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再開、そして離れる道

 水瀬が振り向いたその先には、少年がいた。幼くてあどけない少年。その少年は柊を見つめた。


「お兄ちゃんは?」


 水瀬は柊をギュッと抱きしめた。こんな場所にこんな幼い少年がいるはずがない。もしかすると敵ではないかと勘ぐってしまう。


「だいじょうぶ。ぼくはお兄ちゃんに、おんがえしをしたくてきたんだよ」


 幼い少年は屈託のない笑みを浮かべた。水瀬は思った。恩返し?


「ぼくは、ひとがたの、くりーちゃぁです。お兄ちゃんにたすけられました」


 幼い少年がぺこりとお辞儀をし、同年代の子供らしく丁寧に挨拶をした。水瀬は直感した。この子はヒト型クリーチャーだけど、敵ではない。それは顔を上げたその少年の瞳からも感じられた。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんはどうしたの?」

「大丈夫よ。気を失っているだけ」

「お姉ちゃん。まほー、つかえる?」

「うん。でも、ここでは使えないの」


 端から見ると、まるで親子のようだ。会話の内容とは裏腹に・・・・・・。

 水瀬は何もできないことが悔しそうだった。顔が少し暗く沈んでいる。柊は気を失ってはいるが、何かを我慢しているような表情をしている。それを見た少年は言った。


「お姉ちゃん、じゃあ、ぼくがなおしてあげるね」

「え?」


 少年が柊の手に触れる。少年の目が一瞬だけ見開かれる。柊の体がピクッと小さく痙攣した。柊の顔に安堵の表情が浮かび上がった。そして、ゆっくり目を覚ます。


「みな・・・せ・・・?」

「レイ君?よ、良かった」


 水瀬がこれでもかと言わんばかりに強く抱きしめる。しばらくして柊の意識がはっきりし出した時。


「君は・・・・・・」


 柊は少年の姿を見て驚いていた。なぜなら、川原と初めて会った時の、あのヒト型クリーチャーの、あの幼い少年そのものだったからだ。


「どうして・・・・・・ここに?」

「お兄ちゃんのきけんを、かんじとったから」


 そう言うと少年は、出現した次の扉を見つめた。柊が立ち上がる。まだよろめくが、身体を動かすことに問題はないようだ。柊は水瀬に支えられ、3人は次の扉を開ける。すると今度は学校の体育館のような場所に出た。次につながるドアが既に出現していた。3人がそのドアへ近づこうとしたその時。


「らあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!」


 後ろから誰かがやってきた。幼い少年が振り向き、飛んできた大きな鉄球を異常な強さで撥ねつけた。鉄球が宙に弧を描き、持ち主のもとへ転がった。バウンドはしていない。


「おい、そこの野郎めが。この先へ向かうなら、俺を倒してから行け!!!」


 その男の弩号は部屋中を駆け巡り、より大音響となってやってきた。そのせいか、木でできた壁にいくつもの小さな亀裂が走った。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。さきにいっていいよ」

「で、でもっ」

「だいじょうぶ。ぼく、つよいよ?」


 柊と水瀬の制止も聞かず、少年はその異常に強い力で、二人を無理やり次の部屋に押し込んだ。そしてドアを閉める。


「こんなとこ、父さんと母さんに、みられたくないから」


 少年は悲しそうに、寂しそうに、静かにそう言った。少しの間をあけ、少年はもう一度、男の方へ向き直る。その瞳は幼い子供とは思えないほど、殺気をまとって鋭くなっていた。


「ぼくの父さんと母さんにけがをさせるひと、ゆるさない」

「はぁあ!?父さんと母さんだぁあ!?何言ってんだこのクソガキめがっ!!!」



 無理やり次の部屋に入れられた二人は、戻ろうとして入ったドアを振り返った。するとどうだろう。あったはずのドアが、完全に消え去っていた。どこからか遠くから爆音が聞こえてくる。そして、この部屋は・・・・・・。


「私の研究室へようこそ」


 高さ15m、面積2500㎡程の長方形の部屋。棺桶が規則正しく並び、部屋の奥には液体の入ったカプセルがあった。薄暗くて薄ら寒いこの部屋のど真ん中あたりに、沢渡コウスケはいた。片手にホログラムタイプのモニター画面が光っている。


「全く、邪魔者がこうもウジウジ沸いてくるとはな」

「あなたが・・・・・・」

「そうだ。この私が沢渡コウスケ。この機関の計画遂行者だ」

「計画・・・・・・?」


 沢渡がほくそ笑む。なにやら嬉しそうな表情をしたが、柊と水瀬には別の概念を感じてならなかった。人ではない、何か別の。


「なぜ、お前達4人が選ばれたのか知りたいか?」

「「!?」」

「ふふっ。そう焦るな。お前達には深い関係のあることだ」

「「・・・・・・」」

「うち3人は生物兵器としての新種クリーチャーを体の中に宿らせている。うち1人は『神玉』を身に宿している。そのどれも『私』の計画に必要なものだ」

「それは・・・どういう・・・・・・」


 沢渡コウスケが何故そのことを知っているのか。そして、新種のクリーチャー、『神玉』とはどういうことなのか。無論、柊には分かり得なかった。水瀬は沢渡をずっと睨み付けている。彼女の青い右目が強く煌めいたような気がした。


「だが、新種クリーチャーに関しては、4体いる上に代えがきくのでね。うち2名が消えたとしても差し支えはない」


 平然とそう答える。その言葉には人間らしさの欠片すら感じられなかった。


「まずはコイツと手合わせでもしてみせろ」


パチン


 沢渡が指を鳴らした。棺桶の一つが重厚な音を立て、ふたが横にズレ落ちる。そこから起きあがったのは、人の形をしていて、もう人ではないモノだった。その体の一部に二人は見覚えがあった。なんと形容しようか。まるで、サラとジェレミーが一つの体を共有しているかのようだった。水瀬がかすかに悲鳴を上げる。


「さぁ、殺して見せろ」

「あ~あ。ひどいよなぁ」


 沢渡コウスケの後ろの方で、その声は聞こえた。それは柊と似ていて非なる者。


「ノアか。お前も私の邪魔をする気かね」

「俺だけじゃあない。あんたの孫娘もだ」

「なっ!?」


 沢渡は目を見開いた。ノア・ロードの後ろには3人の女性がいた。3人の女性は沢渡を見つめていた。その瞳はとても悲しそうに沈んでいた。涙が少し潤んでいる。


「おじい様・・・・・・」

「・・・・・・おじい」

「おじいちゃん・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 沢渡は一度目を閉じ、顔を片手で覆った。そしてもう一度3人の孫娘を見た。その時の目には愛情の欠片もなかった―――――――。






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