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ファンタジックな冒険譚  作者: コノハ
目指せゴブリン洞窟!
13/13

回復のゼロ

「……二時間、か」

 ファランはダンタリアンとゼロがいる部屋の扉を見つめながら言った。

 あれからエレナが帰ってきてから、三人は話しながらゼロの治療が終わるのを待っていた。

「詳しい過程は教えてもらってないけど、逆鱗を移植するのって大変なんでしょう。エレナ、よく逆鱗を渡すって決めたわね」

 ルミナはそう言ってにっこりと微笑んだ。

「ううん。これでゼロが元気になるんなら、安いものよ」

「ふふふ、言うわね。結婚したかったら逆鱗を渡すってルールを壊しちゃいなさいよ」

「え?」

 ルミナの言葉に、エレナは目を丸くする。

「世界最強が、大人しく竜族の枠組みにハマってるんじゃないわよ。人ってのはワガママから進歩していくんだから」

 そうにっこり笑うルミナは、エレナの瞳にはどう映ったのか、エレナは目を輝かせて頷いた。

「こら。ルミナ、エレナを暴竜にしようとするな」

「はっ。結婚のルールなんて当人同士が納得してりゃそれでいいのよ。心までルールで縛ることなんてできっこないわ」

「あのな、だからってルールをぶっ壊せってのはおかしいだろ?」

「あんたのおかしさには負けるわ」

「お前何言うのも俺をバカにしなきゃ済まねぇのか!?」

「あら、脳筋のくせによくわかったわね」

「むかつく!」

 クスクス、とその様子をエレナが笑う。

「エレナも笑うなよ! 見世物とか漫才やってんじゃねぇよ!」

「で、でも、おかしくて」

「まぁ、ファランの顔見たら誰だって笑いたくなるわね」

「お前なぁっ!」

 ルミナは肩を竦めてファランの怒声をやり過ごす。

「どうどう、ファラン。いい男が台なしよ?」

 エレナはひとしきり笑うと、頭を撫でてファランをなだめる。

「ん……なんかくすぐったいな」

 意外なことに、ファランは何もいわなかった。ルミナは面白くなさそうに、顔をしかめさせた。

「デレデレしちゃって。鼻の下伸び過ぎて馬みたい」

「うるせぇぞルミナ」

 と、いつもの調子で話していたとき、部屋の扉が開いて、ダンタリアンが出てきた。

「お前らさっきまでの緊張感はどこいったのじゃ?」

「ゼロが助かるってわかった瞬間から緊張感なんて意味のないものは死にました。で、ダンタリアン様、ゼロの様子はどうなんですか?」

 ダンタリアンは微笑むと、部屋の扉から退いた。次の瞬間。

「ジャーーン! 復活、ゼロ!」

 元気良く飛び出して、ゼロはサムズアップしてみせた。もうさっきまでの病人然とした雰囲気は微塵も感じられない。

「迷惑かけてごめん、みんな。エレナ、逆鱗くれてありがとう!」

 にっこりと、太陽のように笑ってゼロは言った。

「気にしないで。……仲間でしょ?」

 ゼロはさらに笑みを深くして……感極まったのか、エレナに抱きついた。

「きゃっ」

 エレナはなんとか抱きとめる。

「エレナ、仲間って言ってくれた! 魔法かけられてたって言ってたから魔法がとけちゃったら遠くに行っちゃうのかと……」

 ゼロの背を、エレナは優しく撫でる。

「私はどこにもいかないわ。あなたたちの仲間だからね」

「うん、私も一緒!」

 撫でるだけでは足りないと感じたのか、エレナはゼロを抱きしめ返した。

「……やっぱ、ゼロには笑顔が似合うな」

 ファランは隣のルミナに話す。

「ま、それには同意ね。エレナも、笑ってる方が可愛いわ」

 ふふふ、とファランとルミナの二人で微笑み合う。まるでそれは仲のよい夫婦のようで。

「竜王様」

 その雰囲気に水を差すように、ブルーメが魔道エレベーターから皆のいる部屋に入ってきた。

「ブルーメ、どうしたの?」

「王が会談の場を設けさせてくださいと懇願しております」

 エレナはゼロを抱きしめたまま悩んだ。その様子に、ファランとルミナはこめかみを引きつらせた。

 王様から会談を頼まれて、それを引き受けるかどうかを悩む。そのようなこと、ロードドラゴンでなければ許されないだろう。

「お断りして。それからブルーメ、若い竜達の引き上げは終わった?」

 それが、とブルーメは苦い顔をした。

「それが、ルールだの規則だの言って、引き上げができません。申し訳ありません」

「ただの一人も?」

 ブルーメは頷いた。

「そう……。残念ね。あなたならできると思ったんだけど」

 そのセリフは、ブルーメの心をかき乱すには十分だった。怒るでも叱るでもなく、失望された。そのことがなによりショックだった。

「竜王様、しかし老竜様方に関しては、竜王様の一言で城を立つ準備が整っております」

 その報告を聞いて、エレナは顔をほころばせた。

「あら、いい知らせがあるじゃない。隠しちゃって、いじわるね」

「しかし、命令を達成できなかったのは事実です」

「細かいことはいいじゃない。若い竜だけできなかったってことはあなたには荷が重過ぎたことだったってことよ。やっぱり王様とお話しなければいけないわね。若い竜たちを人の手から離さないと」

 そう言うと、ブルーメは深くお辞儀をした。

「ねぇ、エレナ、今から王様と話すんだよね?」

 ルミナが口を開いた。

「ええ」

「その話し合い如何によっては、この国から竜が消える?」

「と、いうよりは、国は許してあげますからさようならしましょう、というお話をしにいくの」

「……この国、国防の九割を竜に頼ってるって話なんだけど」

「あら、それなら竜に対する保護をもっと厚くするべきよね。国防の九割がどうでもいいと思っていたから、私は囚われたのだと思うわ」

 ルミナは肩を竦めた。

「それはそうね。もし国を焼くことになっても私の家族は焼かないでね」

「なんでルミナの家族を焼くのよ。焼くのだとしたら国王とあの菜園伯爵とかいう人間だけよ」

 穏便な対応に、ルミナは内心で胸を撫で下ろした。

「ね、ルミナ達は王様に会う? 普段偉そうにしてる人が慌てふためく様って、きっと面白いよ?」

 ピク、とルミナの耳が僅かに動いた。

「行くわ」

「あの誘い文句で行くとか正気かお前!?」

「当たり前よ。王様の土下座とか見れるんなら大枚はたいてでも見たいわ」

「お前、嗜虐趣味もいい加減にしないといつか捕まるぞ?」

「ふふふ、牢屋の中は無法地帯よ、牢屋の女王になってやるわ」

「こいつ末期だ……」

 ゼロは会話の意味がいまいちよくわかっていないのか、エレナに抱きついたままポカンとしていた。

「ゼロも来る?」

「うん! みんなが行くなら!」

「よし、じゃあ決まりね。ブルーメ、みんな行くって」

「おいエレナ、俺はまだ行くとは」

「さ、行かないの、ファラン」

「いや、行かないとも言ってないけど」

 もう、とエレナは頬を膨らませた。

「優柔不断ねぇ。ルミナ、行きましょう。

 ファランを連れて」

 エレナはゼロと手を繋いで姉妹のように魔道エレベーターに乗って、次の瞬間には消えていた。

 ガッテン承知、とルミナはファランの首根っこを掴んで引きずった。

「ちょっ、ちょっと待て、よ、よろ、鎧」

「王様に会うのにガチガチに武装したら失礼じゃない!」

「お前の動機の方がよっぽど失礼だっ! 不敬罪で処刑されるぞ!?」

「最悪この国から敬う対象が燃えてなくなるから問題なしよ!」

「あるに決まってんだろ! ちょっ、おい、離せ、これで俺ら指名手配とかされたらどうすんだよ!?」

「そのときは夜逃げよ」

「即決だなおい!」

「ごちゃごちゃいわず、ついてこい!」

「ついてきて欲しいなら引きずるなよ!」

 ルミナとファランは騒ぎながらも魔道エレベーターに乗った。

 あとには、ブルーメとダンタリアンが残される。

「……竜王様、笑っておられた。ここに戻ってこられた時とは、大きく違っていらっしゃる」

「まぁ、ファランの周りは自然に笑顔が増えるからのぉ」

「何かの力ですか?」

 ダンタリアンは笑った。

「まさか。ヤツにはなんの特殊能力もないわ」

「あのルミナという人間も、なかなか性質が竜王様に似ている」

「それはSっ気たっぷりという意味かの?」

 ブルーメは肩を竦めた。

「あの娘っ子……ゼロと言ったか。強い娘じゃ」

「確かに、竜王様をお守りできるほどとは」

「そういう意味じゃなくてじゃの、心の方じゃ」

「心?」

「あやつらには言わんかったがの、逆鱗移植を公にできない理由がもう一つあるのじゃよ」

「……と、言うと?」

「流れ込んでくる竜の魔力に心を任せてしまうと、竜型の魔物になるんじゃ」

 その言葉を、ブルーメは聞き逃さなかった。

「魔物?」

「そうじゃ。ドラゴンに似通ってはいるが魔物。周囲に死を振りまく化物じゃ」

「ダンタリアンさんは、魔物発生の過程を、ご存知なので?」

 ダンタリアンは低く笑った。

「フォッフォッフォ。知らんよ知らん。この凡骨が魔物発生の過程など、解明できるわけがなかろうて」

「……もしあのフォリナ族が魔物になったら、どうするつもりだったので?」

「ワシの術が失敗し、娘っ子は命を落とした。そう報告するだけじゃ」

 なんの感情も感じさせない声で、ダンタリアンは言う。

「……ありがとうございました。このこと、他言は致しません」

「ワシが邪魔になったら、好きに言いふらすといい。ではな、青き竜よ」

 ぺこりと頭を下げ、ブルーメは魔道エレベーターに入った。

「……あ~。娘っ子の治療代請求するの忘れとった。まぁ、今度来た時にでも言えばよかろうて……」

 ダンタリアンはそう言って、ハゲきった頭をぽりぽりとかいた。

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