表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

新たな仲間、交差する道(後編)

 またどこかの研究所の明るい一室の中。窓から赤い光が斜めに差し込んでくる。

 誰かが言った。沢渡コウスケだ。


「さぁ、外に出してやろう。周りの環境にも慣れておかなくてはな」


そう言って、黄色い液体のカプセルの中から、ヒトらしきものを取り出した。沢渡の視線はいつにもなく冷めていた。カプセルの中に入っていた人らしきものは、このとき、はじめてカプセル外に出た。はじめての空気は少し肺に重く、ケホケホと咳をした。沢渡コウスケが言った。


「ははっ、慣れれば平気だ。・・・・・・さて、世に出たんだ。ナンバー666、お前の名を考えなければな」


 沢渡はどんな名前にしようか、考えていた。その目は冷めていて、微塵にも愛情を感じさせないものだった。


「クラウド・・・・・・セミシア・・・・・・オルフェンス・・・・・・エドワード・・・・・・名前っていってもなかなか決まらんな。他には・・・ミロク・・・・・・ジョーセフ・・・・・・アラン・・・・・・ポーカー・・・・・・メローネ・・・・・・微妙だ」

「ノア・・・・・・『ノア・ロード』で、いい」


 ヒトらしきものが言った。沢渡が好奇の目を向ける。


「『ノア・ロード』・・・か。いいだろう。好きにするがいい」


ノア・ロードは少しだけ笑みを浮かべた。


「驚いた。表情も変えられるのか。」


 ノア・ロードが問いかける。沢渡は片眉を上げた。


「あんたの名は、何だ?」


 沢渡は無言だが、その表情からは驚きが読み取れた。


「驚いた。知恵もついているのか。」

「はぐらかすなよ。俺はあんたの名を聞いてるんだよ?」

「沢渡コウスケ。お前の親だ」


 律儀に答える沢渡は、よほど真面目なのだろう。ノア・ロードはそれだけ聞くと、満足したように目を細めた。だが、そんなことを気に留めもしない沢渡は続けた。


「今日から、ここがお前の家だ。好きなように動いていい」


それだけ言うと、沢渡はどこかへ行った。一人残されたノア・ロードは辺りをきょろきょろと見回した。そして一言。


「俺の家は、柊レイ本人の『心』なのにな。・・・・・・まぁいいか。会えるし」


そう言うノア・ロードの表情はとても柔らかかった。そして床を見る。そこに何があるかを知っているかのように、付け加えた。


「短いけど、あんたにも」


 その赤い瞳が、さらに赤い光を帯びた。瞬間、ノア・ロードの姿は消えた。

その研究所の地下では、隔離されたフロアがあった。その中の何もない一室で、中学生くらいの少年がひざを抱えてうずくまっていた。その目には生気が感じられない。服もボロボロである。何があったのだろうか。何かブツブツ言うのだが、声は小さすぎて聞き取れない。


コッコッ


ノックが聞こえた。誰かが来たのだ。しかし、何の反応も示さない少年。ドアが開いたと思ったら、警備員らしき人が顔を出した。その人は畏怖の念を感じながら、パンとオレンジジュースだけの食事を持ってきた。


「や、やめてくれよ・・・・・・。お、俺は、ま、まだ死にたくないんだ」


急ぐようにそう言うと、食事を床に置いた。警備員が出て行き、ドアが閉まる。少年は出された食事をチマチマながらも食べ始めた。


「よう、あんたが出月(いでづき) リョウジだな」


 ドアを開けていないのに、少年の前に人影が現れた。ノア・ロードだ。出月と呼ばれた少年からは、なんの反応もなかった。ノア・ロードはそんな少年を見ると、つまらなさそうな顔をした。ノア・ロードの目が赤く、淡く光る。ノア・ロードが出月の左側にしゃがむ。そして質問・・・・・・・・・。


「あんたは何故ここにいる?」

「・・・・・・わ、分からない」


 出月がはじめて喋った。その声色は何かを恐れているかのよう。


「分からない。だけど、僕は悪い子だ。悪い子だ・・・・・・。だって、だって・・・・・・だって・・・・・・・・・」


よほど恐れているのだろう。出月の瞳が怯えの色に変わっていく。体も震えだした。


「僕は・・・僕は・・・僕は・・・僕は・・・僕はッ・・・・・・」

「大丈夫、落ち着けよ」

「落ち着けるもんか!」


 出月が顔を上げ、一瞬だけ目を赤く光らせた。ノア・ロードの左肩のあたりで爆発が起こる。


ズドォォォォォォン


一室の中に煙が立ち込めた。が、その煙は一瞬にして晴れた。大きな音に気づいた警備員がこの部屋に走ってくるのを感じると、ノア・ロードはチラッとドアを見る。すると警備員はピタッと止まり、何事もなかったかのように去って行った。

ノア・ロードは左腕が先ほどの爆発で失ったにもかかわらず、血が噴き出しているのにもかかわらず、ただ微笑んでいた。どこからか、腕のあったところに光が集まり、一瞬にして腕を復活させた。出月はうつむいている。


「なぜあんたは、自分が悪い子だって思う?」

「僕が大切な家族を、友達を・・・・・・父さんを・・・母さんを・・・姉ちゃんを・・・皆を・・・・・・爆発させて殺しちゃったんだよッ・・・だから皆・・・ッ・・・僕のことを『化け物』だ・・・って・・・・・・」


出月の頬を涙が伝う。それでも彼は、ゆっくりと口を開く。


「だから・・・僕は・・・・・・感情を・・・ッ・・・感情を出しちゃいけないんだ」

「そんなことねぇと思うけどな」

「・・・えっ」


出月は目を真っ赤に泣き腫らしながら顔を上げた。ノア・ロードが微笑んでいる。予想外の言葉に、出月は唖然として何もいえなかった。


「それはあんたの個性。化け物でもなんでもない。あんたはただ、そういう能力を持ってしまっただけだ。」

「こんな能力、いらない」


 出月がキッと睨みつける。


「その前に、君は誰なんだ?僕に何の用なんだ?」


出月が問いかけた。その問いかけを待っていたかのように、ノア・ロードは答えた。


「ノア・ロード。あんたの友達になろうとしている、『最強の能力者』のクローンだ。よろしく」


 『友達になろうとしている』という言葉を聞いた途端、出月は嬉しさのあまり、また大粒の涙を流した。


「ほ、本当に・・・?本当に友・・・ッ・・・・」


出月は、自分の能力を制御できなかったために家族を失い、周りの人から『化け物』扱いされ、中傷、非難されてきた。しまいには『化け物を野放しにしてはいけない』と隔離され、感情を殺して、ずっと寂しく隔離部屋の中で生活をしてきた。そんな彼にとって、ノア・ロードの言葉は彼の心に優しく響いたのだ。張りつめていた糸が切れたように、彼は泣いた。彼は心の中から溢れてくる、様々な想いを抑えることが出来なかった。

 ノア・ロードは手を差し伸べた。出月は真っ赤に泣きはらした顔を上げながらも、ノア・ロードの掌に掌を重ねた。そして互いに手を握り締めた。

柊や水瀬たちが、新たな『友達』と出会った一方で、ノア・ロードも出月と出会ったのだ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ