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Side Street ~約束~

 時は西暦4033年。それはまだこの世に、『イリス・ウラド』と『カノン・ツバサ』の二人がいたときのこと。


「イリス。私、子供が出来たみたい」

「本当に!?良かったじゃないか!」


 二人は恋人同士。『カノン・ツバサ』はその腹の中に子供を宿していた。その子供は宿って2週間目。二人はとても喜んでいた。


「ねぇ、私達の籍はどうするの?」

「1ヵ月後なら空いてるって。そのときに移そう」

「分かったわ。そのときが楽しみね」


 二人は1ヶ月と1週間ほど先に結婚も控えていた。

 そして、二人は籍を移し、無事に結婚することが出来た。このときが二人にとって、一番幸せな時間だったのかもしれない。

 そんな幸せな日々が過ぎ・・・・・・。


「それじゃ、任務に行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 そのころ、彼女に宿っていた子供は4ヶ月。少しお腹が目立っている。

 イリスは任務で、『要人警護』をしていた。その要人というのが、『ケルス・バランダー』。二人は遠く離れた地下のある場所に向かっていたが、その場所までの道のりはクリーチャーが多くとても危険だった。


「イリスさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、このぐらい」


 そうして、やっとのことで目的地に着いた。瞬間移動を使えば早いのだが、このときの目的地はケルス・バランダーしか知らなかった為、彼らは歩いていったのだ。

 目の前の扉を沢渡が開いた。その瞬間、かなり広い円形の、黒い部屋が目に入った。壁には黄色い液体の入ったカプセルがずらりと並んでいた。そこは薄暗く、カプセルの液体が黄色く淡く光っていただけだった。神秘的ではあるが、どこか無機質で恐ろしい雰囲気を晒していた。


「ケルスさん、ここは・・・・・・?」

「ある人物の実験室であり、ここでホムンクルスの製造が行われているのです」

「えっ。じゃあ、この一番大きなカプセルの中は・・・・・・」

「えぇ、天使型のホムンクルスです。見たところまだ子供のようですが」


 ケルス・バランダーは目を薄めた。イリスが問う。


「どうするのですか?」

「このままにする」

「え?」


 イリスは目を丸くした。ホムンクルスの製造は現在禁止されている。本当なら消すべきだが、ケルスはそのつもりはないと答えたのだ。


「何せ、私の計画に必要不可欠な物ですから」


 ケルスが冷たい笑みを浮かべる。イリスは背筋が凍るのを感じた。


「どういうことですか・・・・・・?」


パチン


 ケルスが指を鳴らす。その時、二人の居る部屋に誰かが入ってきた。一人は男。そしてもう一人は縛られた・・・・・・。


「カノン!?」


 縛られていたのは彼の妻カノンだった。妊娠している母体に拘束具があちこちに取り付けられている。男は何も言わない。カノンの縄に縛られた口からは小さな悲鳴がが聞こえてくる。


「妻を離せ!」


 男はニヤリと笑う。嘲るように、冷ややかに。


「フフッ。面影もないですね」


 男の背中に、コウモリのように真っ黒な翼を生やした。それが意味するのは・・・・・・その男は魔王の一人だということ。


ズシュッ


 いやな音が聞こえた。カノンが喘いだ。彼女は一生懸命に抵抗するが、拘束具のせいでなすすべもない。


「やめろぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


 気が付いた時、イリスはその男に向かって駆けだしていた。男はニヤニヤ笑っている。イリスは能力を発揮し、カノンの拘束具を解いた。そして身体能力を大幅に上昇させ、助けに向かう。途端、異常な違和感が生まれ、突然能力が使えなくなってしまった。カノンの手をとり、ケルスと男との間合いを離したイリス。彼は違和感の正体を知っていた


「な、なんでお前がこんな所に?」

「アラーミド_ルシード(久しぶりだね、ルシファー)」


 それは魔界の言葉だった。イリスはカノンの傷口を押さえ、彼女を支えていた。彼女は苦しそうに喘いでいる。このままでいるのは危険だ。しかし、逃げることも出来ない。


「フィラテミロ_ロディール。ナーラ、メイモー(どういうことだ、ロゼッタ。いや、マモン)」

「ケレィシェ_テトーリ_デメキュラシァ(ケルスというこの男が興味深くてさ)」

「何を話してるんだい?」


 ケルスが口を挟む。男はケルスの方へ顔を向けた。


「何でもないですよ。ただの世間話です」

「そうか。では・・・・・・」


 ケルスがイリスとカノンの二人へ歩み寄る。イリスはカノンを守るように、彼女の前へ出た。そして持っていた銃を発砲する。しかし、ケルスは弾をくらっても仰け反るだけだった。ケルスが背中を見せた。イリスがハッとする。そして彼は妻と宿っている子供を守ろうと、包み込むように庇った。

 刹那。


ドシュッ


 イリスとカノンの二人は、体を槍のような物で貫かれた。カノンの目に涙が浮かぶ。


「あ・・・・・・」


 その槍のような物が抜き出された。二人はその場に倒れ込んでしまった。


「ごめ・・・守れ・・・・・・なか・・・た・・・・・・」


 カノンは苦しみに喘ぎながら片手を腹に、もう片手をイリスの手に絡ませた。


「大丈夫・・・・・・また、会える・・・・・・次は・・・幸せな世界で・・・この子と・・・」


 彼女は目を閉じた。もう諦めたかのようだ。イリスの瞳が赤く光っている。


「あぁ・・・次は・・・・・・2037年に・・・・・・会おう・・・その子も・・・」


 イリスがそう言うと、カノンは少し目を開き、嬉しそうに顔を緩ませた。


「えぇ・・・・・・」


 そのまま二人は動かなくなってしまった。悲惨な最期なのに、手を絡めている二人は幸せそうだった。そんな様子を見ている男は言った。見下すように。


「幸せそうですね。本当に欠片もない」


 男は侮蔑の意を込めて言い放した。


「通りすがりの君にこんなことを手伝わせて悪かったね」


 ケルスが労いの言葉を掛ける。


「いえいえ、そんなこ――」



 男がケルスの方へ振り向く瞬間。男の首は血しぶきを上げながら吹っ飛んだ。男の頭が床に落ち、鈍い音が響いた。

 ケルスが手を首にあて、首から顔を引き剥がした。その下から現れたのはケルスではなく、沢渡コウスケだった。床に横たわっている3人を見まわした。そして、カノンの少し目立っている腹を見た。


「子供はまだ生きているのか。・・・・・・いいことを思いついた」


 そう微笑む彼の悪魔のような小さな嗤い声が、部屋中に響いた。

 この時に生きていた胎児が、後の小さな子どもの姿をした『人型クリーチャー』となるのである。






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