能力者への道、開く
「そうよ。この子が 柊 レイ。一応能力者みたいだけど、覚醒してないらしくて・・・。どんな力を持ってるか、あたしでもまだ分かんないのよ。」
柊の代わりに、女性が紹介してくれた。その時、柊は、自分が彼女に自己紹介していないことに気が付いた。それなのになぜ、この人は名前を知っているのだろう。大柄な男が柊の顔をまじまじと見つめた。
「おい、ボウズ。戦い方は分かるか?」
いきなりこんなことを聞かれた。なんて言えばいいか分からなかった。その少し焼けた顔からは軽蔑の表情がうっすらと感じてとれた。
「その様子じゃ、戦い方は知らんみてぇだな。俺は ジェレミー・アスラ だ。よろしくな。」
『こんな小僧に何ができるんだ?』とでも言うかのように腕組みをして、すぐさま柊から顔をそらした。そのとき、女性がふと何かを思い出し、柊に向かった。
「あぁ、そうそう、自己紹介忘れてたわ。ごめんごめん。」
そう言って彼女は無邪気な笑みを見せた。
「あたしは サラ・クローズ。遅れちゃったけどよろしくね。」
その後、3人はなにやら青白い光を放つ、魔法陣のような円の中に入った。魔法陣(?)の説明をサラがしてくれた。
「これはテレポーターっていってね、これと同じものがある場所ならどこへでも瞬間移動できるのよ。そういうの『テレポート』っていうけどね。テレポーターはあちこちに点在してるから今度使ってみるといいわ。・・・さて、説明はここまでにして行きましょ。」
テレポーターで向かった先は、最下層地下124階だった。かなり地中深くのはずなのに、とても明るかった。目の前には、『戦闘訓練所』とラベルの貼ってある扉が閉ざされていた。だけどそれ以前に、なぜシェルターが124階もあるのだろうと、今更になって柊は疑問に思った。ここまで復興した技術もすごいけど・・・・・・。
「さてさて、ここよ、ここ。柊君、突然だけど、あなたには『クリーチャー』と戦ってもらうわ。・・・あ、クリーチャーっていうのはね、簡単に言えばモンスターの事ね。」
ジェレミーが扉を開けた。扉の向こうに見えたのは、紛れもなく闘技場だった。半径200メートルほどの広さで、天井も高さ130メートルとかなり高い。
「すごい・・・・・・。」
「感心してる時間はないわ。ほら、あそこよ。あれを倒して。」
サラに指さされた先には、悪魔のような姿をしたモンスター「悪魔型クリーチャー」がいた。黒いコウモリのような翼を持っていて、鋭い眼光は赤く光っていた。翼に限らず全身真っ黒だった。あちこちが鋭く尖っている・・・。見た目まんま悪魔だった。ただ、大きさは少し小さいが・・・。
「あれですか・・・?」
柊が言った。しかし、返事がない。振り向いたら、ジェレミーとサラの姿は消えていた。
「・・・って・・・ぇえっ!?」
柊は取り残されたのだった。戦えとしか言われてないのに・・・・・・。
悪魔型クリーチャーが柊を見つめた。翼をはためかせ、宙に舞う。少しの間をあけ、一直線に柊に向かってきた。柊は避けた。何故か面白いように避けることができた。そして、こちらから一方的に殴ることができた。まるで戦いの際の、動き方を知っているかのように・・・。
一方、その様子を別室のモニターで見ている二人がいた。ジェレミーとサラである。二人は、柊の別人のような動きに見入っていた。
「何だこいつ。ボウズのくせになかなかいい線いってるな。」
「それだけじゃないわ。彼の動き、あの方にすごく似てる・・・・・・。」
「あの方?あぁ、イリス・ウラドか・・・・・・。確かに瓜二つだ。」
彼らの言う「イリス・ウラド」とは、数年前に消えた『最強の能力者』であり、他のメンバー達の憧れであった。ある任務を全うしに行ったのだが、出向いたきり帰ってこなくなってしまった。それでも彼を知る者達は、今も帰りを待ちわびている。
「それにしても、能力はまだ分からんのか?いい加減待ちくたびれたんだが・・・・・・。」
「見て。追いつめられたわ。」
モニターの向こうで、柊は苦戦を強いられていた。逃げ回るのにも疲れが出てきたようだ。悪魔型クリーチャーは、少しずつながらも彼を追い詰めていく。一気に間合いを詰めた悪魔型クリーチャーは、その鋭い爪で柊の肩に傷を負わせた。
「あうぅうあぁぁっ・・・・・・!」
肩に走った激痛に、思わず顔を歪めた。少しずつ痛みが増していく。毒でも入ったのだろうか・・・。
もう一度、悪魔型クリーチャーは腕を上げた。その時だ。
ズオォォォッ
突然、悪魔型クリーチャーは、見えない壁に弾かれたかのように、気持ちいいくらい吹っ飛んでいった。とうとう、柊は自分の能力を開花させたのだ。どうやら彼の能力は、念動力のようだ。能力を発したとき、柊の瞳は、赤い光を帯びていた。
モニターでその瞬間を見ていたジェレミーとサラは、驚きを隠せなかった。
「これって・・・・・・。」
「あぁ、どうやら、イリス・ウラドと同じ能力だったようだな。」
「あの方の・・・能力・・・・・・。」
柊はなぜ「敵」が吹っ飛んでいったのか、一瞬分からなかった。でも、すぐに自分の能力だと気がついた。
悪魔型クリーチャーがもう一度立ち上がる。柊に突進していく。が、またしても弾き飛ばされた。いつの間にか、柊は能力を扱えるようになっていた。この「力」を見ても、柊は驚かなかった。むしろ、前から知っているように感じた。
「これが・・・。なんでこんな・・・・・・懐かしいんだよ・・・?」
柊は、自分の中の不思議な感覚に戸惑った。初めて見たはずなのに、懐かしい。初めて「力」を発動したはずなのに、その「力」を知っている。ここに来たときもそうだ。初めて未来の見知らぬシェルターの中に入ったのに、懐かしい。なぜだか、家の自分の部屋にいるような気分だった。
悪魔型クリーチャーが、また立ち上がった。ブルッと震えたかと思うと、そのまま倒れ込んだ。柊に近づけないまま、どうやらスタミナが切れたようだった。
「はい、ご苦労さん。」
労い(?)の声をかけたのはサラだった。いつの間に・・・?どうやらテレポーターで来たようだ。ジェレミーはいなかった。一足先に戻って行ったらしい。
「あなたの能力は・・・念道力よ。」
「・・・・・・。」
何も答えない柊。なんでか分からないけれど、知ってる。でも、言わなかった。しかし、サラは怪訝そうな顔で言った。彼女の瞳が、赤い光を帯びている。
「『知ってる』って・・・どういう事?さっきまで知らなかったのに?」
「・・・僕にもよく分からないです・・・・・・。初めてなのに、知っているような・・・・・・。」
「・・・・・・まぁ、あなたのような人は、他に何人かいると思うけどね。」
サラが言い終えると同時に、赤みを帯びていた瞳も元に戻った。まったく知らない、初めての感覚・・・。なんともいえない不安が、心の中にはあった。
でも、気にしないことにした。それよりも気になるのは水瀬だ。あの後、どこへ行ったんだろう。柊は、とにかく水瀬のことが気になった。そのときの感情がどんなものか、今の彼には分からなかった。