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影に潜む道

 どこかの研究所の中の一室で、大きなモニターが映し出されていた。そのモニターの前に、人影がいくらかあった。誰かが言った。


「沢渡サン、研究はどうっスか?」


沢渡と呼ばれた男は言った。見た目34歳で、いかにも科学者らしく、ところどころ緑のかかった白衣を着ている。無精ひげが妙に似合う男前の顔で、肩までの髪を無造作にまとめている。


「はい、問題ないですよ」


別の女性が言った。モニターに映っている人物や、一覧表を見ながら・・・。


「カノン・ツバサはどうかしら」

「同じく、問題ないです」


そこにボスらしき風格を漂わせる男が来た。手に袋を提げている。そして、彼も沢渡にこう言った。


「では、イリス・ウラドはどうだ?」

「同様に、全く問題ないです」


沢渡は質問に答えてはいるが、視線はずっとモニターを見つめている。その顔は無表情だった。モニターには、『柊 レイ』『水瀬 ユキネ』『川原 イチヨウ』・・・等など、人の名前が書かれており、それぞれの写真が表示されていた。ボスらしき男が沢渡に話しかける。部屋の隅にある黄色い液体の入った透明なカプセルが、ボスの目に留まったのだ。

チューブに繋がれたカプセルの中には、ヒトらしき姿が映っていた。肌は白く、髪も白銀色だ。一部の色は違うが、双子と言われても違和感を感じないほど、見た目は柊と瓜二つ。揺らめく髪の下に見える顔は柔らかく、そして少し艶やかに見えた。これでも男である。


「あれも新種か?」

「あぁ、あれですか。おーい、マリア、そこの資料を持ってきてくれないか?」


 マリアと呼ばれた女性は、カプセルの近くの机の上から、分厚い資料を持ってきた。それを沢渡に差し出す。沢渡は一言お礼を言って資料をパラパラめくると、あるページをボスらしき男に見せた。


「キル・ヴィジルさん、これですよ、これ」


キル・ヴィジルと呼ばれたボスらしき男は資料を見た。資料の右下には、「担当者:沢渡コウスケ」と書かれていた。


「イリスのクローンか、なるほど。これは面白い。・・・・・・ナンバー666・・・か」

「名前はまだ決まってません」


突然、誰かが猫なで声を出した。その男は先ほどの女性、マリアのことが気になるようだ。


「ね~ぇ、マリアサン、今夜一緒に食事でもどうっスか?」

「ゴメンナサイ、オキモチハ ウレシイノデスガ・・・。マタコンドニ シテイタダケマスカ?」


 機械のような話し方をしたことよりも、丁寧に断られたことにその男は驚いた。マリアはすまなさそうな顔をした。マリアの髪は灰銀色で胸辺りまで伸びていて、毛先にウェーブがかかっている。瞳は澄んだ蒼。肌は色白で、服装はフリルのついた白いドレス。背中や両肩を覆わないタイプのドレスを着ているが、おしとやかで清楚な女性のような印象を与えている。神秘的な雰囲気を身にまとっており、もしそうでなくてもかなりの美人である。


「あぁ、そうっスか。それは残念っスね」

「ス、スミマセン」

「謝んなくっていいっスよ。それにしても、沢渡サンの孫娘サン、全員美人っスよね。もし、これが生身の人間だったらねぇ。我慢できないっスよ」


 沢渡が男を睨みつける。


「冗談っスよ、冗談」

「オジイサマ、オキニナサラナイデ・・・」


 沢渡をなだめるマリア。男は笑って済ました。どうやら沢渡は、この軽そうな男の行動が気に障るようだ。


「そう言えば、オリビアとアリスはどうしたの?」

「あぁ、まだメンテナンス中です。マリアは早めに終わったのでここにいるんです」


女性の言葉にすぐ応える沢渡。肩をすくめて納得する女性。


「そういや、お前に差し入れを持ってきた。研究ばかりでは疲れるだろう?」


 キル・ヴィジルが、それまで持っていた袋を沢渡に渡した。袋の中を見ると途端に、沢渡の目は子どものようにキラキラと光った。沢渡が顔を上げる。


「こ、こ、こ・・・これって・・・、期間限定のキャラメルプリンじゃないですか!」

「そうだ」

「こ、これを・・・?ボスっ!ありがとうございますっ!」

「あら、もうこんな時間。それじゃ、私たちは戻るわ」


 キル・ヴィジルは、一瞬だけ沢渡を見据えた。彼らが部屋から出ていくと同時に、軽そうな男がマリアにウインクをしたことに沢渡は気付かなかった。沢渡がため息をつく。


「はぁ・・・、キル・ヴィジルさんも隅に置けないなぁ。感づかれたみたいだね」

「ドウナサッタノデスカ?」

「いや、なんでもない。じいさんの独り言だと思ってくれ」

「???」


 そして、沢渡は厳重に閉ざされた棚からブラックリスト一覧表を取り出した。パラパラとめくる。そして、その手を止める。そのページには、『柊 レイ』『水瀬 ユキネ』『川原イチヨウ』・・・等々の名前が載っていた。それ以外のほとんどにはバツ印が付いている。その一覧表の中の空白に、ボールペンで『キル・ヴィジル』と書き加えた。沢渡の口元がつりあがる。

 ピピッと音がしたかと思うとマリアが話しかけてきた。


「タッタイマ、オリビア ト アリス ノ メンテナンスガ オワリマシタ。」

「連絡御苦労さま。もうそろそろ休んでいいよ」

「ハイ、ソウイタシマス。オジイサマ」


 マリアも部屋から出ていった。沢渡はカプセルに近づき、ヒトらしき姿を見た。その視線は酷く冷めている。


「ナンバー666、調子はどうだい?」


 しかし、カプセルの中のヒトらしき姿が返事する様子もない。


「ははっ、喋るわけないか」


 そう低く嘲笑うと、カプセルに手を触れた。そして、ゆっくりとこう言った。


「厄介な存在・・・。私の計画の妨げになるようなら、全て消す。それがお前でも・・・」


 不気味な笑みを浮かべ、彼も部屋を去っていった。

 誰もいなくなった部屋。黄色い液体のカプセルが、暗い部屋の中で異彩を放っていた。その中のヒトらしき姿が目を開けた。真っ赤な瞳。辺りをキョロキョロと見回した。そして正面を見る。夢見るような瞳。


「柊・・・レイ・・・。俺の・・・片割れ・・・・・・会いたいな・・・」


 それだけ言うと、また目を閉じた。その声は、柊にも届いた。

 そのころ、任務遂行中の柊レイの耳に何かが聞こえた。なにか、音が・・・。いや、音じゃない。・・・・・・声だ。


「君は・・・だれ?」


 そう聞いても返事は返ってこなかった。柊は空を見上げた。空を見つめ続けた。あの血のように真っ赤な空を・・・・・・・・・。






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