決戦、膨れ上がる道
柊、水瀬、ノア・ロード、出月の4人は最下層へ向かっていった。結界が張られているらしく、瞬間移動では進めなかった。そのため、フロアをひとつひとつ降りていかなければならなかった。ぞろぞろと湧いてくるように、『人型機械兵』『戦闘機型機械兵』がやってくる。それらはクリーチャーとは違って生身ではない為、ものすごくしぶとい。おまけに攻撃力も高い。さらに『能力』やその他の攻撃に対抗できるように特殊コーティングがなされ、ある程度のレベルまでは無効化するという耐性のついた、厄介なものだった。
しかし、出月の能力は非常にレベルが高く、次々と破壊していった。他の3人も同じく、能力のレベルは高い。柊は剣撃と銃撃、念動力をうまく組み合わせて次々と破壊し、水瀬は戦いながら回復サポートを施していた。ノア・ロードは柊と同じ念動力と雷の能力を併用し、弱点を確実に突いていった
そうして、中継点に着いた。そこはまったく何も無い部屋だった。あるのは扉だけ。
「一回、ここで休もう」
「えぇ、そうしましょう」
柊が提案し、水瀬が賛同した。ノア・ロードも出月も頷いた。4人は削ったスタミナの回復のために数分だけ休んだ。
☆
川原と花形はボロボロになり、花形はクレアの前で手と膝をついていた。その隣では川原がかろうじて立っている。
「あ~あ、君らもその程度のものかぁ」
対するクレアは服が少々切れていたが、それ以外はまったくの無傷だ。
「新種のクリーチャーといえど、その程度なんだね」
二人はクレアを睨みつけている。二人とも体力を消耗し、汗を流しながら一生懸命にクレアを見据えている。クレアは何かに対して納得したような笑みを浮かべた。
「あぁ、そっか。『ヒトの心』が邪魔をするんだね」
クレアが剣を上に掲げた。
「まぁでも、楽しかったよ。またどこかで会えたらいいね」
そういうと彼は、剣を二人の頭上に振り下ろした。
☆
数分の休みをとり、柊、水瀬、ノア・ロード、出月の4人は次の扉を開いた。その先にあったのは。
「なんだ、ここ・・・・・・」
部屋は円形でかなり広く、そして黒かった。黄色い液体の入ったカプセルが、部屋中の壁にずらりと並んで淡く光り輝き、その一つ一つには誰かが眠っていた。全員が翼の生えた、『天使』。胎児のようにうずくまっているそれらは液体に揺られて、体がわずかに上下している。よく見ると液体だけで、誰も入っていないカプセルがいくつかあった。部屋の中央あたりには、並んでいるカプセルとは比にならないほど大きなカプセルがあり、その中には、とびきり美しい『天使』が眠っている。
水瀬は恐怖に震えた。柊が倒れそうになる水瀬を支えた。
「大丈夫?」
「う、うん・・・・・・」
ノア・ロードはそんな二人を見た。そして、部屋中のカプセルを見渡した。
「こんなところにあったのか。あれから変わってないな」
一つ一つのカプセルに複雑そうな瞳を向けているノア・ロード。その瞳には憂いの色が浮かんでいるように柊は感じた。出月が一番大きなカプセルをじっと見つめていたその時。
「我が部屋にようこそ」
巨大なカプセルの中の『天使』が言った。甘美な響きをもったその声は、静かな部屋の中を駆け巡った。カプセルにひびが入り、破片が飛び散ることなく割れた。黄色い液体が外に流れ出た。ゆっくりと顔を上げ、ゆっくりと目を開いた。瞳も髪も銀色に輝き、肌は透き通るように白い。中性的なその姿は男とも女ともつかない。敵なのに、その神々しさは眩しかった。背中の白い翼が大きく広がった。
「よくここまで来た。我はそのことに賞賛の意を込めよう」
不意にノア・ロードが笑みを浮かべる。その笑みは非常に冷めていた。
「あいつ等から見たら、俺もこんな感じだっただろうな」
そういうと、彼も翼を生やした。カラスのように、真っ黒な翼を。
「傲慢のルシファーか。その姿、もはや魔王ではないな」
「あぁ。俺はもう魔王じゃない。人に近き『魔なる者』だ」
「クフフフ。驚いたよ。かのサタンもベルフェゴールも魔王でなくなった上、『傲慢』なはずのお前までもが魔王の座を降りようとしているとはな」
「まるで始めから知っていたような言い方だな」
「まるでではない。始めからだ」
「俺らのその様子を見ていたんなら、さぞかし滑稽だっただろうな」
「あぁ。滑稽だった」
『天使』の姿をした『強迫観念の魔王』ディーメルトラは、左手をノア・ロードにかざした。刹那、黒い光が掌に収束していき、何かを凝縮したような黒い玉を作り上げた。ノア・ロードがハッとする。
「離れろ!!!」
ズドドドドドドドドドドドドォォォン
4人のいる場所に、突然宙に出現した数多の黒い槍が、連続して放たれた。轟音を響かせて床に次々と刺さる。そして、黒い槍はすぅっと消えていった。
「4人とも無事とはな、いやはや驚くべきことばかりだ」
柊と水瀬は、柊の念動力による瞬間移動で、間合いを空けてディーメルトラの後ろに回りこんでいた。ノア・ロードと出月も同じく、ノア・ロードの瞬間移動で攻撃をかわしていた。
「新種、神玉。この二つさえあれば、私は完全に、世に顕現できる。さぁ、よこせ。よこすがいい」
柊と水瀬に手を差し出すディーメルトラ。
「絶対に渡すんじゃねぇぞ!」
ノア・ロードが叫んだ。
「うるさい奴だ」
ノア・ロードの体が吹っ飛んだ。壁に掛けられているカプセルの一つに打ち付けられ、その衝撃でカプセルが割れた。中にいた天使はすぐに液状になり、床に流れ落ちた。
「ぁあっ!」
悲痛な叫びを上げるノア・ロード。出月が瞳を赤く光らせた。ディーメルトラの肩で爆発が起こったが、ディーメルトラは少し仰け反っただけだった。その後も連続して爆発を起こした。それに伴って煙も大きく広がっていく。しばらくすると凄まじいほどの轟音が鳴り響き、それからは二度と爆発は起きなかった。
「我の手に!我の手に!!我の手に!!!」
突如、煙の中から二人の場所へ手が伸びた。それも急激な速度で。
柊は能力でバリアを作り出し、かろうじて受け止めた。しかし、少しずつバリアにひびが入る。彼はすかさずディーメルトラを吹っ飛ばした。
「クフフファハハハハハハハッ!!!」
煙が晴れ、『天使』はそこにいた。先ほどまでの神々しさは一切消え、その代わりに冷酷な表情を浮かべている。
「面白い。この我に刃向かうか」
本当の最後の決戦が、今始まった―――――――――。