仲間との手合わせ、磨かれる道(後編)
決勝へと進んだ4人は、全員闘技場へ出た。通常、トーナメントは最後に二組残るのが普通だが、この時代では違うようだ。最後は俗に言う、『バトルロイヤル』になるようだ。柊と川原、二人参加の白麗姉妹が闘技場に出た。息をつく間もなく、戦闘開始の合図が闘技場中に鳴り響く。
「ご先祖様、お手柔らかにお願いします」
川原が言った。
「ご先祖様?誰のことを言ってんだよ」
「あら、あなたに言ったわけじゃないわ」
ルリがツンとそっぽを向いた。が、柊には笑顔を振りまいていた。
「・・・んだよ、このアマぁ。俺にケンカ売る気か・・・?」
「はんッ。あんたなんか眼中にないわ」
「お姉ちゃん、ケンカはよくないですよぅ・・・」
ミコトが目を潤ませている。それを見たルリは、まるで子供をなだめるかのように、ミコトの頭を「よしよし。」と撫でていた。その三人をあきれた顔で見つめる柊。何だろう、除け者にされてるような、この疎外感・・・。
「行くよっ!!」
ルリが一声発すると、人形が川原の後ろから不意打ちを仕掛けてきた。
「うおあっ!?」
間一髪、川原が避けた。「おもしれぇ。」と言い放ち、川原もルリに対抗した。その間、柊に近づいていったのはミコトだった。「よろしくお願いします。」と一礼をした。すると、突然地面が揺れた。
「わわっ・・・。」
ミコトの目が赤く光っている。地面の揺れがおさまったかと思うと、土の柱が地面から、連続して突き出るように襲いかかってきた。とっさに避けられず、攻撃をまともに食らった。
「私、能力を二つ持ってるんですよ~。・・・って、だ、大丈夫ですか・・・!?ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!ホントはやりたくないんですけれど・・・」
じゃあ参加しなくてもよかったんじゃないか・・・。不意打ちのような攻撃をしておいて、それはないと思う・・・。と思いながら、柊は姿勢を戻した。相手が女だと、どうもやりづらい。ここはちょっとズルいけれど・・・眠らせちゃおう。
「ミコトさん、僕の目を見てください」
「はい?」
柊は目を合わせた。そして、能力発動。ミコトは「はにゃぁ」と頼りない声を出し、そのまま眠ってしまった。ほぼ万能の力を持ってて良かった・・・。と柊は思った。
柊は態勢を整え、善戦を繰り広げている二人へ歩み寄っていく。これはバトルロイヤルだ。少しきついと思うけど、二人まとめて攻撃していこう。柊は能力を発動した。途端に、二人の動きがピタリと止まった。大気の水を凍らせ、二人の手足を拘束したのだ。
「へぇ、柊お前、二人まとめてやろうってのか?」
さすが川原。『氷の帝王』と言われるだけある。拘束した氷を一瞬で大気の水に戻した。
「お前の力ってホンット、万能だよな」
今度は川原が、柊の手足を氷で拘束した。ルリは人形で、手足を拘束している氷を破壊した。ルリはこれから「ご先祖様と一戦交える。」と思うと、興奮を隠しきれなかった。ついでに、後ろのミコトに目をやった。ミコトは・・・・・・寝ていた。
「ご先祖様っ。お願いします!って、あ、あれ!?ミコトっ!何寝てるのよ!」
柊は横からの川原のパンチが来る前に、フッと消えた。川原の背中に強い衝撃が走った。川原が大きく吹っ飛ぶ。ルリが棒術で柊へ挑んだ。柊はルリの棒をコピーし、自分の手にルリと同じ棒を構えた。拘束していた氷が消えている。
「えぇっ!?ず、ずるいよ!?」
川原が能力発動。氷のゴーレムを作り出し、柊へかかる。柊は慣れない棒術でルリの攻撃と人形の攻撃を防ぐので精一杯だったため、後ろにゴーレムが来ていることまで気が付かなかった。気づいたときはゴーレムの一撃を背中にまともに食らっていた。
「ぐあ・・・っ・・・。」
柊はルリに覆い被さるように倒れてしまった。彼はそのまま気絶してしまった。ルリの顔が紅色に染まる。
「やっ・・・ご先祖様っ・・・こ、こんなとこで・・・・」
「お前・・・・・・」
「はっ!」
川原のニヤつく。だが、眼鏡の下は笑っていない。ルリは顔をますます赤くし、柊をどけた。
「な、え・・・エロ・・・エロエロ言う方がエロいのよ!このエロ魔人!!!」
「・・・・・・俺は何も言ってねぇんだけど?」
「!」
ルリがうつむいたかと思うと、身体がプルプル震えた。刹那、恥ずかしさのあまり暴走。めちゃくちゃな棒術で、別の意味で川原を圧倒していた。棒術を止めるために、川原は氷でルリの手足を拘束した。ルリがすかさず人形で氷を破壊しようとした。が、その人形も氷漬けに・・・。ルリは困り果てた。
「あわ、あ、あわわわっ・・・」
川原がニヤニヤと笑みを浮かべ、氷漬けにしてしまった。まぁ、この勝負が終われば元通りだからいいか、と、川原はそのまま放っておいた。
柊が目を覚ました。うぅ~んと小さく唸りながら、体を起こした。その瞬間、起き上がるのを待ち伏せていた川原が柊の横腹に蹴りを入れた。柊の体が1メートルほど飛んだ。
「まだ寝てんのかよ。容赦はしねぇぞ」
「分かってる。ちょっと休んでいただけだよ」
「強がりかよ」
柊が立ち上がった。そして、川原を見据える。
「いいねぇ、その眼。ぞくぞくするよ?お前とは一度、邪魔者なしでぶつかってみたかったぜ」
川原が腕を柊に向ける。川原の腕に巻きつくように、螺旋を描いた氷の刃が出現した。それだけでなく、もう片方の腕には氷の盾が出現し、背中には氷の翼が生えていた。氷の周りの空気が急激に冷やされ、川原の周りがキラキラしていた。能力発動の際、赤く光るはずの瞳が黄色い光を放っていた。
「柊、能力超過って知ってるか?」
「能力超過?」
「そ。普段の能力を、強力に進化させた力だ。まぁ、上位能力とか第2形態とかいったほうがいいか。俺は体の一部を氷に変化させられる。」
柊はそんなことができるとは知らなかった。じゃあ、柊の能力超過はどんなものだろう・・・・・・。
「行っくぜぇ!」
川原は氷の刃を柊へ振り上げる。柊はその刃を破壊した。破片が散らばったかと思うと、地面につく前にその破片が柊めがけて飛んできた。
「くぅっ・・・!」
「後ろガラ空きだぜ?」
柊は能力でガードできたものの、川原は大気の水を伝って瞬間移動をし、柊の背後を取った。そして、柊の背中から腹へ何かが突き抜けた。復活させた氷の刃だった。青白く澄んだ氷の刃が赤黒い色に染まっている。柊は血反吐を吐いた。
「がっ・・・はっ・・・」
柊はその場に倒れてしまった。
「おいおい・・・あっけねぇじゃんかよ・・・」
柊はそのまま多量出血で、また気絶してしまった。その時。
ズブッ
川原は、腹に何かが入っていくような奇妙な感覚を覚えた。恐る恐る腹辺りを見てみると、柊から伸びている何かが刺さっていた。おぞましい生物兵器のようなものが刺さっていた。
「・・・・・・なっ」
腹から抜き出し、元に戻る柊の腕。
「はは・・・柊、お前もかよ・・・」
そうとだけ言うと、川原も倒れた。それ以降、ルリやミコトはもちろん、柊、川原の二人も起き上がることはなかった。審判が言った。これは引き分けだと。息を呑んで試合の行く末を見守っていた観客は唖然としていた。今までに、決勝で引き分けた者なんていなかったからだ。観客の中から歓声と拍手が広がっていった。これでトーナメント戦は終わった。
「はは・・・。マジかよ。柊もあの『生命体』を・・・・・・」
試合が終わって完全に回復した川原は、トイレの中で一人つぶやいた。自分の手を見つめながら・・・。その手が震えたかと思うと、数秒後には止まっていた。
「俺と同じヤツも、他にいるんだな・・・」
川原は湧き上がる、嬉しさにも似た興奮を少しだけ隠しきれなかった。川原がトイレから出ると、早速柊に会った。
「今回、僕負けたみたいだね」
「いや、引き分けだったぜ?」
「えっ、そうなの?」
「お前覚えてねぇのかよ」
川原はそれ以上何も言おうとしなかった。とっさに『生命体』を思い出してしまったからだ。
『生命体』は宿主に死が近づいたとき、その姿を顕現して宿主を守ろうとする。川原にも『生命体』が宿っていることを本人は知っている。けれども、柊の場合はまったくといっていいほど本人に自覚がない。ならば、下手に言わないほうがいいだろう。
柊が川原の思案顔を見て首をかしげる。
「どうしたの?」
「あぁ、なんでもねぇよ」
「そっか。もう賞金貰っちゃったし、水瀬と花形さんのところへ行こう」
「そうだな。でもって後ろから、こうやって驚かしてやろうぜ」
川原はそ~っと忍び寄って、「わっ!」と驚かすフリをして見せた。
しばらくの沈黙の後、二人は突然笑った。
「あはははははははっ」
「はは、はははははははっ」
別に驚かすところを想像したわけではない。なぜだか分からないけれど、笑わずにいられなかった。これは共感とでも言うのだろうか。心の中から、笑いが込みあがってくる。
そして、柊と川原は、二人のいる観客席へと歩みだした。




