今さら強さを感じた
「いや待てよ!俺の記憶上誰も殺してないぞ!」
「知るか!お前達は私達人間を人として見ない、もう転生者を崇める国はこの世のどこにもない!」
「崇めて欲しいわけじゃねえっての、とにかく逃がしてくれ」
(まさか転生者ってのも筒抜けとはな)
すでに王都のどこかでも指名手配が何だとかと考えたり言われたりだったが、まさかそれがこの国に情報が数日で来ていると思うことはなかった。
「代理団長、彼にはメティアがついているのでは?」
「厄災をここで祓えるんだぞ、それにやつはいないだろう?ならばこれは千載一遇のチャンスと変わるのだよ」
魔法で焼かれそうになったので流石に俺TUEEを一度でも見たかった、ということで道が一本しかない廊下で魔力の弓を構えた。
「どんだけエイム悪くてもこれなら当たるだろ!撃たれたくなきゃすみませんでしたというんだな!」
「構うかぁ!」
炎を放たれたが慣れない手つきで弓を放つ、だがこの国の団長は兵士を守るため強化された手で矢を掴む、手からは血が出ていた。
「見たか!これが転生者というやつだ!」
「正当防衛だろうが」
ユウガは一気に距離を詰められ死んでしまうかと思ったが、壁に押さえつけられ手錠をつけられた。
(なんかこの流れ既視感が……)
一度王都で半拷問的なことをされ精神的に病みかけたことがある、あれは衝撃的だったがそれ以外のことも衝撃的だったので忘れかけだ。
「ともかく、お前が犯した罪を白状しろ!」
命令的な何かの能力を使われ勝手に口が動く。
「器物破損」
「それだけか?」
「俺にだけ能力使いやがって、お前はどうなんだよお前は!俺より酷いことはないだろうな騎士様よ!」
「騎士にこの世の法律はほとんど適応されないからな、する必要はない」
「逃げやがって」
こんなことを言い合っていると一人の兵士が斧を団長に手渡した、多分だが団長は処刑人と化すだろう。
もちろん自分は首を切られて死んだ、そしてセーブ地点はなんと首を切られる10秒前だった。
「はあぁ!?」
斧が振り下ろされる瞬間に転がるように避けると、謎のゲートが転がる先に現れその中に入ってしまった。
「どこだよこk……」
周りを見渡し悩む様子もなく叫ぼうとすると何かを引きずるような音が聞こえ、前を見るととても大きな石と人間の肌を混ぜて固めたような生物が槍を持ち彷徨っている。
(俺って多分仲間運はあってもそれ以外何もないんだろうな)
とにかく走ってあの化け物から逃げているが様々な道にあの化け物は何体もいた、多分そこらの魔物と違いとても強力であるのは見た目でわかる。
「ハハっ、詰みか……こんな世界をもっと堪能してやりたかった」
諦めるためにこんな言葉を吐くが、本当の死は待つだけですぐに来ないらしい。
とにかく化け物のいない道を進みに進むと誰かがいた、いや、あれは人だろうか?
ともかくそれに近づくと幻覚、または何かの魔法で残された記憶の残影が見えているようだ。
その人物二人の顔はメティアとライムに間違いはなくとても楽しそうだ、遠くにまた残影が現れそれを覗くと何かを話し合っているようだ。
「親友とは言ってたけど、どうやって2人はここ来たんだよ」
よーく見ていると突然上から光が差し、はしごが降りてきた。
「さぁ来い」
角を生やした人間ではなくこれは魔族である、魔族といえばどの世界でも悪役というのが定番だしこれもそれだろう。
「……」
「どうした?早く来ないと人が来るぞ」
「わかった」
(無駄なこと言ったら死ぬかもな)
怯えながらもはしごを登る、登った先は地下?それとも大きな木の中?
「俺は行くところがあるんで帰りますね!」
「外に出たら殺されちまう、もうここで暮らすんだな!」
「はい」
まずは遠くへと逃げるようにあるくが何故かついてくる、ペースを上げるもまるでストーカーのようにだ。
数分逃げていると近くから轟音が鳴る、音の鳴った方向を見るとモルテデモ隊がいた。
「見つけたぞ!魔族の住処だ!」
(たしかあいつら魔物の味方してたやつだよな?のくせしてここには襲撃か?」
デモ隊達は武装していて、周りにいた魔族達を次々と刺し殺していく、ユウガは何も考えずに魔力も尽きかけで慣れてもいない身体強化を使い剣も生成した。
デモ隊の一人を一撃で殺せたが10人以上は確実にいるこの劣勢、今更だが魔族にある借りなんてはしご以外何一つとしてないなのに何故命をかけたのだろう。
「独歩文岸三之章!」
ユウガの剣は何故か自分の手に突き刺さる、敵の詠唱によるものか固有能力によるものだろう。
「うぅぅ!!」
転生者とは思えない惨めな声を上げていた、助けが来ないのは知っているが一応助けを呼ぶ。
「助けてくれ……死ぬ、死ぬからぁ!」
止血すれば痕は残っても重症にはならないはずだ、だがその止血してくれる人もいないし皆が自分のことで精一杯で逃げ惑う大惨事だ。
「クソ、俺が何したってんだよ……」
首を剣で切断され即死した、セーブ地点はどうやら轟音とともに振り向いた瞬間のようだ。
「……キツイんだよ、俺には向いてねぇ」
下を向いてどこかへと向かうが周りの悲鳴と強い足音が何故か罪悪感を呼び覚ます、何か対処法はないか逃げながら考えるがたった一つしかない。
(そんなに俺に魔力があるかわかんねえし殺すのも最悪だった、あの骨の感覚は)
思い出すだけで手が震えてきたので考えていたことをそのまま実行することにした、案外アニメでもよくあるあるだが実際のところデモ隊は身体強化をしておりユウガは今のところ何もつけていない。
だがユウガは小さな魔力剣を作り出し大声で言った。
「俺はモルテデモ隊とかいうクソ以下の思想を持った奴らをビビらせた男!ユウガだ!」
実際のところ剣の英雄が皆の争いを止めたのだがここは嘘を吐く、すると頭が悪いのかこんな挑発に乗りモルテデモ隊の全員がとても速く必死に追いかけてきた。
「そ、そんなもんかぁ?」
かなり必死に走っているので声がほとんど死にかけの吐息だが、やっと壁と壁に挟まれた所へと来たので今までの練習(笑)を活かすことにした。
「当たってくれよなぁ!!」
魔力剣にありったけの魔力を込めると、とても大きな熱線がデモ隊達は血をかなり流して浅い傷跡が何ヶ所もできながら倒れていた、どれだけ敵に魔法や剣を当てるのが下手でもこんな場所でなら必ず当たるだろう。
「お、お……俺TUEEE!!!!」
涙を流して初めて異世界を感じ取った瞬間だ、常に15近く死んでいるがやっと英雄っぽいことをした気がする。
勇者でも何でもないが夢を持つ転生者である!そりゃこんな崩れ落ちるほど嬉しいのだろう。
「よかったぁ!マジでよかったぁ!!生きててよかったぁ!」
魔族達は一応歓喜していたが数人はあまり浮かばない顔だ、家族でも殺されたのだろうか?
(もう俺はこんな場所とはおさらばだ!)
わけのわからない場所を彷徨い続けてもう足が少し痛い、さっさとここから逃げることにしたが魔力が完全に切れてマイナス値になると気絶した。
目を覚ますと全く見知らぬ屈強な男魔族がユウガを見張っていた、それに怒っている様子だ。
「連れていけ」
「いやいやいや!」
数人が無理やりどこかへユウガを運ぶ、それは外とこちらの世界の入り口のようだ。
「ここの王は貴様の人間殺害により強大な人間達が先ほどよりも多く来ると見越した、その責任はお前にあるのだから食い止めるんだ、話し合いはもうできないだろう」
(異世界ってのはどうも俺に都合が悪いな、普通あの後は俺が祝福させるだとかなんだとかだろ)
舌打ちしても一応は頷く、何故自分は周りの奴らを救ったというのにこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。
「早速誰か来たな……ん?」
人影の正体はまさかのメティア達だった、メティア達もかなり驚いているようで。
「ユウガ!?何でここにいるの?」
「全部ライムのせいだ!あいつが転移石かなんかで転移させてきやがった」
「ここで問題!何故ライムはユウガを騙したと思う」
かなり考えてみたが邪魔だったから?それとももっと他の?全く思い当たらない。
「分からないな」
「答えを言ってあげるが君には言わないとダメかもね」
少し離れたところで話をされた、何とライムは数千年前まではまだ6歳でありながら司教であり大事な信徒を7人持っていたが騙された、もちろん親も周囲の者も皆殺され自分は奴隷行き。
その後は勇者一行に内容は教えられなかったが生物兵器として扱われた、それ以来世間では歓迎もされず悪魔と呼ばれ差別対象。
それでも神の教えは捨てず常に人を救い続けるがその後も人は善を騙す、そして誰も信用しない目的のためなら何でもしてしまう一般兵士となったらしい。
「つまり答えは君に最大の苦しみを与えて、まあ人を超える覚醒を起こしてユウガをサカムの洞窟に行かせようとしてた」
「えぇ、なんかこう、えぇ……」
自分は信用していたがまさかライムは信用を全くしていなかったらしい、そもそも覚醒とは。
「ちなみに覚醒は魔力の増幅値を解放するだけのものだよ、彼から信用を得るのはもう諦めた方がいい」
「よし!分かった、信用はしない!」
「君のいた家はここから出てずっと奥に行けばある、きっとライムも謝罪はするはずだ」
言われた通り外に出ようとすると魔族達が数人追いかけてきた、メティアが止めてくれている間に小一時間家まで向かう。
家の前にはライムが立っていた。
「おい!なんか言うことあるだろ」
「確かにあるとも、覚醒をしないならどこぞで食われてしまえばいい」
「失礼だな」
もしかしたらだがチェムネに会わせる気がないのか扉から離れる様子がない。
「はぁ、俺は何もしないし多分チェムネのが強いぞ?」
「自分はあの子が殺されると考えているわけではない、ただこれ以上あの子と仲良くなるのはやめてくれ」
「はいはい、気をつけますよ」
別にそこまで仲良くなった記憶もないが一応話は合わせると家の中に入れてくれた、チェムネの様子を見ようと扉に手を当てると手が少しピリつく。
すぐに扉を開けると結晶が片腕を覆っていた。
「だ、大丈夫……ではないな」
「私は大丈夫よ、でもあなたはどうなの?ライムがごめんなさい」
「全く怪我もしてないから!気にしてもないし!」
いつもチェムネの無理に微笑む姿を見ると心の奥が痛む、歳上である自分が助けられる可能性があるのにそれへと辿り着けないことが。
「ふふっ……ありがとう、そういえばもう黒結晶の件は何とかなったから安心して」
「ど、どうして?」
「間に合わないみたい、ライムが行けばまだ全然間に合うのだけど行かせるのも悪いし」
自分のことで精一杯だったユウガは今まで俺が1番辛いはずだと思っていたがそうではなかった、失ってから気づくのなんてもうこれで何度目かわからない。
いいや、失ってから気づくことはもうしない。




