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ファンタジックな冒険譚  作者: コノハ
目指せゴブリン洞窟!
1/13

side:phalan 始まりは一つの誓いから

――人間は、新たな土地を見つける力を失った。

フィメール教聖典第三章より―― 


 今から、数年前。町のはずれで、ぼくとかのじょがむかいあっていた。


「ルミナ、またあおうな」

「うん、ファラン、またあおうね」


 そういいつつも、ぼくたちはもう会えないだろうということをうすうす感じていた。ぼくは『きぞく』。いなかの『りょうしゅ』というとってもよくわからないみぶんだけど、『きぞく』じゃないルミナとおとなになってから会えるとは、どうしてもおもえなかった。ルミナの家はのうかの、しかも『したばたらき』だ。ぼくと会うきかいなんて、きせきみたいなものだ。


 ルミナはかしこいから、バカなぼくよりもぼくたちのみらいがわかっているのだろうけど。


「なあ」


 うなだれるルミナのかたを、ポンとつかんだ。


「ぼく、いつか『ぼうけんしゃ』になりたいんだ」


 二人で読んだぼうけんしゃのものがたり。あこがれとともにうかんでくる小さなきぼう。

 ――きみといっしょにいれるなら、ぼくはなんでもすてられる。

 そんなきもちをつたえるために、ぼくは言ったんだ。


「……きぞくなのに?」


 ルミナは、ふしぎそうだった。それもそうか。だってぼく、けっこう『きぞく』だっていうこと、じまんしていたもの。


「それでもなりたい。ねえ、ルミナ。そのときは――」



 ついてきてくれる?



 ルミナはまんめんのえがおで、うなずいてくれた。ほわりと、むねがあったかくなった。


「やくそくだよ、ファラン、ぜったいぜったい、やくそくだよ」

「うん、やくそく」


 ぼくらはこゆびをからめて、ちかいあった。ルミナのあったかいゆびのかんしょくをあじわっていると、かねの音がぼくをげんじつに引きもどした。


「……いかなきゃ」


 するりとこゆびをはなし、きびすを返してぼくははしりだした。ふりかえりたかったけど、ふりかえったりはしなかった。



「やくそく、だよ」



 かすかに、そんなこえがきこえたようなきがした。


                                 

 時は進み、現在。 


 守ることを徹底した。だってあいつは女の子だから。だから俺が守ってやらなきゃ。そう思ってた。

 思ってんだよ……。


 あんなに強くなってるなんて、思わなかったんだ。


 見渡す限りの草原を、俺と、十六歳の少女が歩いている。少女、とは言ったもののメットに隠れているせいで隣にいるルミナのことはほとんど、っていうか全く見えないんだけれども。ついさっき見たルミナの服装は、全国で通じる身分証である魔法使い装束に、少しの魔力を供給する首飾り。たしか『魔力のアミュレット』って言っていたか。とにかくそれだ。とんがり帽子も加わって非常に怪しい。草原でその恰好なんだからなおのこと。ルミナの容姿はかなり美人で、赤い髪に灼熱の瞳が少し色白の肌によく映えている。これで性格と言動が良ければ言うことなしなんだけど、まあ、なんだ。

 対する俺は、ルミナの頭一つ文ほど背が高く、外観は一目見ただけではわからない。というのも、俺が全身を覆う金属鎧を着ているせいだ。蒸れ防止のインナーも着ているがそれでも暑く、正直茹だりそうだ。まあ、着てなきゃいけないっていうのはわかっているのだけれども。

 俺は移動能力を犠牲に絶大な防御力を誇っており、特に胸部と頭部には装甲がより厚く作られている。そして襟や縁の部分には金の装飾が施されており、非常に高価なものであるということはたぶん、誰の目にも明らかだろう。あんまりこういう目立つの好きじゃないんだけど。

 重さも相当なものだが、俺は普通に歩けている。俺の手には槍があり、右手にはまるで城壁の装甲板と見まごうかというほどの巨大で強靭なタワーシールドを持っている。むしろこっちが主兵装なのは秘密だ。頭上からこいつを振りおろせば、なかなかの破壊力になる。槍はそれを悟らせないための飾りみたいなもんだ。

 で、俺とルミナの二人だけの冒険者パーティは、依頼を受けてゴブリンの住む洞窟まで向かっているわけだ。だが、かれこれ歩いて数時間。さすがに疲れてきた。金がないからって馬車すら借りなかった相棒、というか団長を睨む。というか二人しかいないのに『団長』ってなんだよ。

「なあ、あとどれくらい?」

 甲冑の中で自分の声が響く。きっとかなりくぐもった感じになっているだろう。

「さあ。それくらい自分で数えたら? いちいち私に聞かないでよ」

「冷えな! そもそも依頼内容完璧に把握してるのルミナだけじゃねえか!」

 相変わらずの絶対零度。なぜか楽しそうにルミナは鼻で笑いやがった。

「鎧を買い忘れるなんて一世一代の大バカやらかしたファランの自業自得でしょうが」

 ぐ、と俺は情けない声を上げた。俺は確かに、大ポカやらかした。街で依頼を受けるまで、自身が身を守る鎧を持っていないことを忘れていたのだ。もう買って、鎧の完成形も見届けてすっかり自分のものになったような気がしていて、受け取るのをすっかり忘れていたのだ。鎧を忘れる『ガードナー』なんて後にも先にも俺一人だろうな……。

「だから、それはもういいって言っただろうがお前!」

 だがだからといって理不尽に怒られるいわれはない。もうあれは『いい』とルミナ直々に許しが出たのだ。

「私が我慢してあげてるのよ、何偉そうに言ってんのよ!」

「うるせえな! 俺の防御がなかったら死ぬ癖に!」

「私の魔法がなかったらゴブリン相手に日がくれるまで戦わなきゃいけないくせに偉そうに!」

 ルミナと俺。俺たちは幼馴染でルミナの実家と体の弱かった俺の遠方療法の家が隣同士、そして共に冒険者となると誓う合うほどの関係だというのになぜか馬が合わない。俺は元貴族、ルミナは平民という差こそあれ、俺たちは曲がりなりにも幼少のみぎりからの仲なのだ。俺の病気がよくなってからは、滅多に会わなくなっていたけどな。まぁ、色々あって、こうして何のしがらみにもとらわれずバカやれるようにはなった。

「てか、お前なんで今更ゴブリンの巣を潰すなんて依頼受けてんだよ! 俺らキャリアどれだけあると思ってんだ!?」

「うっさいわねいちいち! きまりだっつんてんだから我慢しなさい!」

「そう言って俺らこのまえ草むしりさせられたんじゃねえか! 何が悲しくて騎士学校首席が人ん家の庭で草むしりしなきゃいけねんだよ!」

「私だってこれでも魔法律学校第二位よ!? 草むしりを喜んでやってたとでも思うわけ!?」

 言い争いをしながらも、俺たちは目的地に向かって歩く。

 そのとき、草原の向こうに変化があった。

「思うね! お前綺麗好きじゃ」

「何よ、綺麗好きで悪いっ」

 口喧嘩の最中で、俺たちは言葉を止めた。そして、草原の向こう、地平線より来る何かに注意を向ける。その何かの速度は決して速くないが、だからといって油断はできない。なんかちっこいな。

「魔物か?」

「はぐれフォリナじゃない?」

「ふざけてる場合か」

 軽口を飛ばし合いながら、俺もルミナも警戒を緩めない。こんな平原で何があるかわからんし、警戒しすぎということはないだろう。俺はルミナの前に出て、盾を構える。周到なルミナのことだ、今頃頭の中ではあの影が敵だった場合唱えるべき呪文を用意してるこったろう。

「……そろそろ見えるぞ」

「見りゃわかるわ」

 だんだん、その何かが大きくなってくる。それにつれて、彼の者が何かであることを判別できるようになってくる。

「……は?」

「ホントに?」

 俺たちはそろって、バカみたいに口を開けて驚いた。

 子供のような背丈、クリクリとした翠の瞳、輝くような蒼色の髪の毛。軽そうで、そして頑丈そうな皮鎧。

 腰には青い水晶体のような珍しい物質でできた短剣……一度だけ見たことがある。あれ、フォリナンダガーだ。伝説の種族フォリナ族だけが持っている短剣で、材質は謎。そして、何よりもその短剣を大事にするのだとか。今ではフォリナ族であることを証明する重要な証拠となっている。その短剣を装備しているということは、この、子どもは……。

「はぁ、はぁ、た、助けて!ま、魔物が! 魔物がパパとママを!」

 伝説の種族、フォリナ族か。少女は俺たちに向かって泣きそうな顔で懇願している。頬には返り血がかかっており、彼女が置かれていた状況が如何に逼迫したものだったかを語っていた。

「魔物?」

「うん! 洞窟を見つけたパパとママが入って言って、遅いなぁって思ってたら、パパとママが魔物に襲われてて! 助けようとしたんだけど私じゃ全然敵わなくて! 早くしないと二人とも死んじゃう! 助けて、お兄さん、お姉さん!」

 ちんまりとした体を目いっぱい使って身振り手振りで逼迫した状況を説明する彼女に、俺たちは顔を見合わせた。

 やべぇ。どうしよう。


 ――未開の地を発見し、そこがどのような場所かを調べたのはいつだって彼らフォリナ族。

 しかし彼らは魔物の登場と共に絶滅の危機に瀕し、現在消え失せようとしていた。


 昔に読んだ冒険譚の一節が、頭に浮かんだ。


 実際、フォリナ族はもはや伝説だ。そして、もうそろそろ書類の中にしかいない存在になろうとしていたんだ。この時、俺とルミナがこの子と出会う前は。


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