異常事態、進みゆく道
今日は、朝からイヤな予感がしていた。いつも通り地下2階へ行き、任務を受けようとした。
が、地下2階に行くと、受付の周りに人だかりができていた。人だかりの中から時々罵声が聞こえる。なだめる声も聞こえてくる。柊は人ごみの中を押し分けて、前に出た。すると、膨大な量の張り紙が貼られていた。一枚一枚の隙間がなく、びっしりと並んでいる。
そのうちの何枚かを読むと、今まで行ってきた任務が書かれていた。柊は目を疑った。解決したはずの任務が未解決扱いになっている。これはどういうことなんだろう。
「みなさん、静かにしてください!」
人ごみの後ろから、大きな声が発せられた。人々が振り返る。黒フードの人が3人いる。声を出したのは真ん中の人だった。
「皆さんも御覧の通り、今まで行ってもらったクリーチャーに関する任務のほとんどが未解決扱いとなっています。納得がいかない人もいるでしょうが、実は、皆さんが任務解決して下さった場所でクリーチャーが異常発生、救助も求められています。原因を突き止めるべく、私たちが調査をしていきます。どうか、今まで通り各任務の遂行、ご協力お願いします。」
そう言われて、大半の人は渋々任務に就いた。一部の人はやっぱり納得がいかないようで、どこかへ行ってしまった。黒フードの3人も、何か話し合ったかと思うとテレポーターでどこかへ行った。
「あ、レイ君、任務未解決になっちゃったみたいだね・・・」
「うん、そうみたいだね・・・」
そこへ、サラがやってきた。一緒にいる二人を見ると、意地悪そうな顔つきになった。
「あらぁ~、お二人ともアツいわね~。今日も一緒なのかしら~」
その「二人」は声をそろえて言った。
「「ち、ちがいますよっっ!」」
何と息が合っていた。サラはますますニヤける。
「あ~ら、息もぴったり」
「そんなぁ・・・からかわないでください」
水瀬が顔を赤らめる。柊も赤い。サラはそんな二人を見て、ぷっと吹き出した。
「ふふっ。それじゃ、二人とも仲良くね~」
そういうと、受付窓口へ歩みだした。からかわれたにせよ、二人はまんざらでもなさそうだ。水瀬は柊と少し話をしてから、任務の準備のために自分の部屋へ戻っていった。
柊は任務を受けようと思い、受付へ言った。受付の女性が、機械に向かって何か話していた。話が終わったらしく、カウンター越しに近づいてきた。しかし、その顔は少し青ざめている。
「あの、柊さん、突然で申し訳ないのですが、助力頂けるでしょうか?」
突然こんな事を言われた柊。一瞬迷ったが、話を聞くことにした。
「実は先ほど、任務の援助要請が来たのです。任務の内容は【ヒト型クリーチャーの討伐】です」
「えっ?ヒト型もいるんですか?」
柊はこれまでの任務で、様々なクリーチャーを相手にしてきた。カエル型、悪魔型、ヘビ型、コウモリ型、ウサギ型、ネコ型、オオカミ型、魚型・・・。一部を除いて、ほとんどが動物の型だった。ヒト型がいるなんて予想もしていなかった。
「ヒト型は厄介で、知能が高いんです。任務に言った方々が苦戦することもあるそうです」
「・・・分かった。援助に行くよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
受付の女性はほっとした。しかし、まだ、何か引っかかっているようだ。
「こちらが地図です。くれぐれも気をつけて下さいね」
女性は、少し不安そうな表情をしていた。柊はお礼を言い、テレポーターを使ってすぐさま目的地へ向かった。場所は森の中。テレポーターで森へ行ったといっても、クリーチャーの侵入を防ぐために森から離れた所に着く。そこから目的地まで行かなければならなかった。
ヒト型はどんな姿をしているんだろう、途中で迷ったりしないんだろうか、などと考えながら、森の中をひたすらに走っていった。途中で他のクリーチャーに遭ったが、もらったハンドガンや、能力を駆使して突破していけた。このハンドガン、弾数が無制限のため、弾切れというものがない。
目的地らしき場所に着いた時、誰もいなかった。周りを見ても、草木が生い茂っているだけだ。
「あれ?場所間違えたかな・・・」
そんな時だ。草の中からガササッと音がした。音の正体が姿を現した。その姿に柊は驚いた。なぜって、そこに小さな男の子がいたからだ。任務に行ったというのは、この子供だったのか?しかも酷い怪我を負っている。柊は駆けつけた。
「だ、大丈・・・」
まだ言い終わらないうちに、腕を後ろに回され、上から押さえつけられた。柊は一瞬何が起こったのか分からなかった。どうやら、はめられたようだ。目の前にいた男の子がすっくと立ち上がる。あれ?さっきまでの傷が・・・・・・・・・消えてる?
「お兄ちゃん、こんにちは」
その無邪気な声が、柊の恐怖心を煽った。しかし、能力でクリーチャーだと分かると、念動力で男の子の腕をねじ曲げた。途端に悲鳴が上がる。
「あああぁぁぁあああぁぁっっっ!!あああぁあっああぁぁああぁぁっっ!!」
他の大人が、子供を一生懸命なだめるような仕草をした。この大人達も、ヒト型のようだ。大人達が柊を睨んでいる。男の子が涙目になって泣き出した。
「い、いたいよぅ、いたいぃぃっ、ひっ、ひくっ、お兄ちゃぁん、ど、どうして、こんな事、するのぉ・・・、ぼ、ぼく、なにもしてないのにぃぃ、ひくっ、えぐっ・・・」
男の子の目からこぼれ落ちる涙を見た柊は、発動していた能力を止めてしまう。男の子のねじ曲がった腕が、一瞬で元に戻った。まるで、本当はゴムでできてるんじゃないかと思うくらいに・・・。クリーチャーだと分かっているのに、攻撃することが出来ない。まるで普通の人を相手にしているかのように・・・。気をつけろって、こういうことだったのか・・・と柊は思った。
「お兄ちゃん、さっきのはぜんぶ、えんぎだよ。でもね、あんしんして。ぼくたち、お兄ちゃんに、なんにもしないから」
さっきまでの出来事が嘘のように、男の子はけろっとしていた。むしろニコニコ笑っている。柊は大人達に捕まったまま、どこかへ連れて行かれた。しばらくは大人しくしていたほうがいいと柊は判断した。その道中、男の子は柊にずっと話かけていた。
「でねっ、おもしろいの。その子がね、こぉんなことして、みんなを笑わせてくれるの」
取り留めのない会話が続いていた。こんな会話をしていると、本当はクリーチャーなんかじゃなくて、ただの子供なんじゃないかと思ってしまう。その話し方や仕草は、ただの人の子供のようにかわいかった。不意に男の子がこんな事を言った。
「お兄ちゃん、あのね、さっきね、こわい人がやってきたの。ぼくがさっき言ったおともだちもね、その人にころされちゃったの」
男の子は突然、うつむいた。
「ころされちゃったの・・・・・・」
そして、全員の動きが止まった。柊は目の前の様子に絶句した。4、5人の人が串刺しにされている。時間はそんなに経っていない。しかも、体の一部が猛獣に食いちぎられたように無くなっていた。柊は吐き気がした。
気分が悪いので、目をそらした柊。そういえば、周りの大人たちはまだ一回も喋っていない。男の子に黙って従っている。
「お兄ちゃん、ぼくたちはどうすればいいの?」
そう言った男の子の瞳は助けを求めていた。柊は男の子の瞳を見つめる。
ピキュィィィィィン
後ろのほうで、大きな音がした。全員が振り返る。男の子が言った。
「え?な、なに?」