絶対多分きっと、ここは地獄
「はぁ……はぁ……逃げてるってのに全く景色が変わらねぇ!」
暗闇を走り続けると意識が戻り部屋の椅子に座った状態だ、夢にしては急すぎるし眠気もなかったはずだろうに、先ほどの光景はなんだったのだろう。
「おはよう、あなたも随分疲れた顔をしてるわね」
「ごめんごめん、寝ちゃってたみたいだ」
チェムネが布団の中を漁り出すと紋章の書かれたペンダントを取り出し微笑んだ。
「多分私は兄が帰ってくる前に死んでしまう、だからこれを兄に返して欲しいな」
「いいけど、それは貰い物じゃ?返すってことは兄が君に渡して」
「死にゆく私が持つなんて、嫌なの」
もちろん言ってることは理解できなくもないが、弱っていく体だと知っていながらも渡したのだからそれを返すのは気が向かない。
「それを兄は知ってたけど渡したんじゃないかな」
「それにこのペンダントは、兄の母が唯一残したものだったの」
なんだか屁理屈を言っているようにも聞こえてきた、結局のところ渡されたのだから最後まで持っているのがなんたらと思っていた、だがそんな時扉が開いて誰かが来た。
「そこの人は誰?」
仮面を被った冒険者であるはずの男の人だ、どうやらチェムネとは顔見知りのようであり仲も良さそうだ。
「兄が転生者を連れてきてくれたの、たださ」
耳元で何かを喋っている、愚痴か偏見を語っているのは間違いないだろうし言われるのも仕方ないとは思う。
「自分の名はシューウ・ライムと言ってね、この子の医者であり」
「医者いるのになんで俺呼ばれたん?」
ライムという名前を今までかなり聞いてきたのにそれよりもまず1番の疑問点があった、医者のような役割で自分は呼ばれたのになぜ医者がすでにいるのかと。
「医者でも加護がついているとは限りませんよ?」
「あっ、そういえばそれだ」
「あとは、あなたのように試練は受けられませんから」
「試練?」
なぜかユウガが試練をすでに受けているかのような口ぶりに不思議そうにした。
「第一の試練は過去の悪夢から逃げずに最後まで見届けたら成功、第二の試練はもしも、第三の試練はサカムと思想についての対話」
「まさか、あれは夢じゃなかったのか?」
「きっとそうでしょうねえ?ま、悪魔と捉える者もいますが」
本で読んだ通り今の所悪夢と試練という言葉が出てきた、なんとなく今の状況は分かったが第二の試練のもしもがよく分からない。
「第二の試練はどういう内容なんだ?」
「その時もしもこう動いていれば皆んなこんな苦しまなかったんだよ!とかいうのを見させられるらしいですよ、ただ第一の試練を失敗したならチャンスは来ない」
ユウガはもちろん失敗しているのでチャンスが来ないことを知った、つまり今回救うと言ったものの絶対に救えないことが分かった瞬間だ。
「えーと……サカムってどこにいるんです?」
「住処は旧王都の湖近くらしい、だが居場所を知ったとてこの子を放っておくわけにはいかないだろう?」
「あはは……そりゃもちろん」
(救うことは無理なのか)
今となっては時が立つのをなぜか期待している自分もいる、つまり救うのが無理だと分かったならキッパリと諦めてしまったのだ。
(希望さえあればすぐ動けるんだけどな、なんかないか?)
少し考えた、自分は前世ニートのくせに責任を感じても何もしなかったような人間だ、もちろんそんな人間は変わることなく責任をあまり感じないように物事を考えるもので。
「あー、ライムさんはこの子を治すためならどんなことでもする!って感じ?」
「方法があるのか!?もちろんなんでもするとも!あるんだろう!!」
「あっ……あぁ!もちろんさ!それは俺が帰ってくるまでその子の看病をしててくれ、そうすれば黒結晶ってやつとってくるぞ!」
この話をチェムネも聞いていたが否定はせずただ微笑むばかりであった、自分は申し訳なくなるし、希望に縋り付く自分が惨めにも感じられてくる。
「アハハ、転生者ってのは随分とみんな威勢がいいしすぐ死んでいく、チェムネ?この人を鑑定して信用できると思うかい?それで行かせられるかが分かるからね」
ユウガは何故か二人にジロジロ見られる、チェムネの能力は鑑定であるはずだからかなり目を凝らしてみている。
「うーん……魂の色は灰色だし、能力はユウガさん以上の魔力で隠されてる」
「てか俺が看病して他の奴が」
「それに関しては断らせてもらうよ、自分は他人に疑心暗鬼でね」
ライムが行くことはまずなくなり自分もそろそろ詰みというやつだろう、人を救うなんて簡単に言いはしたものの自分自身やはり無理な気がしてきた。
昔から無理だと人に言わずに考え続け有耶無耶にさせ全て崩したのが自分だ、また同じ流れになってしまうのだろう。
「黒結晶は作れないのか?」
「人や魔族でも作り方は分からず……ユウガさん、一つ教えます」
耳元で少し現実的なことを言われる。
「これはユウガさんの責任ではなく自分の責任なのですよ、もう十分この世界が辛いなんて分かっているだろう、挑戦なんてやめなさい」
「ハハッ!俺は転生者だぞ?こんな世界イージーゲームだ!それに責任背負って誰かを救おうなんて考えてたら自分が傷つくぞ」
ライムはなんだか言い返せないのか椅子に座り目を閉じ思考を始めた、するとチェムネが鋭いことを言ってきた。
「あなたはそれを言い聞かせられるほどの人間?地位だとか関係なく人として」
「そ、そりゃあもちろん!俺は傷ついたことなんてねぇし負けたこともないんだぞ!」
「はぁ……そういうのならそうなのね、転生者だからというより隠していたらいつの間にか事実に変わるタイプなのかもね」
ユウガも自分が少し負けた気でいはしたが隠し通せはしたはず、そう信じることにしておいた。
「とりあえずだが、治療はあれ以外に何もないのか?」
「超大量の魔力を結晶一つ一つに送り破壊、ですがそんな魔力を持っているものは魔王ですらいないでしょう……」
ユウガがその魔力の持ち主なのだが、服の効果で隠れ続けていたため自分自身でも忘れているのだ、なんて愚かなのだ。
「ユウガさんの付き添いもドクターの治療も本当にいいんですよ、どうせこの治療は兄による気休めの延命治療なんですから」
「これは気休めじゃない、私が選ばれたのだから治さずして英雄は続けられないのだよ……」
「ん?英雄?」
名前を思い出しメティアの言っていたことなど様々なことを思い出しこの人間?は、どんな異世界小説にも出てこないほどには強い者なのだ。
「おーっと……まあなんだ?俺も別にお前の事は医者としても尊敬してるし!それにだ!」
「おや?……自分はユウガさん、あなたを信用するために聞く、あなたはどんなところで働いていますか?」
「それはー……スライムを飼ったりしてるとこ?」
自分でもなんと表現すればいいか分からず第一印象を言ったが殺されてしまうかもしれない、顔色は悪いとも言えないが良いとも言えない。
「そうだねユウガさん、とりあえず君は信用はできない」
「当然っすよね」
「それに君は、どうせ前世では堕落して本末転倒ばかりするような人間だろう?逃げて逃げて、今さらこの世界に救いを求めた……どうせ誰かを救っただろうが誰からも愛は貰えやしないからね?」
「言い過ぎだよドクター!」
チェムネがライムの頭を近くにあった棒でぶっ叩いた、無傷ではあるがユウガだけはとても焦っているようで。
(全部その通りだからこそ心にくるものがあるな)
「その通りなんだろうよ、でも愛なんて求めはしねーよ」
「君みたいな人間は何を欲するか分からない、だからこそ問おう、君は何かを救い対価に何を求める?」
「そりゃ昔っから変わんねーよ、そこにいても良いって思わせてくれれば良い」
いつもは人の笑顔だとかというが、本音はこれだった。
居場所のない者は常に孤独なのだから、省かれていると思いたくないからこそユウガは居場所を求めた、前世は居場所はあっても愛も友も何もなかったのだからこれしかないのだろう。
「まるで昔の自分を見ているようだよ、まあまずは二人でチェムネを治そうじゃないか」
「もちろん!」
「二人ともねぇ、時間の無駄になると思うよ?」
「時間を無駄にしなければ良い」
ライムは部屋から出ていくと大きな音が何度か聞こえると急に静まり返った、死んだんじゃないのかと扉を少し開けて覗き込んだがそこに姿はない。
「てかあの人普段は何してるの?」
「スライムと戯れるだとか私の呪いを治す可能性を探す、それ以外はずっと暗い顔で何も考えず下を向いたまま」
「大丈夫なのかそれ?」
「大丈夫なんじゃない?本人は何も考えず行動するのが1番幸せらしいし」
メティアの言い方的にも過去には何かがありそうなやつだ、どうせ辛いことがあってもう考えたくないふうな何かだろう。
(なんか悲しいな)
「そうだ、ちょっとライム探してきてほしいな」
「いいですよ」
部屋の外に出て家中探しても全く現れず少し外に出てみたが見当たらなかった。
「どっか出かけたのか?」
家の中に入ろうとすると肩を掴まれ背中を強く殴られた、後ろを振り向く時間があったら逃げる派なので家の中に飛び込む。
「不審者め!!今ここで潔く死んでしまえええい!!!」
「死ぬ!死ぬ死ぬ!」
胸ぐらを掴まれ剣で突き刺される寸前に何かの魔法?を使ったのか女騎士の持っていた剣をいつの間にか手にしていた。
「おっ」
「あ……」
「手ー上げろ!!どーせ弱い者いじめしかできないカスなら俺が」
剣を向けると放り投げられる、少し怯むがすぐに立ち上がり戦闘態勢に入るが上目遣いをされる、動物で言う降参ポーズとなんら変わらないところに少しイラつくが切るのには罪悪感もほんの少しはある。
「んだよ、誠意見せろよ」
「もちろん!」
金を渡されるが騎士のくせにプライドだとかなんだとかを感じていないことにも悲しさを覚える。
「騎士のくせにそれかぁ?まあいいけど」
「団長!この者は隣国の転生者です!」
突如家の中に15人ほどの兵士達が入ってきて事実ではあるが知らないことを言われた、まさか自分の情報はほとんど筒抜けなのだろうか?
「おいおい!この剣持った俺がお前らに負けるわけないんだよwwwてんせーしゃって奴だからなぁ!!ぶちのめしてやるぜ、俺TUEE!!!!」
「武器を手にするとバフを手に入れるのか!?全員防御態勢に入れ!」
全員盾を構えたのでここは一発何か魔法を撃ってやろうと、人の家で魔法を放ってみたが火の小さな玉が自分の上にフヨフヨ浮かぶだけだった。
「……こいつは5秒後に目を失明させる光を放つZE!!」
「目を瞑れ!」
ユウガは嘘を吐いて階段を猛ダッシュで登りチェムネの部屋の中に入った、家がはないので大きな棚を大急ぎで扉の前に置いた。
「俺の勝ち!」
ため息を吐くとチェムネがこの部屋にはなかった大きな鉱石を手にしていた、自分はそれに見惚れていて売ったらどんくらいだろうな、と考えていたら扉が強く開かれ棚が倒れてきて押し潰された。
「チェムネ!襲われていないか?」
「え?なんのこと?」
「見知らぬ男が大団長の家の中に入っていた、きっとお前を人質にしようと企んでいるに違いない!」
これを聞いてかなり苛立ちユウガは初めて手に魔力を込めて棚を騎士達に吹き飛ばすと、運良く命中したが全く怯んでいなかった。
「ここにいたのか!すぐに極刑を与えてやる」
「あーっす!」
扉を開けて躊躇なく飛び降りると魔力にやっと慣れたのか傷がつかず、そのまま家の裏に隠れた。
(騎士とは必ず因縁が付くよな、あれ味方にして漫画みたいに使役できないかなぁ)
死体のように家の中で音が鳴り止むのを待っていたら、隣でライムが何かを食べていた。
「あ……」
「えぇ!?」
スライムが徐々に飲み干されていく、もちろんスライムも怯えながら逃げようとしているこの光景は地獄絵図とでも言うのだろうか、自分は見なかったことにして家に帰る。
「もう消えたよな、帰ったよー」




