仕組まれた任務、消えかける道
イベントが終わって数日後、ジェレミー・アスラは気を取り直し、任務に集中していた。ハイペースで、一日に5回任務を受けていた。今日も任務に集中している。5回目の1日最後の任務に就こうと、地下2階の受付へ足を運んだ。
「もうひとつ、他に任務があるか?飛びきり難易度の高いやつを」
「かしこまりました。では、こちらの任務はいかがでしょうか?つい10分前に掲示された任務です」
受付の女性は紙を差し出した。その内容は、『クリーチャーが多く潜む洞窟先に、怪しい研究所があった。調査していってほしい。なお、洞窟の中にはHクリーチャーが潜んでいるらしいので気を付けてください。幸運を祈っています。』と書かれていた。
「それでいい。テレポーターを設置してくれ」
「はい。かしこまりました」
テレポーターが設置された。ジェレミーはテレポーターの円陣の中に入り、姿を消した。出てきた場所は、どこかの洞窟の入り口の前。早速洞窟の中に入って行った。洞窟の中はひんやり冷えた風がそよそよ吹いている。ジェレミーはその風を身体いっぱいに受けた。
「冷えてて気持ちいいな」
カタタッと音が聞こえ、目の前にレベルの低いヒル型クリーチャーが出現した。
しかし、ジェレミーは慌てず、2.5メートルの大剣でなぎ倒した。次々とクリーチャーが現れる。一匹一匹は大したことないが、大勢となると厄介だ。ジェレミーは能力を発動し、身体能力を大幅に上げた。
「うぅおおおおおおおおおっっ」
迫りくるクリーチャーをものともせず、次々と倒していった。奥へ進むほど、クリーチャーの強さも上がっていく。能力を発動しているにもかかわらず、だんだん倒すのが困難になっていく。その時だ。
ゴオォォォォォォォォォォォッッ
突風が吹いた。かろうじてその場に止めていられたジェレミーは、突風が吹いた場所に顔を向けた。ジェレミーは、血の気が引くのを感じた。そこにいたのはHクリーチャー、ドラゴン型がいたからだ。ドラゴン型はクリーチャーの中でも、1、2を争う強者である。
「こりゃ、まいったな。よりによってドラゴン型かよ・・・。だが、お前にやられる俺ではないっ!」
ジェレミーは勇敢に立ち向かった。ドラゴン型の脳天めがけて大剣を振りおろした。が、ドラゴン型は炎のブレスを吐いた。身体能力を高めているとはいえ、熱いものは熱い。火傷を負ったが、脳天にぶちかますことに成功した。ドラゴン型がふらついた。目を回しているようだ。
「こんな火傷でやられてたまるかっ!」
火傷でただれた腕をどうにか持ち上げ、魂の叫びを上げながら次の一撃を決めた。その衝撃でドラゴン型はバランスを崩し、その場に倒れこんだ。ドラゴン型が悲鳴を上げる。
「キュオオォォオォオォオオォォオォオオォォオォオォオオォッッ!!!」
ドラゴン型の悲鳴を聞いたとき、彼は心の奥底で何かがざわめくのを感じた。オオカミの遠吠えのような声が心の中に。
「くっ!こんなときにっ!」
彼はポケットの中から携帯していた薬を取り出した。それを素早く飲み込む。すると、ざわめく心が鎮まった。ホッとしたのもつかの間、ドラゴン型の尾がジェレミーの体を打ちつけた。衝撃で吹っ飛ばされた彼は、洞窟の壁にのめり込んでしまった。
「ぐあぁっ!」
「キュオオォオォォォオォオオォオオォォォオオオォォオオォオオォォンン!!!」
体勢を整えたドラゴン型が、早速彼に炎のブレスを吹きかけた。ジェレミーは避けた。が、ドラゴン型以外のクリーチャーも迫ってきた。ヘビ形、トリ型、カエル型、コウモリ型・・・。これではジェレミーの『身体能力上昇』でもキツイ。
「これはキツイな。一斉攻撃とは・・・」
それから2時間ほどは戦っただろう。やっとすべてのクリーチャーを倒しきった。しかし、彼の受けたダメージも大きかった。
「や、やっと終わったな・・・」
「まだ終わってなんかないッスよ?」
「ぅうっ・・・誰だ!?」
洞窟の壁からすり抜けるようにして、男が現れた。
「しっかぁ~し、よく的中しますねぇ、あの方の情報は。でも、来たのが柊君じゃなくて残念ッスよ。まぁ気にしない気にしない。今なら貴方に危害は加えません。戻ってくんないッスか?」
「そう言われて戻ると思うか?」
「貴方、意外に鈍いッスね」
「何を言っている!?」
「邪魔者はここで消す。と言うことですよ」
いかにも軽そうな男が意味深にニタニタ笑みを浮かべている。ジェレミーが身構えた。軽そうな男は、何かを思い出したかのように言った。
「あ、そうそう。私は全てを透過する力を持っているんスよ。だから、武器とか魔法とかそんなものは効きません」
「なっ・・・!?」
ジェレミーは目を剥いた。もし、この男の言うことが本当なら、ジェレミーの相手となっては分が悪すぎる。ジェレミーの戦闘スタイルは大剣による攻撃がメインであり、彼の有する能力は「身体能力を上げる」なのだ。攻撃をすり抜けられては身体能力をどれだけ高めようとも、やられるのは確実だ。
「ふふ。怖じ気づいたのですか?」
「何を言うか!」
「あなたにとって私が相手では、分が悪いのはお分かりッスよね」
「ぐっ・・・」
「まぁ、よしとしましょう。あなたはこの先の研究所を見に来たんでしょう?」
「・・・・・・あぁ」
「いいですよ。見に行けば」
そして、洞窟を出た。そこには大きな空間があった。そこでジェレミーは目を疑った。任務内容に書かれていた「怪しい研究所」が見当たらないからだ。もしや、地下にあるのかと思い、ジェレミーはくまなく探した。が、結局見つからなかった。
「研究所がないぞ」
「それはそうですよ。あの任務依頼は私が出したんスから。イタズラでね。」
「イタズラかよ。お騒がせな野郎だ。無駄足だったな」
「そうですねぇ。ごめんなさいっス」
「俺は帰る」
「そのまえに、貴方にお願いがあります。柊って子をそれとなく、Aランク任務につけてほしいんです」
「・・・・・・柊に何のようだ?」
「貴方は気にしなくていいっスよ」
そういうと、ジェレミーは強制的にテレポートさせられた。ジェレミーが気がついた時には、シェルター地下2階に戻っていた。ジェレミーは歯ぎしりをした。
ジェレミーをテレポートさせたあと、軽そうな男が言った。
「本当なら、ねぇ・・・。メルティルス・イルミネアリス」
「そんなこと、仕方がないよ。別の獲物がかかっちゃったと思えば」
軽そうな男の後ろに、気の強そうなエルフの少女が姿を現した。先ほどまで何もなかった空間に、怪しい研究所が建っている。
「貴方の催眠能力のおかげで、『別の獲物』に見られずに済みましたッスよ」
「催眠だけじゃないよ。幻術と併用したんだ」
「おやおや、エルフはそんなこともできるんスか?」
「僕らのようなエルフはそういうことに長けているから」
メルティルスは、小さな胸を張って自慢げに言った。どこからか吹きつけたそよ風が、彼女の黄緑色の髪を撫でた。
「ねぇ、クォーツ・アルカナート。柊ってどんな人?」
「貴方のお好みの男っスよ。それとも私のような男が好みっスか」
「僕をからかうな。あんたみたいなカス、きしょい(気色悪い)」
「ゲフッ・・・ゴフゴフッ・・・・・・」
クォーツは、メルティルスの放った言葉のトゲに心を突き刺された。そこで大げさに血を吐いた。まるでギャグ漫画にあるようなシーンだ。
「ぐはぁっ・・・・・・わ、私の純粋な心が・・・・・・」
「あんたが『純粋』?・・・・・・ふ」
メルティルスは呆れ顔で吹き出した。見下したような目で。酷い言われようだとクォーツは思った。そして弁明するように。
「笑わないでほしいっスよ。マジで傷つきました」
「乙女かあんたは」
「仲間でも容赦ない毒舌っスね。私、ドMに目覚めてしまうかもしれませんっスよ?」
「あんたが・・・」
「あんたが?」
「マゾくなったら(ドMで気持ち悪くなったら)・・・」
「マゾくなったら?」
「じわじわ苦しめて・・・」
「じわじわ・・・」
「痛みと苦しみの果ての、快感を味わわせてあげる」
「・・・・・・・・・」
クォーツは肩をすくめた。メルティルスは、ニヤニヤとクォーツを見つめている。目を爛々と光らせている彼女を尻目に、クォーツは「冗談っスよ、冗談」と受け流した。