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アイ、それは儚く淡い道

 サラは、上層部から言い渡された任務で、研究所に向かう準備をしていた。メルティルスも同様だ。彼女らは高い能力を有し、その実力は上層部も一目置かれている。サラは他人の思考や感覚を共有して感じ取り、メルティルスは幻術、幻影を作り出すことに長けている。メルティルスはサラの子供という設定で変装し、魔法で髪の色をサラと同じ金髪に変え、外見もサラの子供時代のような姿に変化した。はたから見ると、エルフと人間のハーフに見えるほど、完璧な変装だった。

 一方、サラはというと、ジェレミーと会話をしていた。


「―――というわけなの。しばらく帰ってこれないと思うわ」

「わかった。お前がそういうなら・・・・・・」

「うん、行ってくるわね」


 サラとメルティルスは親子の設定で手を繋ぎ、共にテレポーターでその姿を消した。

 彼女たちが姿を消した後、ジェレミーは体の奥から、不安のような恐怖のようなそんなものを感じた。動物的な第6感が危険信号を発している。しばらく考えた後、彼は二人を追ってテレポーターで消えた。



「ねぇ、サラ。・・・ううん、『お母さん』。僕、今回はいやな予感がするよ」

「私もよ」


 彼女たちの心の中にも不安が芽生えていた。今までのスパイ活動で、CNW機関のあまりに広い研究所の中にまぎれていた。その時はこんな事はなかった。


「このまま、何もなかったらいいのだけど・・・・・・」


 そう願うばかりだ。それ以外にどうすることも出来ない。メルティルスはサラと手を繋ぎながら、周りをキョロキョロ見回している。


「あの科学者の部屋って・・・・・・変わった?前はこの辺にあったと思うんだけど」

「確かにおかしいわね。こちらの計画がばれてしまったのかしら。いえ、それはないわね」

「あの科学者を殺せば、計画を阻止出来たということになるのかな・・・・・・」


 メルティルスはサラに質問をぶつけた。先ほどの上層部の言う『阻止』があまりにも曖昧すぎて、どうすることが最善なのか理解しかねていたのだ。そんな彼女にサラは答える。彼女たちの顔は真剣そのものだ。


「仮にそうでも、この組織の人のほとんどが計画を遂行しようとしている人ばかりだから、一概には言えないわね」

「そっか・・・」

「でも、あの上層部たちも無茶なことを言うわね」


 サラの脳内で様々な考えが浮かび上がる。そんなときだ。


「お前たち、何をしている」

「「!」」


 二人の前に、金の装飾が施された黒フードを着た女性がやってきた。キル・ヴィジルだ。


「あ、サラか。久しぶりだな」


 彼女はサラの隣にいる『小さな子供』に気が付いた。途端に目の色が変わる。


「ぁあっ、・・・か・・・・・・可愛い!」


 突如、声のトーンが高くなり、目を爛々と光らせた。そして、その『小さな子供』であるメルティルスに飛びつき抱きついた。離さないかのようにぎゅうっと抱きしめ、その子供のぬくもりをじっくり感じ取るように・・・・・・。

 メルティルスはキルに抱きしめられたまま、その困惑した顔をサラに向けた。サラは神妙な面持ちでこくりと頷いた。今ここでばれてはまずい。サラがキルに話しかける。


「ねぇ、ボス。そのくらいで止めてあげてください。私の子が困った顔をしています」

「あ、あぁ。すまん。吾輩は子どもが好きでな、ついつい構ってやりたくなってしまう」

「ボスって意外に子煩悩なんですね。初めて知りました」

「むぅ、別にいいだろう。子どもをもつことは吾輩の夢でもあるからな」


 珍しく頬を膨らませたキルは、ぶつくさ言いながらも変装したメルティルスから離れた。が、その手は未だにメルティルスの頭を撫でていた。やはり離れたくないのだろう。


「こやつはお前の子なのか?」

「えぇ、そうです。今年で11歳になります」


 一瞬、メルティルスはサラを睨んだのだが、サラは意に介さない。メルティルスは誰にも気付かれないように嘆息した。彼女の見た目は少女に変わりないのだが、実年齢は23歳である。『子供』の設定で任務をしているとはいえ、やはり子供として見られるのには抵抗があるようだ。


「あぁ、もう時間だ。今日は急ぎの用がある。また会おう」

「はい、ボス」

「お前もまた会おう」

「う、うん・・・」


 キルはその場から離れ、姿を消した。やっと離れてくれたと、メルティルスはほっとした。彼女ら二人は、二重スパイ。メルティルスはそれがばれてしまった為に、変装をしなくてはならなかったが、サラの場合は全くといっていいほど、ばれていない。それは周りの人がそれだけ彼女を信頼しているということの裏づけにもなっている。


「あのボスに僕たちの計画は知られてないみたいだね」

「えぇ。でも、ここまで何もないとかなり怪しいと思うわ」

「うん、そうだね。・・・・・・あれ?こんなトコに階段があるよ」


 メルティルスは指差した。サラは目を疑った。以前までは無かったものだからだ。不審に思い、二人はその階段に足を掛け、一歩一歩静かに下りていった。


「サラ、声が聞こえるよ」


 メルティルスが言った。彼女はエルフである為、聴覚が常人の2~4倍ほど優れているのだ。

 今、彼女の耳には悲鳴らしき声が聞こえていた。男の、悲鳴。


「なんて言ってるか分かる?」

「ううん。悲鳴が聞こえてくる」

「悲鳴!?」


 サラは静かに、けれど驚きを隠せない口調で聞き返した。それが本当なら悠長に降りている場合じゃない。二人は脱兎のごとく駆け下りていった。


バタアァァァン


 ドアを蹴破って、二人はその先の巨大な部屋に入った。そこで、サラは目を疑った。部屋にいたのは科学者、沢渡コウスケともう一人。ここにいるはずの無い、恋人のジェレミー・アスラ。


「ジェレミー・・・・・・?」


 そのジェレミーは十字の磔台に括り付けられていた。ところどころ、ケモノのように毛深くなっていた。


「サ・・・ラ・・・、逃げろ・・・」

「おやおや、実験台本人も来ましたか」

「!?」


 サラの足が震える。動かない。動けない。


ブスススッ


「っが・・・あっ・・・はっ・・・・・・!」


 悲痛な声が聞こえた。サラは隣にいるメルティルスを振り返った。それまでサラの隣にいたメルティルスの姿が一瞬にして消えていた。サラはメルティルスの姿を探した。そして・・・・・・。


ポトッ ポトトッ


 頭上から赤い液体の雫が落ちる。サラは天井を見た。そして、驚愕する。

 メルティルスの腹と胸と右太腿に何か、鋭利なものが刺さっていた。何も無い天井から少し離れたところから、それは出現していた。メルティルスは白目を剥き、すでに息を引き取っていた。

 ほんの一瞬の出来事だった。


「さて、邪魔者は消えた。実に興味深い、『2つ』の種族がここに揃った」

「てめっ、サラに手を出すな!」

「ジェレミー!?」


 ジェレミーが『身体能力上昇』能力を発揮し、磔台を無理やり破壊した。


「サラ、今まで黙っててすまない」


 そういうとジェレミーは能力を解除し、その姿を巨大な狼へと姿を変えた。突然のことに、サラは声も出せなかった。沢渡コウスケがニヤついた。


「狼になれても、能力の併用は出来ないみたいだな」

「ウオォォォォォォォォォォォン!!!」


 巨大な狼と化したジェレミーの咆哮は、部屋の中の大気を振るわせた。サラは身動きが出来ない。

 ジェレミーはその巨大な爪と牙で沢渡コウスケに襲い掛かった。

 一瞬。

 狼の巨大な体が大きく吹っ飛ばされ、沢渡の向かいの壁に強烈に打ち付けられた。狼の口から悲痛な呻きが発せられる。狼の胸の、肋骨が折れ、そこだけ異様にへこんでいた。

 彼の命が危ない。

 サラの直感がそう告げていた。






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