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決戦開始、崩れゆく道

「おじい様・・・どうしてしまったのですか・・・?」


 一人の女性が言った。その質問は、他の二人の女性の質問でもある。


「マリア、オリビア、アリス。3人とも美しく育ってくれたね」

「・・・・・・話をはぐらかさないで」

「だけどそれももう終わりだ。一緒に新世界の一部となって、未来を築いてゆこう」

「おじいちゃん、やめて」


 サラとジェレミーの肉体を繋ぎ合せただけのような醜い化け物が、柊と水瀬を見つめる。その瞳はあまりにも悲しみに溢れていて痛々しい。見るに堪えないものだった。


「きぃぃぇぇええああぁぁぁああああぁあぁぁぁあああぁあぁっ!」


 悲痛な叫び声を上げ、化け物は二人に襲いかかった。二人は応戦する。

 そんな状況を横目に、沢渡は4人と話していた。


「あの二人にも新世界の1ピースになってもらうよ。これはその最後の楽しいイベントと考えればいい。なんて素晴らしい」

「おじい様・・・・・・」

「マリア。ご覧のとおり、私はいつも通りだよ」

「どうして、どうして・・・・・・」


 マリアは顔を両手で覆い、悲しそうに俯いた。オリビアがマリアの背中をさする。アリスが口論をし始めた。


「おじいちゃん、どういうことなの!?」

「新たなる世界を作り上げる。その計画を遂行しようとしているだけだよ」

「命の重さは皆同じなのに!?」

「その命を消しているのは誰でもそうだ。だがそれは同時に感謝も含まれるのだ」


 アリスと一緒に、オリビアも口論をする。


「・・・・・・確かに私たちは他の動物の命をもらって、生きている。でも、これは違う。おじいの計画は一生懸命生きる命を消すだけのもの」

「この私の計画はその『命』を全て、新世界のための一欠片になってもらうだけだよ」

「いや!それじゃ、おじいちゃんと一緒にいられないじゃない!」

「・・・・・・大丈ブ、わタシはオ前タちと、ミらい永ごウともニイるy・・・・・・」


 沢渡の姿が一瞬で消えた。瞬間、アリスが横に大きく吹っ飛び、壁に打ち付けられた。


「おじい、ちゃん・・・・・・?」

「アリス、そこから離れて!」


 マリアが叫ぶ。アリスは壁を蹴って間一髪、大きな衝撃を免れた。


「あぁああぁあ、ジャ魔d、jゃマだ、邪mダ。」


 そこにいた沢渡はもはや沢渡ではなかった。

 頭は『パキケファロサウルス』の頭。

 首は『ブラキオサウルス』の首。

 胴体は『スティラコサウルス』の頭。

 背中は『プテラノドン』の翼。

 右腕は『ティラノサウルス』の頭。

 左手は『アンキロサウルス』の尾。

 足は『ディノニクス』の足。

 尾骨から生えているのは、『ステゴサウルス』の尻尾だった。

 もう人間ではない。クリーチャーなどとも違う。身体も大きい。根本的に全てが違う。

 オリビアがそんな異形な化け物に向かっていく。その時、オリビアの両手の甲から両刃の剣が飛び出した。そして、沢渡だったものの攻撃を間一髪受け止めた。

 しかし威力は凄まじく、直接的な衝撃は防げたものの横に大きく吹っ飛んだ。マリアとアリスも応戦する。彼女らは半機械の身体をもっているため、通常の人よりも強い。おまけに3人とも身体の中には、マリアは銃撃武器、オリビアは斬撃武器、アリスは鉄槌武器を仕込んでいる。それを使って彼女たちは戦っている。

 はた目から見れば、巨大なモンスターとそれに立ち向かう3人の女性だ。だが実質的には祖父と孫の勝負である。


ズシャァァァァアアアッ


 柊と水瀬の方で。

 二人はサラとジェレミーの融合体を倒すことに成功した。水瀬は半分涙目になっている。


「二人がこんな変わり果ててしまうなんて・・・・・・」

「帰ってこなかったのはそういうことだったのか」

「どうして・・・・・・」


 水瀬は柊の腕に額を当て、隠れるように嗚咽を漏らした。柊もまた悲しそうに顔を歪めていた。

 融合体は受けたダメージを回復することはなかった。いや、むしろ『しなかった』。それは誰かの意思がそうさせたかのように。その融合体は仰向けに倒れていた。その顔が二人のいる場所へ向けられる。そして・・・・・・・・・・・・。


「あり・・・・・・がと・・・う・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 口がわずかに動いた。そして、そのまま目を閉じた。二度と融合体の目が覚めることはなかった。


「可哀想な二人だな」


 いつのまにか横にノア・ロードがいた。轟音が隣で響く中、彼は轟音の正体を見やりながら言った。


「あいつは『元』科学者の沢渡コウスケだった。」

「『元』?」

「あぁ、今のあいつに憑いているモノがいる」


 ノア・ロードの目は非常に冷めていた。ちょうどその時。


「がッ、あ、ガがっ、グげ、あ、うグッ」


 沢渡ではない沢渡が突然呻き声を上げた。体中が蠢いたかと思うと、彼は元の姿に戻った。そのまま何かに耐えるようにうずくまると、体中から黒い煙のような『何か』が吹き出てきた。ソレは沢渡の頭上で収束していき、ついにその姿を見せた。見たままの姿を言えば、黒い『闇』の中心に充血した目があるだけとしか形容できない。ソレは言葉を発した。


「馬鹿な。この我を弾き出すなどと」


 沢渡が起き上がる。しかしよろめいている。


「お、お前の、好き勝手にはさせん・・・・・・」

「おじい様!」

「・・・・・・おじい!」

「おじいちゃん!」


 倒れそうになったところをオリビアとアリスが両脇から支えた。どうやら彼は正気に戻ったらしい。全員の目が、沢渡と黒い『闇』に向けられる。


「まさか、これが『愛』というものなのか?」


 沢渡は自分の体を支えてくれている3人の孫娘に言った。その言葉は孫を愛する祖父の、愛情に溢れた優しさがかなり伝わってくる。


「お前たち、すまない。私の心が弱かったばかりに・・・・・・」

「おじい様が戻ってきてくださった。それだけでも私は嬉しいですっ」

「・・・・・・おじい、よかった」

「おじいちゃん、お帰りなさいっ」


 3人は『本当の』祖父が戻ってきてくれたことに嬉しさを隠せず、泣きながら本当の意味での『再開』を喜んでいた。しかし、それもつかの間。『闇』の声が、すべて現実に引き戻した。


「我の計画は、まだ潰えていない。まだ、動ける。そして、我は遂行せねばならない。計画を」

「やっと本性を現したな」


 声を発したのはノア・ロードだった。彼は確信に満ちた表情でこう言った。


「俺らのような、『憤怒』『傲慢』『怠惰』『貪欲』『淫乱』『暴食』『嫉妬』の魔王の他にも、似たようなのがいたとはね」

「うぬらと一緒にするな。我は新魔王の一人、『強迫観念』のディーメルトラ」

「『一人』ということは、他にもいるんだな」

「そうだ。だが、奴等は未だに眠りこけている」


 少しの時間を空け、『闇』は言い放った。


「我の計画を終わらせたければ、地下の最下層に来い。そこの小娘は必ず来い」


 『闇』は水瀬を凝視した。『闇』が笑ったような感覚を覚えた。すると、ソレは床をすり抜けて、最下層へと向かっていった。同時に奥の液体の入ったカプセルも床の中に消えていった。その後、柊、水瀬、ノア・ロードの3人が感じていた強烈な違和感が消えた。3人の孫に支えられながら、沢渡は言った。


「私の、他人から奪った能力を止めた。これでお前たちは能力を使うことが出来るだろう」


 ノア・ロードが言った。


「あぁ、それでいい」

「地下にクリーチャーはいない。だが、その代わりに『人型機械兵(サイボーグ)』と『戦闘機型機械兵(スカイサイバー)』がたくさんいるんだ。気をつけてくれ」

「あんたは行かないのか?」

「私はその計画の為に使われる『動力炉(リアクター)』を止める」


 柊と水瀬はそんなやり取りを見ていた。そのとき、天井が爆発し、煙の中から人影が降りてきた。


「やっと来たか。遅かったな、出月」

「・・・・・・ごめん」


 その人は中学生の年頃にふさわしい、とても淡白な顔立ちをしていた。けれども、目には生気が無かった。


「彼は・・・・・・?」


 柊が言う。ノア・ロードは柊のほうに柔らかな笑みを浮かべた。そして。


「コイツは出月リョウジ。『爆発』の能力者で、新種クリーチャーを体に宿す者の一人だ」


 柊と水瀬が目を見開いた。なぜ、そんな人がここにいるのかと。沢渡も目を見開いていた。なぜあの場所から出られたのかと。ノア・ロードは沢渡の方へ振り向き、ゆっくりと口を開いた。


「俺が、あの場所から出したんだよ」






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