仲間との手合わせ、磨かれる道(中編)
控え室に戻ると、真っ先に川原が寄ってきた。そのころには柊の傷は癒えていた。
「ヒヤヒヤさせんじゃねぇよな。ったく、あんなヤツ一発で終わらせちめぇよ」
川原が言った。・・・・・川原君・・・・・それは無理というものです。
「それよりお前、『念動力』じゃなかったか?万能っつったって・・・・・・」
「よくわかんないけど、頭に浮かんだだけなんだ」
「へぇ、そんなもんかねぇ。おっ、次はジェレミーのオッサンの番だな」
ジェレミーの戦闘も大盛り上がりで終わった。能力や魔法は一切使わず、圧倒的な力の差で打ち負かしてしまった。次に続くのは、女性の二人参加者だ。1人はストレートの長髪でポニーテール、もう1人もストレートの長髪だった。この二人は双子だという。確かに顔もすごく似ている。その双子の対戦相手はゴツイ男2人組み。結果は双子の女性が勝った。他の勝者2名も勝ち進んだ。観客は大盛り上がりで、熱気を帯びている。
「さぁぁぁて、皆さん!!次いきますよおおおおおおおおっ!!!」
司会者もアツい。そこで、準準決勝・・・。次の柊の相手は、ノア・ロードという人物だった。柊は次の対戦相手を見た。全身を黒いフードで包んでいる。顔は暗くて見えない。その彼の先ほどの対戦では、土を使った攻撃をしていたことを柊は覚えている。そのときの彼の勝負は圧倒的な力の差で、相手を打ち負かしていた。
準準決勝の最初の対戦も、最初に川原が出ることとなった。相手は『シオン・ゼベレットラ』。獣人の波導拳士。波導って・・・『気』を使って色々やるヤツ・・・?まぁ、そんなことは、この際どうでもいいか。
「レディ~・・・ゴー!!!」
勝負が始まった。両者のにらみ合いが始まる。先に動いたのはシオンだった。無言のまま、遠距離から放った拳から『気』が放たれるが、川原は避けた。
「あめぇぇぇよッッ!!」
川原が叫ぶ。能力を発動し、足元に氷を発生させた。それが動いたかと思うと、人間の形をしたモノになった。いわゆる氷のゴーレムだ。
「まだまだ作ってやるぜ!!!」
川原は、およそ37体の氷のゴーレムを連続で作り出した。そのゴーレム達が一斉にシオンに向かっていく。しかし、シオンも負けてはいない。カッと目を見開き、次々と破壊していく。川原はゴーレムを壊されても平然としていた。川原は、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「この勝負、俺の勝ちだ」
シオンがゴーレムを次々と破壊していった所に、他よりも少し大きいゴーレムがやってきた。その氷のゴーレムに映る川原。シオンは、川原が後ろにいると分かると、左手をゴーレムに、右手を川原に向けた。左手から気を放ってゴーレムを破壊し、右手からの気で川原の動きを止めた。ゴーレムが全て破壊されたのを見届けたシオンは、気で動きを止められた川原に近づいていった。
「その程度で俺に向かったことが、お前の命取りになったな。一撃必殺の技をくらえ」
そして一撃を決めようとする。
「お前も案外、頭弱いよな」
川原がそういった瞬間、幾千もの氷の刃がシオンに突き刺さる。
「ぐぅあ・・・っ・・・・・ば、バカな・・・・・・」
気が放出されなくなり、川原の体は自由の身となった。シオンが倒れる。実況が流れ、歓声が響き渡る。その歓声の中で、川原はシオンに言い返す。
「お前が破壊した俺のゴーレム、『破壊した』だけで、破片は残ってんだよ。油断が命取りになったな」
氷のゴーレムは破壊されただけで、破片はまだ残っていた。その破片を全て相手に向けて放ったのだ。人は何かを破壊すると、それは復活することはないという思いこみが生まれる。その心理の隙をついた攻撃だったのだ。
川原は無傷で控え室に戻っていった。実況で、川原の勝利が流れている。次は二人の女性と、ジェレミーだ。女性の名前は・・・白麗ルリと白麗ミコト。二人とも能力者であり、ジェレミーもまた能力者である。審判の開始の掛け声が響く。途端に勝負が始まった。ジェレミーの能力は『身体能力上昇』。身体能力を極限にまで高める、少し危険な能力だ。
逆に二人の能力は、見たところ、姉のルリが『人形使い』。妹のミコトが『未来予知』のようだ。が、ルリはあえて人形を使わず、中国の武術(棒術)を駆使していった。妹のミコトはジェレミーの動きをあらかじめルリに伝えている。伝えるといっても、直接言うのではなく、テレパシーのようなものを送っているらしかった。
ジェレミーが大剣を次々と打ち込むが、ルリは次々とかわす。そして、隙を突いてジワジワとダメージを与えていった。ジェレミーはミコトが予知しているのだと気付き、厄介なミコトを先に倒そうとした。
が、目の前に不気味な人形が・・・。ルリの能力が発動したのだ。人形の腕がジェレミーの顔へ伸びる。ジェレミーは頬に切り傷をつけられたが、間一髪、避けることができた。遅れて後ろから、ルリの棒術による攻撃がきた。ジェレミーは大男とは思えないような身軽さで、横へ緊急回避をした。
「はわわわわっ・・・」
「あたしの妹に何すんのよっ!」
「いやぁ、俺の動きを予知しているみたいだから、厄介だなぁと思ってな」
「あううぅ・・・、ごめんなさい~・・・」
「ミコトっ、謝んなくていいのっ!」
ミコトは涙目で「私、怪我したくないです」と訴えた。ジェレミーは笑ってすました。その後も善戦は続いた。結果は二人の女性の勝ちだった。ジェレミーはすっきりしたものの、激しく落ち込んでいた。
「負けた・・・・・・俺が・・・女に・・・・・・」
控え室に戻る途中で、ルリとミコトは柊とすれ違った。すれ違いざまに・・・。
「ご先祖様、頑張ってね」
「お姉ちゃん、それ禁則事項・・・」
「かたいことは気にしない、気にしない」
柊はどこかの変人だろう・・・と、心の中で思うだけにした。次は柊の出番だ。ノア・ロードという黒フードの男とともに、闘技場に出た。柊は、黒フードの男を見た。フードの下が暗くて見えなかったが、相手もこちらを見ているようだ。戦闘開始の合図が響く。
が、二人とも動かない。にらみ合っているのだ。柊は相手の出方をうかがっていた。その相手は、身動き一つもしていない。そのまま何分か経った。しびれを切らした柊は、こちらから攻撃に出ることにした。不意打ちを食らわないように分身を作りだし、分身だけで、ノア・ロードに向かっていった。ノア・ロードにある程度近づいた途端、分身は音もなく消え去った。気がつくと柊の後ろに、ノア・ロードがいた。瞬間移動・・・!?
「くっ・・・!」
柊も瞬間移動で、距離を離した。これが任務か何かの実戦だったら、確実にやられている。ノア・ロードが手を柊に向けた。その手には銃が・・・。柊はその場から身動きできなくなってしまった。
「嬉しいね。俺の片割れに会えて・・・」
「片割れ?」
「ひでぇな。まだ分からないのか?」
柊は困惑し始めた。なんだこいつ。何が言いたいんだ?
「夢の中でも会ったのに」
「えっ・・・夢?」
ノア・ロードは、黒フードをまくり、その下から顔を出した。男でありながら、どこか艶やかな雰囲気を醸し出している。その顔は、柊レイ本人とまったくの瓜二つ。
その顔を見た柊は言葉を失った。モニターでその様子を見ていた誰もが、絶句した。
川原が言った。畏怖の念を込めて。
「柊が・・・・・・・・・二人・・・・・・?」
ルリとミコトも言った。
「ご先祖様が・・・・・・二人・・・・・・?」
「どうなってるんですか・・・?これ・・・」
ジェレミーは言葉も出ない。ドッペルゲンガー等といったものがあるのは知っているが、これはその部類なのか、見当もつかなかった。髪の色は白銀、目の色は常に赤く、肌は色白。しかし、それ以外は柊レイと全く同じ姿かたちである。モニターを見ている一同もざわついた。
「き、君は・・・・・・」
「あんたが真実を知るにはまだ早いと思う」
柊が何か言う前に、ノア・ロードは言った。その瞳には憂いの色が混じって見えた。
「でも、元気そうで何よりだ。じゃあ、俺はこれで・・・」
ノア・ロードは柊に背を向けた。まるで、表情を見せないかのように。
「あんたの力はまだまだ、成長していく。その先でまた会った時、今日の続きをしようぜ」
そう言うと、ノア・ロードは審判に目を向けた。審判が突然、
「ノア・ロード選手、棄権を申し出ました。よって、柊の決勝進出とするッ!!」
と言い放った。ノア・ロードは「またな」とだけ言うと、その場で消えていった。消えた一点を見つめる柊。このまま決勝進出したのだが、柊には引っかかる言葉があった。ノア・ロードの言った、「真実を知るにはまだ早い」という言葉・・・。よくよく考えてみた。深~く考えてみた。
しかし、彼の脳内に思い浮かぶはずもなく、ましてや突然言われて理解できるわけがなかった。思考の中にモヤモヤを残したまま、柊は次の決勝へと進んでいった。




