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記憶の裏、霧のかかった道

 柊は目を覚ました。部屋の中でいい匂いがする。何だろうと起きあがってみると、キッチンに水瀬がいた。朝食を作ってくれているようだ。ここ最近、水瀬が朝食を作ってくれていることが多くなってきた。まるで夫婦のような・・・。


「あ、レイ君、起きたの?」

「うん、おはよう。また変なとこ見せちゃったね」

「ううん、大丈夫。レイ君の寝顔かわいいから・・・」


 そう言うと、水瀬の顔が火照った。手際よく和食の朝食を作り終え、机の上に用意した。水瀬もまだ食べていないらしく、柊と一緒に食べた。このころの柊の部屋は、家具も多くなり、男の部屋とは思えないくらい綺麗に整えられていた。柊は水瀬の作った朝食を食べる。水瀬の作る食事は何故か、柊好みの味付けだった。


「ど、どう?」

「ホントにうまいよ!僕の好きな味付けだし・・・」

「よ、良かったぁ~」


 ほっと胸を撫で下ろす水瀬。二人は食事をしながら取り留めのない会話をした。一時間くらい話した所で、ドアのチャイムが鳴った。


「はいは~い」


 ドアを開けると、川原がいた。


「今日、午後2時から、最下層地下124階に来いよ。面白いものがやるぜ」


 それだけ言うと、川原はどこかへ行った。柊は掛け時計を見た。9時・・・。まだ3時間もある。


「どうしたの?」

「昼、地下124階に来いって・・・。」

「そっか。あたしも行こうかな」


 水瀬は柔らかに微笑んだ。その時だ。脳裏に、水瀬とかなり似ている女性が浮かび、途端に頭痛がした。一瞬だが、めまいもした。カノン・・・『カノン・ツバサ』・・・・・・?


「ッつぅッ」

「レイ君、大丈夫!?」

「う、大丈夫。何ともないよ・・・」


柊はそう言った。さっきの女性は誰なんだ?どうして僕が知っているんだろう・・・。水瀬は心配そうに柊を見ていた。


「だ、大丈夫だよ。ちょっとなんか思い出しただけ」

「もしかして・・・・・・」


 水瀬は考え込んだ。しかし、その顔からは少し嬉しそうな表情が読みとれた。


「女性?」

「うん」

「カノン・ツバサって名前?」

「えっ・・・・・・!?」


 柊は目を見開いた。一瞬のことなのに、何で水瀬が知ってるのか分からなかった。


「それ以外は?」

「それ以外は何も・・・」

「そうなんだ」

「それにしても、よく分かったね・・・」

「だって・・・・・・ううん、やっぱり何でもない」

「?」


 水瀬はそれ以上何も言わなかった。それでも、水瀬の心の中には嬉しさが満ち満ちていた。何故嬉しそうなのか、柊としては聞きたかったのだが、あえて聞かないことにした。水瀬が掛け時計を見る。


「まだ時間あるね。レイ君、どうする?」

「う~ん、任務行くと時間かかるし、かといって他にやることはないと思うし・・・。じ、じゃあ、えっと、その・・・デートしない?」

「えっ?デ、デート!?」


 水瀬は目を丸くした。実は水瀬も同じ事を考えていたのだ。水瀬は溢れ出す嬉しさを隠しきれなかった。


「ほ、本当に?レイ君、すごく・・・・・・嬉しい」


 耳まで真っ赤にした水瀬は、気恥ずかしさにうつむいてしまった。水瀬も、いつか柊を誘おうとしていたのだが、まさか柊の方から誘ってくれるとは思わなかったのだ。水瀬は内心ドキドキしてきた。顔を真っ赤にしているのを見られていると思うと、なぜだか顔を上げられなかった。

柊も同じく、ドキドキしていた。あぁ、我慢できずに言っちゃったよ・・・・・・。顔を真っ赤にしてうつむいている水瀬を見ると、すごく可愛くて今にも消えてしまいそうで、なぜだか直視できなかった。


「じ、じゃあ・・・行こうか」


 そう切り出したのは柊だった。それから二人は地下17階へ向かった。地下17階では、遊園地があり、2000年代の東京ディズニーリゾートの2倍ほどの広さを誇る。前々から思うのだが、この地下にそれだけの大きさの建造物を設置できること自体が驚きである。しかも、地下なのに外と見間違えるくらい、明るかった。空は血のような赤ではなく、爽やかな青空である。所々に雲もかかっている。太陽のような光も。しかし、この空は本物ではなく偽物であることに変わりはなかった。

その遊園地には様々な遊具、アトラクションがあり、その中でも一番人気を呼んでいるのが、遊園地でお馴染みの「ジェットコースター」と、「観覧車」だ。しかし、ジェットコースターのレールはなく、宙を縦横無尽に駆け抜けている。観覧車も支柱はなく、それでいて普通の円を描くような動きはせず、上下に螺旋を描いていた。

さすが遊園地。人だかりが出来ていた。二人はチケットを手にして、巨大な遊園地へと入っていった。係員から手渡されたパンフレットを見ると、3日かそこらでは回りきれないような、数多のアトラクションが書かれていた。その膨大な情報量は、パンフレットが厚さ2センチくらいになるほど・・・・・・。


「どこから回っていこう?」

「あたしは、ジェットコースターから行こうと思うんだけど、どう?」


 水瀬が柊の顔を上目遣いにのぞき込む。すごく嬉しそうで、半ば興奮気味だ。でも、そういう水瀬を見ていると、柊まですごく嬉しくなってくる。柊もまた、興奮気味なのだ。


「よし。ジェットコースター行こう!」


 二人は6両あるジェットコースターの3両目に乗った。シートベルトを締める。「はい、皆さん、そろそろ行きますよ~。しっかり掴まっていて下さいね~。」と、係員の声と同時に、ジェットコースターは発射しだした。始めはゆっくり、それからだんだん早くなる。ここまでは柊も知っているジェットコースター。

しかし、それからの動きには戸惑った。なにせ、いきなり逆さになったからだ。おまけにそのまま上へ・・・。いや、逆さになってるから急降下しているのか・・・。ジェットコースターは上がったり下がったりを繰り返していた。もちろん、逆さまのままで・・・。


「うわああああぁあぁぁぁぁあああぁぁあああぁあぁあぁぁぁあぁあぁ!!!」

「きゃあああぁあぁぁぁあぁぁああああぁぁああぁぁぁぁああぁぁあぁ!!!」

「ひぎぇええぇぇぇぇぇええええぇぇえぇえぇぇええぇぇえぇぇえええ!!!」

「□△※〒○♨◆☆@▼◎♯♪‐◇●▽―!!!」


 前からも後ろからも、絶叫が聞こえてきた。中にはこの世のものとは思えない悲鳴(?)もあったが・・・・・・。まぁ、それはさておき、今にもシートベルトからずれ落ちそうで、水瀬はシートベルトにしがみついていた。それからは、戻ったり逆さまになったり、螺旋を描いたり、上下にぐるっと円を描いたり、ホントは故障して墜落してんじゃないのか!?と思うようなこともあったり・・・・・・。

 その恐怖のジェットコースターが終点に着いたとき、乗客の大半が酔っていた。こんなのに乗ってたら、バランス感覚がおかしくなりそうだ。なぜ、人気がナンバーワンなのか理解できない。っていうか、する気もない。まだ感覚がフワフワしている。水瀬も、目を回してフラフラしている。


「あ、あう、れ、レイ君、おも、お、面白かった、ね・・・」

「た、楽しかった、ね。って、み、水瀬、だ、だ、大丈、夫・・・?」

「う、うん・・・だ、大丈夫・・・。れ、れ、レイ君こそ、だ、大丈夫なの・・・?」

「だ、大、丈夫だよ・・・」


 二人は大丈夫と言ってはいるが、正直言って、全然大丈夫ではなかった。二人とも近くの休憩所のベンチで体を休めた。少し時間が経つと、そこに二人の人影が・・・。


「柊、お前も来てんのかよ」


 川原だった。隣には花形・・・・・・あれ?どうして二人が一緒に?柊と水瀬が二人を見る。花形が照れ隠しのようにそっぽを向く。


「わ、私は川原に来てくれって言われたので、し、仕方なく一緒にいてさしあげているだけですわ」

「嘘つけ。お前から迫ってきたくせに」


 川原がニヤニヤと横目で花形を見る。花形の顔が真っ赤に・・・。


「な、な、何をおっしゃいますの!バカぁっ!変な誤解されたらどうするおつもりですの!?」

「誤解になるのか?本当のことだろうが」


 花形が川原の胸をぽかぽか叩く。ようやくフラフラ感が収まった柊と水瀬は、そんな二人を見て笑いをこらえている。ここで、水瀬が提案した。


「それじゃ、せっかく4人揃ったことだし、皆で一緒に遊ばない?」


 「さんせーい!」と異口同音に口をそろえた皆は、午後の2時まで遊園地で遊んでいったのだった。






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