穏やかな道
次の日がやってきた。柊はベッドから起き上がると、白い部屋からテレポーターで地下2階へ向かった。白い部屋は清潔だけど、どこか無機質な感じがしていた。だから柊は、さまざまなアイテムなどを売っている地下2階で買い物をして、模様替えをしようと思い立ったのだ。
柊は妙にふわふわする感じがした。体がだるいわけではない。水瀬と模様替えグッズを買うというだけなのに、なぜか緊張してしまう・・・。
「まだかな・・・?」
柊は独り言をつぶやいた。そのとき、彼の背中を水瀬の華奢な指が突っついた。
「おはよう、レイ君。」
柊が振りむいたところを、水瀬が言った。柊も挨拶を返す。
「あ、おはよう。水瀬さん。」
目が合い、しばらく見つめ合っていた。そして、お互いに頬を少し紅潮させてしまった。柊は目をそらしてしまう。水瀬もうつむいてしまう。
「そ、それじゃ、行きましょ?」
そう切り出したのは水瀬だった。二人はまず、今いる場所から一番近い家具店へ向かった。何から買おう・・・。でも家具を買った後は、どうやって運ぼう・・・。そんなことが顔に出ていたのか、水瀬が話しかけてきた。
「大丈夫。買った家具はテレポーターで部屋に送れるから。」
「そ、そうなんだ・・・。」
あの白い部屋の中は、ベッドと机以外は何もなかった。キッチンルームもあるけれど、冷蔵庫や包丁などの物は置かれていない。ポイントが多いわけではないので、たくさんは買えないだろう。とりあえず柊は水瀬と一緒に、長い時間家具を見回っていった。そこで椅子を買った。それ以外は、もう少し貯まってからにしよう。
「椅子だけでいいの?」
「あ、うん。ポイントもそんなに多くないし・・・。」
「じゃあ・・・。」
二人はレジに向かった。けれど、誰もいない。その時だ。
「イラッシャイマセ。オカイケイデスカ?」
突然、電子音が聞こえた。どうやらレジといっても、セルフレジのように無人らしい。
が、その「セルフレジ」とも違うようだ。円盤の付いたチューブのような機械が出てきて、商品のうえに止まる。ピピッと音を立てたかと思うと、値段がディスプレイに表示された。600pt・・・。
「画面にカードをかざして。」
言われたとおりに、カードをかざした。ほんの一瞬かざしただけで計算が終わり、そのまま持って帰れるのだそうだ。柊はカードを見た。600ptと書かれている。水瀬は棚を買った。そして、その棚を柊にプレゼントするのだという。
「そ、そんな、受け取れないよ。」
「いいから、いいから。物を片付けるためには必要でしょ?それに・・・・・・。」
「それに・・・?」
「あ、何でもない。いいから、受け取って。」
結局、棚をもらうことになった。水瀬はテレポーターで家具を柊の部屋に送った。テレポーターって便利だなぁと、柊は思った。それからはいろいろなところを回っていった。水瀬が案内してくれた。
「ここが、武器を売ってるところ。いろんな武器があるから、どれか選んでおくといいよ。」
武器屋の店長が顔を出した。武器屋なので、ごつい男店長かと思いきや、活発な女性だった。しゃべり方は男性っぽいが・・・。
「ようよう、らっしゃい。今日もいろんな武器を揃えてんぜよ~!」
「あ、ポイントないんですけど・・・。」
「そんなこたぁ、気にしなさんな。ほらっ、ダガーナイフとハンドガンだよっ。今回はプレゼントさ。次からウチをひいきにしてくれッ!」
柊はダガーナイフとハンドガンを、気前のよい女店長からもらった。
「あ、ありがとうございます・・・。」
「あいよぉ。頑張れよッ!」
戸惑う柊。それを見て、プッと吹き出す水瀬。そのほかにも、いろいろな店があった。いろいろあったけれど、水瀬の案内は無事に終わった。
「歩き回って、疲れたでしょ?」
「うん。どこか休めるところある?」
「ん~、あそこに行こっ。」
水瀬に誘われて、柊はついて行った。そこは休憩所だった。連なっているベンチがあり、その近くに自動販売機があった。これもポイントで払うようだ。水瀬は『紅茶レモンティー』を買った。その後に、ベンチに座り、紅茶を飲み始めた。
「レイ君も飲む?」
そう言って差し出したのは、水瀬の飲みかけの紅茶だった。柊は紅茶を手にした。そして、少しだけ飲んだ。水瀬は、自分の口を付けたものを柊が飲んでいるのを見て、ハッとした。
「ありがとう。」
「あ、う、ううん。い、いいよ・・・。」
柊から紅茶を手にするも、水瀬はうつむいていた。その顔は紅潮している。それに気付いた柊は、ハッとした。『間接キス・・・しちゃった・・・・・・。』。二人は、頭から湯気が出そうな気がした。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
二人は黙り込んでしまった。しばらくの間の後、話を切り出したのは柊だった。
「さ、さっきは・・・なんていうか・・・その・・・ごめん。」
水瀬はふるふると首を横に振った。
「あ、え、えとっ、大丈夫だから・・・。の、のど潤った?」
「う、うん。ありがと。」
それからずっと二人は、他愛のない話を交わした。そうして、時間が流れていった。夜にあたる時間になったとき、二人はさよならをして、お互いの部屋に戻った。部屋に戻った時、その白い部屋に棚と椅子が置かれてあった。柊はそれらを思い通りの場所に置くと、白いベッドに身を投げた。
そして、ボーッとする。柊の心の中には、何かモヤモヤしたものがあった。これが恋って言うのかな・・・。
そっと寝返りを打った。柊は、こんな生活が続いたらいいなぁ・・・と考えていた。
が、しかし、そうはいかないのが現実なのである・・・・・・。