初任務、歩み始めた道
戦闘訓練(?)が終わり、柊とサラの二人は地下2階まで戻っていった。テレポーターを使ったから、あっという間だ。サラは受付窓口らしい場所に行き、何か話していた。柊は、改めて周りを見回していた。ゲームで見たような、『エルフ』『獣人』『小人』・・・。色々な人種がいた。こういう人種はゲームの中だけだと思っていたけれど、本当にいるなんて・・・。そんなことを考えているとき、不意にサラに呼ばれた。
「柊君。疲れてると思うけど、早速任務を受けてもらうわ。」
先ほどサラのいた、窓口まで行った。柊は【 小型クリーチャー 10体討伐 】という任務を受けることとなった。どうやら近くにクリーチャーがいるようだ。任務について、サラが説明してくれた。
「さて、これから地上に出て、クリーチャーを討伐してもらうわ。クリーチャーは、大まかに分けると4種類あるのよ。」
サラが続ける。
「小型クリーチャー、大型クリーチャー、Tクリーチャー、Hクリーチャーの4種類だけど、Tクリーチャーはやっかいなのよね・・・。Hクリーチャーはまだ分かんないわ。」
それ以降の説明はなかった。柊は、先ほどのクリーチャーを思い出した。あの悪魔型クリーチャーは、どの部類に入るんだろう・・・。顔に出ていたのか、サラが答えてくれた。
「さっき相手してもらったのは、小型クリーチャーよ。ま、今回の任務は、悪魔型じゃなくてカエル型よ。あたしはカエル型は苦手だけど・・・。気持ち悪いし・・・。」
サラは、何かイヤな思い出でもあるかのように、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。実は、彼女はその『カエル型』を相手にしたときに、ぬるぬるネバネバした粘膜を全身にかけられた事があった。それ以来、カエル型のクリーチャーの出そうな任務を極力避けているのだ。しかし、今回は柊の案内も含めて、どうしても行かなければならなかった。
「さっ、早く終わらせましょ。ついてきて。」
地下から、地上に出た。その時、柊は地上の様子に絶句した。歩いていくと、地上の悲惨な姿が目に入ってくる。予想よりもずっと酷い。時間的には昼頃らしいが、空は夕焼けのように赤かった。まるで血に染まっているかのように・・・・・・。
あちこちの建物が崩壊しており、苔やその他の植物が、廃墟の一部を包み込むように生い茂っていた。あちこちには、巨大な爪でえぐったような跡があった。見た目通り、完璧に廃墟だ。
「うわわ・・・っ。」
柊はそこら辺に散らばっている小石につまずいた。慌ててバランスを戻す。
「あれぇ?ここのはずなんだけどなぁ・・・?間違えたかしら・・・。」
サラはポケットから地図を取り出し、何度も確認していた。何度もきょろきょろ見回していた。調査隊の目撃情報によれば、ほんの少し広い草原にカエル型が集まっているそうだ。その「ほんの少し広い草原」が、今いる場所なのだが、一向に見当たらない。
「後ろっ!!」
サラが突然声を張り上げた。すぐ後ろへ振り向いた柊は、ぬるぬるネバネバの体液を腕に浴びせられた。ぬるぬる・・・ネバネバ・・・ぬとぬと・・・ピチャピチャ・・・。しかも、思わず鼻を塞ぎたくなるような異臭が・・・。((なんて言うか、納豆とめかぶとカエルの卵を混ぜたような・・・。))
「うわわわぁぁっっ!!」
慌てて腕を振り、柊は情けない声を出した。サラが何か汚いものを見るような顔をした。柊に向かってではない。カエル型に囲まれてしまったからである。カエル型といっても大きさは85センチと、予想より大きかった。色は緑色。サラは気持ち悪いのを我慢して、戦闘を始めた。
「やあぁぁぁっ!!」
サラは二つのサブマシンガンを手に、カエル型を撃って撃って撃ちまくった。しかし、皮膚の粘膜がクッションの代わりを果たし、プルンと銃弾が地面に落ちてしまう。
「こ、こんなのあり・・・!?」
サラは慌てふためいた。柊は、開花させた能力を早速使っていた。次々とカエル型を吹っ飛ばしたり、宙に浮かべて一斉に地面に叩きつけたりしていた。それでも倒れない。かなりしぶとい。一方で、サラは苦戦していた。カエル型に対して、銃ではあまりダメージを与えられないからだ。カエル型の、横に広い口から体液の塊が発射された。間一髪、サラは避けた。
「サラさんッ!!10体じゃなかったんですか!?」
柊が言った。確かに数が多い。10体どころか40体はいそうだ。しかも、中には皮膚など無い、骨だけのやつもいる。骨だけが動くなんて不気味だ。柊も度重なる連続攻撃に疲れが出始めた。
『手伝ってやろっか?』
どこからか声が聞こえてきた。サラには聞こえていないようだ。心の中からの・・・声。
『君の体を借りるよ。』
そう言われた時、一瞬めまいがした。その瞬間から、彼は別人のような瞳を前に向けた。その瞳が赤く光る。目の前にいたカエル型が次々と破裂していった。柊(?)が空を見上げた。まるで昔を懐かしむかのように・・・。
「この空、久しぶりだなぁ。」
カエル型が何体か、後ろから不意打ちしてきた。が、いとも簡単に動きを止められた。柊(?)は振り向いてもいない。
その後カエル型は吹っ飛ばされ、あっという間に全て倒されたのだった。ちなみにサラが倒したのは7体だけ。柊はまた一瞬めまいを感じ、元に戻った。
柊は、彼と入れ替わった時、彼のしていることが手に取るように分かった。それだけではない。先ほどの「敵を破裂させる」という能力の使い方も分かってしまう。忘れていた記憶を取り戻していくかのように・・・・・・。いつの間にか、腕に付いた体液が消えていた。あの異臭も・・・。
「さ、さすがね・・・柊・・・君・・・・・・。」
サラは息が上がっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。こ、このところ、任務を、受けてなかったから・・・。」
そう言うと、サラは大きく深呼吸し、姿勢を持ち直した。
「おっかしいわねぇ、10体と聞いていたのに・・・。ま、とりあえず戻りましょ。」
柊も疲れていたので、とりあえずシェルターに戻ることにした。地下2階へ戻っていき、窓口へ向かった。その時に報酬をもらった。見たことのないカードだった。
「何ですかコレ?」
窓口の女性が丁寧に説明してくれた。
「これはですね、『マネーカード』と言って、通貨・紙幣の代わりに『ポイント』を使います。ここにいらっしゃる方々も全員所持しております。用途としては、お買い物をなさるときや、食事を召されるときなどに使われます。また、ポイントを貯める際には、任務をこなしたり、その他のお仕事をなさったりすることで、評価にあわせたポイントが貯まっていきます。なお、カードの中にはお客様の個人情報が入っておりますので、くれぐれも失くしてしまわないようにお気をつけてください。それではよい日々を・・・。」
一通り説明が終わり、柊は差し出された『マネーカード』を見た。
『1200pt REI HIIRAGI』と書かれている。
「部屋に戻ってらっしゃい。あなたの部屋は、最初にいたあの真っ白な部屋よ。病院の中だと思ってたでしょ?。まぁ、部屋の模様替えは自由よ。それじゃ、お疲れ様。」
労いの声をかけた後、サラは近くにあったテレポーターでどこかへ行った。
言われたとおり、柊は休むことにした。テレポーターで、目覚めたときの部屋に戻った。真っ白な部屋。病院の中かと思ったのに・・・。そこで柊は目を疑った。この部屋のように白いベッドの上に、水瀬がいたのだ。
「お帰り。」
水瀬は無邪気な笑顔を見せた。
「えへへっ。お邪魔しちゃってます。お腹空いたでしょ?」
そう言って、柊に女の子らしい小さなバスケットを差し出した。とたんに、柊のお腹が大きな音を立てた。水瀬はクスッと小さく吹き出した。柊は少し恥ずかしかった。それでも照れくさそうに、
「あ、ありがと。」
と言って、バスケットを手にした。同じように照れくさそうな水瀬。バスケットを開けると、彩りの綺麗な、おいしそうなサンドイッチが詰まっていた。