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動き出した歯車、流れゆく道

 それは突然のことだった。あまりにも突然のこと。

 柊レイは、あの時、ノア・ロードに言われたことを反芻していた。あの時、彼に言われたことは。


「レイ、お前は正真正銘のイリス・ウラド本人だ」


 伝説にして最強の能力者イリス・ウラドの話は、様々な人から聞いていた。その人々たちと同様に彼も、イリス・ウラドという存在に憧れていた。それがまさか、自分のことだとは・・・・・・。

 まだ混乱はしていたが、柊の脳内にノア・ロードの顔が浮かびだされる。偽りではなく、真剣な顔だった。それが本当なら、なぜ、そのときの記憶が無いのか。


「ある科学者によって、イリスは受精卵にまで還元され、それとは別にクローンを作り出した。本体はお前。精神はこのクローンの体に入った、この俺だ。ただし、一部だけだがな」


 すぐには信じられないことを、彼は平然と言ってのけた。柊が驚愕したのは、それだけではなかった。


「彼が、僕のクローンだなんて・・・・・・」


 これまでの話を考えれば納得のいくものが思い当たりすぎるほどに多かった。

 ノア・ロードが柊レイと非常によく似ていること。

 自分には前世の記憶がなくて、彼にはその記憶があること。

 制御していてもかなり強いといわれている、自分の能力レベル。

 たまに夢の中で話すこと。

 それ以外にもまだまだある。そして、柊自身、衝撃を隠せなかったのは・・・・・・。


「水瀬が、僕の・・・・・・『妻』・・・・・・?』


 事実かどうかは今の柊には分からず、ただ混乱するばかりであった。このことをどう受け止めればいいのだろうか。

 そんな彼を置いていくように、新たなニュースが入ってきた。ジェレミー・アスラとサラ・クローズ、メルティルス・イルミネアリスの3人が亡くなったという、ニュースが。


「柊、そんなに落ち込むなよ」


 そう声をかけてきたのは、川原イチヨウ。休憩所で長椅子に座り、頭を抱えているところにやって来たのだ。柊が顔を上げる。また俯く。そして、様々な意味を含めて言った。


「僕は、これからどうすればいいのだろう」


 その言葉の意味をどう捉えたのか、川原からこんなことを言われた。


「あの3人には、俺らに結構よくしてくれたからな。お前が落ち込むのも無理じゃねぇ。けどな、この世界じゃあ、そんなものは日常茶飯事だ」

「・・・・・・」

「・・・・・・まぁ、落ち着いてから動きゃあいいぜ」


 そういうと、川原はその場を去った。周りから、自動販売機で何かを買う音や話し声が聞こえてくる。柊はもう一度頭を抱え込んだ。いまだに混乱から抜け出せない。何をするべきだろう。水瀬とはどのように接すればいいんだろう。

 そこに水瀬本人がやって来た。彼女は彼が思うほど落ち込んでいる様子もなく、かといってフッきれたわけでもないようだ。


「レイ君、大丈夫?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 柊は何も答えなかった。否、答えられなかった。水瀬はそれを知っているかのように黙り、柊の隣に腰を下ろした。すぐに肩を組めるほど近くに座った水瀬は、何度か柊をチラチラ見て話しかけようとした。

 しかし、どう言葉をかければいいか分からない彼女はその状態を続けたまま途方に暮れていた。最初に話し出したのは柊。


「水瀬、僕はどうすればいい?」


 川原にした質問と同じ質問をぶつける。水瀬は困ったような微苦笑を浮かべ、返事をした。


「いつも通りでいいと思う。でも、それはあなたが考えることだわ」


 彼女も複雑な心境なのだろう。浮かべている表情がそう言っていた。


「こうなったのは、あなたのせいじゃない。すべてはたった一人から始まったの」


 そういう言葉の中には『怒り』という感情が混じって聞こえた気がした。それは柊レイに向けられたものではなく、別の人に対するものであった。


「だから大丈夫。だから、そんなに落ち込まないで」


 哀願のようなニュアンスが入り混じって聞こえ、それは柊の心に届く。数秒の間があったが、柊は抱えていた頭を上げ、手を下ろした。彼も水瀬の瞳を見る。左右で色の違う瞳も、何かを求めているようだった。


「・・・・・・ありがとう。もう大丈夫」


 水瀬はどこか腑に落ちないようだったが、それでも柔らかな微笑みを向けていた。


「うん。それでこそ、レイ君だよ」


 二人は立ち上がり、次の任務に向かう。その時、ある任務が目にとまった。



 上層部12人は会議をしていた。


「サラとメルティルスが死んだと?」

「あぁ。しかも、かの科学者直々にな」

「奴は我らが阻止計画を企てていることを知っているようだ」


 誰かが声を荒げる。


「我らの中に裏切り者がいるのでは?そうすれば、奴がここを知っているのも頷ける」

「つまりそれは、我々を疑うということか?」

「そうよ。そういうあなたのほうが信用ならないわ」

「だが、現実的に考えればそうなるだろう」

「お前ら、少しは黙ってろ。まだ、我らには切り札がいくつかあるではないか」


 一人の男が飛び交う怒号を静めた。別の一人が言う。


「それに、この中に裏切り者がいるなら、我らがいぶり出すまでだ」

「・・・・・・あぁ、確かにそうだな」

「一理ある」

「・・・・・・そうね」

「その時には、断罪を」

「処刑を」

「死を」


 全員が口をそろえたところで、また別の一人が口を出す。


「このための任務を、ある人物に用意した。その者も奴に立ち向かっていくだろう」

「さよう。それが失敗に終わったとき、我らの出番となるだろう」

「それまでは、待つしかないな」

「致し方あるまい」


 12人はそれぞれの思索を巡らしながら、その場を解散した。解散した後、一人の人間が携帯電話らしき物を取り出した。そしてこう言った。


「沢渡さん。あの4人がそちらの元へ行きますよ」











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