序章 彼の現在
はじめに
この作品は、事実に基づきフィクション化された物語である。主人公・髙田弘章の、波乱万丈の生き様を描いたものである。
Tani Eikou
友人に髙田弘章という50歳になる男性がいる。過去はあるが現在独身で、定職に就いていない。
1961年(昭和36年)、福島県で生まれ、今は神奈川県横浜市に居住している。
某一流大学の外国語学部英米語学科卒で、二度の離婚歴をもつ、いわゆるバツ2である。子供は息子が2人いたが、それぞれの親権を相手方に手渡した。お家の五代目としての長男坊であることから、現在市内のマンションに両親と共に同居している。
彼とは英会話学校のクラスメイトとして知り合った。私は会社社長ということもあり、ある程度自由にお金を動かせる立場にあるが、彼は決してそうではない。幸いにマンション住まいであるから、また親愛なる母親が毎度食事を作ってくれるから、食と住という点ではたいへん満たされている。だが決してマザコンではない。しかし、金銭面では非常に不自由し悩んでいた。
彼は常日頃こう言っている。
「私は今、自分の小遣いに関し、たいへん不満で納得がいかない。かつて稼いだ銀行等にある預貯金も、もう底をついてほとんど残ってはいない。でも働かない私が悪いんだ。しかし、どこもなかなか雇ってはくれない。この先どうしよう?」。
従って彼には今、例えば友人と外へ飲みに行くお金すら満足にない。唯一、近場の徒歩5分のところにあるファミリーレストランへのみ一日一回一往復し、ドリンクバーでコーヒーをおかわりし、数杯飲んで帰って来るだけである。
あとはマンションの自室で、テレビを観ているかベッドで寝そべっているか、若しくは彼の趣味であるエッセイ等を机に向かってひたすら執筆しているか、そのいずれかである。
50歳という雇用年齢の壁のようなものもあり、彼はずっと働けずにいたのだが、最近になってようやく派遣の仕事を探し当て、いまは週末を中心に湘南海岸沿いのリゾートホテル周辺にて、レストランや宴会場や披露宴会場でのホールスタッフとして働いてはいるが、その稼ぎは一ヶ月当たり8万円にも満たない。