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Side Street ~沢渡の狂った理由~

 時は2034年。沢渡コウスケ44歳。このときの彼は、世界で最高の技術レベルを持っていた。化学や物理学、生物工学、地学、数学、8カ国語、機械工学、心理学などの様々な分野で世界中から『本当の天才』と呼ばれていた。百年に一度とか、千年に一度とか、そんなレベルではないといわれるほど。

 そんな彼には家族がいた。娘夫婦、そしてその子供3人。妻はガンで他界している。


「おじいちゃん。大好き!」

「・・・・・・あたしも」

「わたしもです。おじいさま」


 彼は3人の孫に慕われていた。この孫たちの名前が、上の歳からマリア、オリビア、アリス。彼女たちはこの時、まだ年端のいかない少女だった。


「お父さんったら、もう、顔がデレデレしてるわよ」

「それは仕方がないだろう。可愛い孫たちに好かれればこれほど嬉しいものはないに決まっているじゃないか」


 沢渡は世界中からのマスコミが殺到しているにもかかわらず、その家庭内はとても穏やかで、どこの家庭でも変わらない幸せな家族達だった。これが後に悲惨な結果になってしまうとは・・・・・・。


「沢渡、今回の研究はうまく行きそうか?」

「えぇ、『半永久生命源細胞体』の構築は難しいですが、なんとか」

「そうか。やっぱりお前は天才だよ」

「いえいえ、それほどでもないですよ。本当に」

「遠慮すんなって。そんなお前が同じ職場にいるなんていうことが光栄だと、皆は思っているんだよ」

「ははは」


 沢渡は『半永久生命源細胞体』を作りだすという偉業に挑戦していた。これはどんな生物でも半永久的に生きる事ができるようになるという、神の域にも達しそうな代物である。沢渡はそれを人の役に立たせたいと思い、一生懸命取り組んでいた。彼の仕事仲間も同様だ。


「よし。これで大丈夫かな・・・」

「おぉ。完成したのか?」


 『半永久生命源細胞体』を完成させた沢渡コウスケ。そして・・・・・・。


「え?沢渡、何考えてるんだ?」

「いや、だから、これを僕に注入してくれないか?」

「モルモットで実験すればいいだろう?」

「それでは慢性的なものがわからないだろう?」

「なら俺を実験台にしろ」

「それはさすがに気が引けるよ。それに、僕が実験台になれば細かいこともわかるし、微調整もできると思うし」


 沢渡の熱烈な意見に一同はたじたじ。仕方なく、彼に注入することとなった。そして、実験は成功した模様。あとは100歳以上になれれば研究は完成ということになる。

 しかし、その沢渡をよく思わない者もいた。


「沢渡め、いい気になりやがって・・・・・・」


 それから3ヶ月後・・・・・・。事件は起きた。プレートのない車に轢かれ、娘夫婦が亡くなった。犯人は逃亡し、未だに分からなかった。

 そのまた7ヶ月後、学校に通う途中だった3人の孫もプレートのない車に轢かれて亡くなった。その日の夜。沢渡は悲しみに暮れた。そんな彼を嘲笑うように逃げ回る犯人は結局分からずじまいだった。

 どん底だった。

 最悪だった。

 消えてしまいたかった。

 死にたかった。

 彼の脳内で様々な思いが交錯した。生き返らせたい。でもそれは触法行為になる。復讐したい。それでは殺人と変わらないではないか。ならば、ならば、どうすればいいんだよっ!!彼の心には強い怒りが芽生え、いつしか復讐することばかりを考えるようになった。


「お前が沢渡か」


 目の前にやってきたのは何か黒い『闇』だった。ただ、充血した眼が一つだけそこにあるようなものだった。


「復讐したいか?」


 沢渡は答えた。


「復讐はしない。家族も喜ばないだろう」

「そう言って我慢しても、なにも得られない。それでもお前はそうするのか?」

「あぁ。僕は絶対に復讐をしない」


 心とは裏腹に出てくるのは偽善の言葉。そこまで変わってしまった自分が腹立たしくもあった。


「お前は可愛そうなやつだ」

「同情するな」

「お前は不幸なやつだ。だがそれも、この我の力にかかれば、すべて可能になる。そう。すべてだ」

「すべ・・・・・・て・・・・・・?」

「そうだ。もう一度問う。お前は復讐をしたいか?」


 しばらく考えた後、沢渡は答えた。今度は・・・・・・・・・・・・本心で。


「復讐して、それから孫を生き返らせたい」

「良かろう。孫に関してはお前の力でなんとでもなる」

「では、家族を殺した者は?」

「誰にも知られずに殺せる機会を与えよう」


 それから1週間後のこと。犯人は判明し、沢渡はその手で犯人を消した。そしてその翌日。


「おぉ、目が覚めたか」


 娘夫婦は無理だったが、沢渡は3人の孫を、新しく作りだした『半永久生命源細胞体』と半機械化技術で生き返らせた。あと3日遅ければ不可能になっていたが、沢渡は見事に復活させた。死斑も消えた。しかし、3人の孫は声を発することも出来ない。まだ発声機能を取り付けていないからだ。それでも生き返ったことを喜んだ。仕事仲間も喜んだ。これは世紀の大発明だと。


「沢渡、お前やっぱすげぇよ。お前と仲間だということを誇りにしてるぜ」


 以来、『○○を生き返らせて欲しい』『お願いします』という、死人を生き返らせる依頼が殺到した。そして成功した時には褒め称えられもした。研究所の利益も上がった。皆が皆、喜びを分かち合っていた。家に帰れば、生き返った孫達が待ってくれていた。

 けれども・・・・・・。


「沢渡君、君は今日から来なくていい」


 3週間後、沢渡の勤める研究所の所長から、突然辞めさせられた。


「ど、どうしてですか!?」


 沢渡の顔が見る見るうちに歪む。所長はお構いなしに話を続けた。


「君は自分の孫の命を足踏みにしたのだぞ。ましてや、他の人の命も。これは許される行為ではない」

「・・・・・・・・・」

「君の作り出した『半永久生命源細胞体』はともかく、『半機械化』はあまりにも恐ろしい!恐ろしすぎる!これが事実だなんて最悪だ!」

「・・・・・・・・・」

「どう思うかね!?ほら、なにか言わんか!?」

「・・・・・・・・・」


 沢渡は何も答えなかった。あまりにも突然のことだった。ただその場から去っていった。

 人は長生きしたいと願う。

 人は亡くなった人に生き返ってほしいと願う。

 僕はそれを実現させただけだ。それはそういう人たちの願いを叶えられるということを示している。

 それなのに、なぜ人は・・・・・・僕を白い目で見るのだろう。

 なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。なぜだろう。

 どんなに自問しても、答えは返ってこない。

 この時。

 彼の心は。

 壊れてしまった。

 身勝手。身勝手。身勝手。身勝手。身勝手。身勝手。身勝手。

 人は身勝手だ。願いが叶うことを「素晴らしい」というのに。僕・・・・・・私は人の役に立ち、そして人の願いを叶えるために一生懸命だったのに。

 その時、ふと脳裏をよぎったのは、悲しみなど何一つない『新たな世界を創ること』だった。


「この世界を住みよい世界に変えないか?

「本当にそんなことが・・・・・・?」

「出来るとも。お前の考えた方法でな」

「だが、問題がある」

「臆することはない。ただ歩めばいいのだ」

「私の心も迷っている。なにせこの方法は一度『命』をもつものを全て消す・・・・・・・・・・・・やはり止めたほうが」

「お前の思いはその程度のものか」

「それなら私の命を引き渡してやる。」

「それでは足りん。お前の大切なものを目の前で消してから、命をもらう。」

「ぐ・・・・・・」

「さぁ、我と共に行こうではないか」


 そこにあったのは、あの時の、黒い『闇』。

 そして、2194年。『クリーチャー』というモンスターは、彼自身が一人で作り上げたモノであり、それを世界に放った結果があの『全文明消滅事故(ハルマゲドン)』である。

 かなり後になってから、彼の所属する『CNW(Create Neo World)機関』は設立されたのだった。






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