夢からの道
真っ暗な世界・・・。片隅に、ほんのり淡い光が瞬いていた。そっと覗いてみると、そこに水瀬がいた。そしてもう一人、男がいる。柊は目を疑った。そこにいたのは、紛れもなく柊自身だったからだ。
『これは・・・?』
突然、光が消えた。そこに現れたのは自分。なんだか感じの違う自分だ。
「やぁ。元気にしていたかい。」
「君は・・・・・・」
『もう一人の柊』は微笑を浮かべる。その表情は少し温かいが、どこかに冷たい影があるように感じた。柊が自分のことを知らないようだと感づいた『もう一人の柊』は言った。
「忘れたのかい?僕は君自身だよ。君は僕であり、僕は君でもある。」
「何言ってるんだ?お前、誰だよ・・・?」
「ふふっ。おもしろいね君は。」
「・・・・・・」
どうして・・・?どうして俺は平然としていられるんだ?ドッペルゲンガーのようなやつが目の前にいるのに・・・・・・。
しばらくの間、柊は黙っていた。それがどういう意味なのかを悟った『もう一人の柊』は言った。
「ちょっと残念だなぁ。まったく気づかないなんて・・・。まぁいいさ。時がくれれば君は、僕と一体になる。」
「え・・・ど・・・どういう事だよ?」
「分かるよ。道が二つに分かれたときに。」
そう言うと、『もう一人の柊』は消えていった。そして、緊張が解けたように、柊は地に膝をついた。ひどい息切れが始まった。また淡い光が、別の場所に現れた。柊はそこへ歩み寄っていった。
「大丈夫?」
目が覚めたとき、真っ先に飛び込んできたのは水瀬だった。
「ん・・・大丈夫だよ。」
柊が言うと、水瀬は安堵した。
「良かった。・・・お帰り。」
「あ・・・うん・・・。」
二人のいる場所は、真っ白な部屋だった。真っ白なベッドの隣に、真っ白な机があるだけの、18畳ほどの個室・・・。どうやら病院の中のようだ。少し暗い表情で、水瀬が質問をぶつけてきた。
「私のこと、覚えてないでしょ?」
柊は、心にナイフを突きつけられたような気がした。柊はそのまま黙っていた。
「そっか。覚えてないのね。仕方ないなぁ・・・。私は水瀬ユキネ。改めてよろしくね。」
水瀬は明るく振る舞った。その表情から、憂いを含んだ哀しそうな影が階間見えた気がした。
「じ・・・じゃぁ・・・・・・行くね・・・。」
水瀬はうつむいたまま、小走りに白い部屋から出て行った。その時にすれ違いで入ってきたのは、金髪の、吸い込まれそうな蒼い目をした女性だった。
「あら、起きたのね。」
「はい。」
彼女は、ベッドの隣の机の上に、食事を用意してくれた。
「さっきの子、泣いていたわよ。男の子が女の子を泣かしちゃダメじゃないの。」
「あ・・・いえ・・・そんなつもりは・・・。」
少しの間があった。先ほどの出来事は今だにのみ込めなかったため、柊は別の話題を切り出した。
「あの、ここってどこですか?」
女性は少し驚いたような顔をした。誰でも知ってるような当たり前のことを知らないの?と、彼女の視線が言っていた。
「あら、ここはシェルターよ。シェルターの地下101階よ。」
今度は柊が驚いてしまった。シェルターは、災害や戦争などが起きたときの避難所としか知らなかった。今時戦争が起きたのだろうか?と女性に聞いてみたら、そうではないようだった。
「・・・何にも知らないのね。言い伝えによれば、2094年に全ての文明という文明が消えて無くなったみたいよ。人類も昔は60億人位いたらしいけど、今じゃあ、全世界で8千万人くらいよ。」
女性の説明も空しく、柊には実感が沸かなかった。
「じゃあ、今は・・・」
「西暦4037年よ。」
その言葉を聞いたとき、柊は夢かと思った。タイムスリップなんてあるはずない。そう思って、ボロボロになったポケットから携帯電話を取り出した。圏外・・・。どうやら本当のことのようだ。
「少し休んだら、廊下に出てね。」
そう言うと女性は、部屋から出て行った。
ガチャ
柊はため息をついた。少し休んでいる間、何もない天井を見つめていた。2時間ぐらいたっただろうか。そのあと、彼は部屋から出た。タイミング良く、先ほどの女性がやってきた。彼が部屋から出る時間を知っていたかのように・・・。
「あたしに付いてきて?」
言われるがままについて行くと、エレベーターに着いた。二人はエレベーターに乗った。向かう先は地下2階。ボタン式ではなく、タッチパネルによって移動しているようだ。3分ぐらいで目的の階に到着した。
シュゥン
静かにドアが開いた。そして降りた時、柊はそのフロアの様子にびっくりした。沢山の店がずらりと並んでいた。目を凝らしてみると、地下なのに2階建てになっている店もあった。ひとフロアのなかに2階建て・・・。見るものすべてが初めてだった。しかも、電光掲示板やネオンのようなものはなく、代わりに超立体映像に変わっていた。あまりにもリアルだったので、実物なのかとどぎまぎしたくらいだった。
「ちょっと休んでくわね。」
そう言うと、彼女は近くにあった販売機へ向かい、カチャンと音をたてて、2本のコーヒーを取り出した。
「ほら、あなたも。」
「あ・・・ありがとう。」
差し出された加糖のコーヒーを手にして、プシッと音を立てた。飲んでみると、少し甘かった。当たり前だが・・・・・・。
「さて、1階に行きましょ。」
近くの階段に足をかけ、上へとのぼった。地下1階に着いたとき、柊の目を捉えたのは、信じられない状況だった。マンガに出るエルフや獣人のような人、あちこちに武装した軍隊、見たこともない武器を抱えている一般人らしき人などがいた。そのフロアは、まるで基地のようだった。二人の横から声が聞こえた。
「お前が新顔か?」
柊は声のしたほうへ振り向いた。そこには2.5メートル程の大剣を背負っている、肌の焼けた大柄な男が立っていた・・・。