俺は人気のない小説家
80%実話です。担当さんのくだりも、私の歴代担当さんとの会話を、少し変えたものです。
小説家と聞いて、世間の奴は
「楽な仕事につけてよかったね~」
とかアホなこと言う奴がいる。小説家って、案外しんどいんだぜ。
担当との打ち合わせ。いつも喧嘩ばかり。
「だからこのセリフは消せないって言っているだろ!」
「消さなきゃ話の意味が分からないんですよ!それに、あなたの話には、リアリティーがないんですよ!」
「リアリティー?なら、人殺しのシーンでは人を殺せばいいのか!?だったら殺してきてやるよ!」
「殺せるもんなら殺してきてくださいよ!チキンのくせに!そんなことよりこの分かりづらい話を何とかしてください!」
「わかるだろ!」
「僕が分からないんなら、みんなわかりませんよ!」
「あー、もういい!」
気が付けば、情けなくも泣いていた。悔しさもあるが、自分に対してのイライラがほとんどの原因だ。
本当に嫌になる。
小説家って言っても、雑誌で連載しているだけで、本は出版していない。
ネタが出ない。出ても上手くまとまらない。
「何ですかこの話!メチャクチャじゃないですか!またパチンコに負けて調子が出ないとか言うんですか!」
「うるさい!俺の事何もわかっていないくせに決めつけるな!」
「……誰もわからないですよ。あなたの事なんて」
「…………くそっ!」
パチンコに負けた。
「ざまあみろですね」
「お前担当だろ!」
「遊んでいる方が悪いんですよ」
「……」
アンケート。
「今月は下から2番目です。もっとがんばってください」
「……これでもがんばっているんだよ」
感想。
「『くそつまんねえ』、『早く終われ』、『早く原稿書け』」
「最後のお前だろ!」
しめきり。
「早く書いて下さい」
「うるさい!」
「怒鳴って出来るのなら、どんどん怒鳴ってください」
「……」
イライライライライライライライライライライライライライライライラもう死にたい。
なんか楽に死ねる方法はないだろうか?
銃、薬、リスカ、首つり、飛び降り、いろんな死に方があるか、どれもめんどくさくて楽には死ねなさそうだ。
……今ハマっているドラマがあったな。あれが終わったら死のう。
ドラマが終わって死ねると思ったら、なんと新シリーズ登場。これは見なくちゃならない。死ねなくなったな。
……今ハマっている漫画が終わったら死のう。
漫画が終わった。でも、別の漫画にハマった。また死ねなくなった。
死にたくても心残りが多くて死ねない。イライラする。
俺は、マンションの小さな部屋で、暴れた。気付くと部屋はグチャグチャ。
「……なんでこんな事したんだ」
イライラしすぎて、暴れている時の事はよく覚えていない。
まさに『暴走モード突入!』である。
後悔しつつも、俺は部屋の掃除をする。なんか……凄くみじめな気分だ。
いつものように、某有名牛丼チェーン店の買い、訳の分からない深夜の海外ドラマを見て、ビールを飲みつつ、小説を書く。
そして、たまに電話がかかってくる。
「早く原稿書いて下さい。このクソ小説家」
「あっはっは。お前も深夜のテンションでおかしくなっているな」
「……また飲んでいるのか。このクソ酔っ払い」
「あっはっは」
今月の…。
「今月のファンレター……なんと…5通です!」
「おお……先月より3通も多いじゃないか!」
ファンレターには、『あなたの小説が好きです』、『応援しています』、『がんばってください』、などのありきたりな言葉が書かれている。
本当に、何でもない言葉なのに、こんなに涙が出るのは何故だろう?
俺は、この時が1番、小説家になってよかった、生きててよかったと思えるんだ。
「本当に、単純ですね」
「ああ、俺は単純なのさ」
「…今日は少し雰囲気違いますね。何かあったんですか」
「……俺の小説を、99人が読まなくても、たった1人の読者に読んでもらえばいいんだなって思ってな」
「…僕も、先生の小説、好きですよ」
「…………うっ」
「泣く暇あったら仕事しろ」
「褒めた後にまさかの毒舌!」
イライラするし、人気ないし、死にたくなるけど、もう少し生きてみよう。
自分のために……俺の小説を好きになってくれた、数少ない読者のために。
「ちょっと!原稿はまだですか!あと2時間でしめきりですよ!」
「うるさい!小説家なんてやってられるかーーーーーーーーーー!」
まぁ、たまには嫌になったり、小説家をやめたくなったり、現実逃避してしめきり遅くなるけど…。
読者の皆様、こんなクソ小説家を応援していただきありがとうございます。
これからも、暖かい目で行く末を見守っていただけると、嬉しいです。
皆様、本当にありがとうございます。