘れたの? まあ記憶容量小さいから仕方ないのかしらね。じゃあ説明するけど、私たちは」

「いらねぇよ。バカにしてんのか?」

「うん」

「即答かよ!?」

「ためらってほしかった?」

「そもそも言わないで欲しかった」

「それは無理な相談ってやつよ。で? ちゃんとした理由を詳しく報告してちょうだい」

 ルミナが問い詰めると、ファランはため息をついた。

「まず、この国では、というかもうフォリナ族を保護できる国はないらしい」

「なんでよ?」

「ナナイが説明した理由だよ」

「フォリナ族らしいフォリナ族、ってやつ?」

 おう、とファランは頷いた。

「フォリナ族らしい、ねぇ。フォリナ族らしいフォリナ族がいなくなったら何か問題があるのかしら?」

「ああ。新しい土地を見つけるヤツがいなくなる」

「他の類人種がやりゃいいじゃん」

「冒険者ができてから新しい土地は見つかってないな」

 ぐ、とルミナは押し黙った。確かに類人種がフォリナ族の真似事をしたことがあったが、そのどれもがうまくいかなかった。ひたすら荒野を彷徨って見つけたのは新しい種類の木のみ。それだけでも、人間にとっては快挙だったわけだが。

「まぁ、わかったわ」

「そして次に、もしゼロを他の冒険者パーティに加えるとしても、だ。なんだ、その、他の奴らは……なぁ?」

「……その先の説明はいいわ」

 ルミナは呆れたように首をふった。

 冒険者は職業の性質上、力がいる。子供の頃から力にモノを言わせてきたような連中ばかりが、冒険者となる。ルミナやファランのように、魔法使いや、腕力に自信のない男が冒険者をしていることの方が珍しいのだ。

 そんなむくつけき男の多い彼らは素行もお世辞にもよいとは言えず、街に暮らす人の中には、彼らを蛮族と称する者もいるくらいだ。中には自ら名乗る者もいる。まぁ、つまり。多くの冒険者は女に飢えているのだ。故に、身近に女性がいるルミナのパーティには、駆け出しであるにも関わらずパーティへの加入希望が異常に多い。欲望が透けて見える応募全てを『ふざけんな私は娼婦じゃない女とヤりたきゃ娼館行け!』と切り捨てたのは無理からぬことだろう。そんなルミナが、冒険者に紳士的な態度云々を要求するのは絶望的であると思うのは無理からぬことだろう。

「正直、あの場にいた連中のほとんどが『俺が俺らが』と言い始めた瞬間、『あ、ダメだこいつら早く始末しないと』って思ったよ」

「マジで?」

「おう、マジマジ。びっくりしたよ。じゃあ、ゼロの引き取り手を探さなきゃ、って俺がつぶやいたときからゼロに襲いかからんばかりの勢いで、な」

「指一本触れさせなかったでしょうね?」

「当たり前! 欲望の被害者にゃさせねえぜ!」

 ふふふ、とルミナは安心したように笑った。

「ほんと、あんたのガードだけは、信用してるんだから」

「いや、もっとあるだろ信用するとこ」

「ああ、それと脳筋であることも確信してるわ」

「そこはもう綺麗さっぱり忘れろよ」

「ごめん、それ無理」

 はぁ、とファランはため息をついた。

「で、次の理由なんだけどな」

「だけど?」

「お前だよ、お前」

「……は?」

 わけがわからず、ルミナは首をかしげる。

「は? じゃねえよ。お前母親かってくらい保護者してたじゃねえか」

「あ、あれは! あれはゼロの幸せを願っただけで、他に意味なんて……」

「その願っただけができたのは、あの場で俺らだけだったんだよ。憲兵から直々に『え?なんで養わないの?』とか言われたんだよ。ナナイも俺ら以外に適任はいないとか言い出すし」

「さっきからナナイナナイと、えらく親しげね?」

「は? こんなもんだろ」

 あっさりと言ってのけたファランに、ルミナは嫉妬やら憎しみやらで怒りのビートを上げていく。

「で? 人気者のファランさん、続きをお願い」

「俺は人気者とかじゃないって。それで最後の理由、っていうか、正直他の理由はどうでもよくて、これが一番重要なんだが」

「前置きはいいわ。スパッと言いなさい」

「ゼロが俺たちと一緒に行きたいんだとよ」

 ルミナが、動きを止めた。ファランの隣で様子を見守っていた彼女を見る。

「よろしくお願いします!」

 並々ならぬ覚悟を秘めた瞳をルミナに向けたあと、ゼロは頭を下げた。

「ゼロこそいいの? 私ら駆け出しよ?」

「それでも、いい」

「この際だから言っとくけど、ロクな死に方できないわよ?」

「ルミナと一緒だもんな。そりゃできねぇわ」

「サンダーブレスぶつけるわよ」

「吐けるのかよ」

「吐けなくても擬似的なのはなんとかなるわ」

「なんとかなるのかよ」

「魔法なめんな。

 ……まあ、とにかく、女所帯のパーティとかほんっとうにロクな死に方できないからね? 超有名な女冒険者カーシャだって、最期は悲惨極まりなかったし。

 とりあえず、ベッドの上で死ねるとは思わないことね」

「死ぬこと、決定なの?」

 ゼロが聞くと、ルミナは頷いた。その表情は、覚悟したものにしかできない笑顔だった。

「当たり前じゃない! 私だって多分二十歳にはなれないわね」

「今いくつ?」

「今十五。さ、どうする? 本当に私らのところでいいのね?」

「だって、私のことを考えてくれた人って、あなた方だけだから。それに、私、たとえ死んでも、二人と一緒にいたい!」

 ゼロが言うと、ルミナはため息をついた。

「じゃあね、あなた戦えるの?」

「ゼロはスカウト中級だぞ」

「は?」

 世界には様々な冒険者の区分があり所持するだなら誰でもできる。が、ギルドで試験を受けることで位を上げることができるのだ。初級の位を認定されるだけでも、かなりの努力を要する。ルミナはソーサラー初級を得るために四年を魔法学校で過ごし、ファランはガードナー初級を得るために五年を騎士学校で費やした。初級持ちの冒険者パーティが三人以上いるパーティは、中堅クラスの実力があると周りからは見なされる。

「正直、同期の誰よりもスカウトに関しては有能だぜ」

「うっさい! 事実はどうあれ、私はゼロに聞いてるの! 脳筋は黙ってて!」

「ひでえ言い様だな」

「ゼロ、どうなの?」

 ルミナの華麗な無視に、ファランはがっくりと肩を落とした。

「……私、罠を見つけるのと、野宿は得意だよ。剣だって、これしか使えないけど戦えるよ。……私を仲間にしなかったら、スカウトする人いないでしょ? 私、お買い得だと思うよ?」

 ルミナはしばらく悩んだ。

「再三確認するけど、死ぬ覚悟はあるのよね?」

「もちろん。いつかパパとママみたいな死に方するんだとしても、きっと二人と一緒だったら楽しいと思うから」

 ふむ、とルミナはつぶやいた。

「オッケー。わかったわ。

 あなたは今日からルミナ冒険団の仲間! さあ、酒場に繰り出すわよ、入団祝いよ!」

 ルミナは立ち上がろうとして、呻いた。

「いっ」

「まだ動くなよ」

「なんのっ! 我に神なる奇跡の形代を! 『治癒』!」

 ルミナが叫ぶと、彼女の体が光輝く。輝きがなくなると、ルミナの体はすっかり治っていた。

「うし!」

「お前回復魔法使えたの?」

「かけられた魔法を増幅する魔法よ。基本よ基本。魔法って敵を吹っ飛ばす以外にも使い道山ほどあるのよ?」

「じゃあなんでお前吹っ飛ばすしか使わな……ああ。俺が脳筋ならお前魔力バカか」

 ぶちぃっ!

 それはルミナの堪忍袋の緒が切れた音であり、魔力にモノを言わせた風によってファランが床に叩きつけられた音であった。

「次その罵倒を口にしてご覧なさい、クリエイトソードであんたの脳天、地面に磔てやるわ」

「り、理不尽だ……」

 二人のそんなやりとりを、オロオロとした様子で見守るゼロだった。

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