逃亡フラグ破壊
最低クラスの鎧ーースピアに王国鎧がどんどんと落とされていく。
「なんだこれは!? なぜ私の兵が雑兵風情に落とされる? 宰相の話ではまだ騎士として取り立てられて間のないものたちだというのに!?」
目の前で起きている現実を受け入れられず、戦場の只中でセイクリッド辺境伯は金切り声を上げる。
「なぜあんなポンコツであそこまで早く動ける! あれは私の知っている皇国鎧ではない!」
常のスピアであれば、全てにおいて王国鎧の方が上であるというのに、目の前のそれには機動力において上回れており、王国鎧が刃を重ねることも許されず落とされる。
「このままでは私の大隊が壊滅する! それだけはならん! 断じて! 私自ら奴らの中でも特に強く見える三体のうち一体でも落として盛り返す!」
もう勝敗は決しているのも同然だったが、セイクリッド辺境伯は撤退を選ばず、プライドのために自力で巻き返すことにする。
周囲の鎧と比べても抜きん出ている三体のスピアのうち、時折獣のように四足になりながら動くものに目星をつけて後方に大剣を引き絞り突撃していく。
「図に載るな弱者が! 貴様らは蹂躙される側なのだ!」
『何言ってるか、よくわからないけど。お前口悪いな』
視界外から狙った不意打ちだったはずだが、獲物に避けられて、大剣が宙を突く。
相手は手足を地面につけて四足で構え、警戒を露わにすると、不平を言い始める。
「貴様!」
呑気な高い声を聞いたことで、舐められているように感じたセイクリッド辺境伯は絶叫すると、今度は激情のまま大剣を大きく振りかぶる。
常のスピアであれば、そのまま避けきれずに絶命するはずだったが、四足のスピアは懐に飛び込み、胸部に向けて、短槍を放ってきた。
セイクリッド辺境伯の鎧は他の王国鎧よりも頑丈に作られているため、操縦席のハッチが破壊される程度で済んだ。
だが今の一瞬の攻防でどちらが上か、セイクリッドの本能が理解し、完全に心が折れた。
「やめましょう! これ以上は無益です! 賠償金ならいくらでも払いますからここはこれで! 私は弱みを握られて無理やり宰相に言うことを聞かせられてただけなんです!」
『ヴィラン様は殺す気でってことだからまだダメだよね、これ』
懸命なセイクリッド辺境伯の命乞いは、ハッチの崩壊とともにマイクの機能も失われたことで、四足のスピアの騎士ーーエルム・ナイトメアには聞こえておらず、セイクリッド辺境伯に向けて短槍が構えられる。
「やめて下さい! ご慈悲を! やめ……ああああああああああああ!」
最後までセイクリッド辺境伯の声は届かず、短槍がそのまま操縦席に刺し込まれた。
ーーー
「なんだこれ!」「俺たちが来る前にセイクリッドの野郎、壊滅させらてんじゃねえか!」
ルシフェル子爵とアザゼル男爵はヴィラン辺境伯領の様子を見て、ヴィラン抹殺計画の失敗を悟ると、セイクリッド辺境伯が口を割り、あちらに計画がばれているかもしれないと警戒して、その場から脇目も振らず逃走を図った。
敵に捕捉される前で逃げられるはずだと思っていた二人は次の瞬間に絶句した。
「なんで元の場所に戻ってんだよ!」「どうなってんだここは!」
異常事態に二人は混乱すると、上空に漆黒の翼を広げる精霊鎧の姿を確認して息を呑む。
「なんだよ、あれ……」「こんなの聞いてねえぞ! 俺はガキを後ろから撃つだけの簡単な仕事だって聞いたんだ!」
恐慌状態に陥って、再び辺境伯から抜けるために逃亡を図るが、再び元の場所に戻された。
「どうして戻すんだ!? 何が狙いだ!」「なんであいつは俺たちに手を出してこねえ! 薄気味悪い!」
二人が発狂し始めると、二体のスピアが前方から接近してくるのが見え、ヴィラン側に捕捉されたことを悟った。
しかも相手は二人を友軍ではなく、もう敵だと認識しているようで、二人に向けて魔法を展開している。
「畜生がああああ!」「クソがあああ!」
逃げることのできない二人には迎え撃つ他なく、ヤケクソになりながら、二体のスピアと対峙する。




