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10 守護者の巡廻(??視点)(1)


「占い師殿、どちらへ?」

 現国王への通達を終えて、一度神殿に戻ろうと王城の廊下を歩いていると、万人に好かれそうな柔らかな声に呼び止められた。

「おや、ごきげんよう、アンリ殿下。ようやく夢見の悪さから解放されたんでな、これからしばらく物語の悪役たちの様子を見て回るのだよ」

「最近姿を見ないと思っていたが、そうか、占い師殿もいい夢ばかりを見れるわけではないのだね。…物語の悪役というのは…国に害を為す者ということだろうか?」

「好きなように解釈すればいい。詳細は女王陛下に尋ねれば分かるよ。今行けば、恐らく王妃殿下と一緒にお話を聞けるかな」

「…私は行ってもよいのか?」

「いいよ。許してやる」

「!分かった。行かせてもらう」

 王太子は、期待と不安、それから喜びと王族らしからず表情を素直に変化させた。留学を経て、その価値観はマシになったようだからな。

 改めて出発をしようと足を動かしたが、再度王太子に呼び止められる。今度は何やら神妙な顔持ちだ。

「私は、占い師殿に王族として認められる者に成れただろうか?」

 そう言えばこの王子は王としての資質を問うために、俺が留学を勧めたと思っている節があったな。当たらずも遠からずと言ったところだな。

「殿下の性質は王族の身分と相性がいい、というのが俺の見解だ。あなたはずっと誠実だった。他国への留学も意味があったようで、俺は喜ばしいと思っている」

「…人を見る目は養われただろうか?」

 えらく自信がなさ気な様子だな。嗚呼、フラグメント侯爵令嬢のことを気にしているのか。あの魂は悪に染まっているわけでもないのに、浄化が叶わない生を繰り返しているのだから可哀想なものだ。

「では1つ、俺から助言を。玉座を退いた時、生涯で最も愛したと思う人に会いに行くといい。それができた暁には、次の生で、魂が愛している人と結ばれるだろうね」

「玉座を退いた時…また随分遠い話だな。それに愛する人と結ばれるのは来世か」

「この国の歴史に比べれば然程遠くもない。その日が来るまでよく考えるといい」

 かの魂の執着は中々なものだが、臆病で想いを遂げることはこれまでの生で一度もなかったようだ。よく言えば誠実だが、重要な一手をとることができず、いつの間にか寂しい業を背負うようになった。俺が少しばかりの同情を覚えるほどだ。臆病な魂ではあるが、その一途な心には好感を持っていなくもない。

「では、俺はしばらく留守にするよ」

 しばらく神殿を離れることになる。出立の前にやっておくこともまだまだある。さっさと済ませて、愛しきシェリーの顔を見に行きたい。そうしなければ、気力が持たない。




 国内有数の豪華絢爛な様を誇る屋敷の門の前に着く。王都内は移動が早く済んで助かる。

「急な訪問失礼。君たち門番は俺が何者か分かるか?」

「いえ…神殿の方とお見受けいたしますが、神官の方がプレヌ公爵家へ何用でございますか?」

「当主夫妻へ占い師が来たと伝えてくれ。話したいことがあると」

「!!失礼いたしました!早急に伝達いたします。占い師様は邸内にてお待ちください」

「案内よろしく頼むよ」

 国歴の中で最も王族が降下している公爵家であるプレヌは、次期当主の予定だった者により今は落ち目を迎えるかどうかの狭間にある。

 そんな中での俺の訪問。吉報か凶報か、期待と不安どちらも抱えているのが屋敷の者たちからよく見える。公爵家にとって都合がいいかどうかは事が終えてからでないと分からないと言うのに。


「占い師様、この度は我が公爵家に御足労いただき誠にありがとうございます」

「感謝は不要だ。俺の都合で来ているだけなんだからな。公爵家に良い知らせを運んでやってるわけではない」

「そうでありましても、こうして占い師様が我らを訪ねてくださったことが、この上なく光栄なのです」

「そうか。で、プレヌ公爵、今は色々と忙しいのではないか?王太子の婚約者が決定し、次々と貴族たちが婚姻という縁つなぎを始めている。後継のこともあるだろう。どうするつもりだ?」

「…まずは嫡男の再教育を行います。歳近い次男も優秀ですが、次期当主には嫡男以外は考えおりません。婚約者選びは教育後でも遅くはないと考えております」

「4年間苦楽を共にした仲であるはずの王太子からの覚えが悪い者を後継に選ぶのか。嫡男への愛が強いのだな。嫡男は他家から遠ざけられ始めているのだろう?そのことはどう考える?」

「王太子殿下の誕生パーティーでは、確かに息子は醜態を晒してしまいました。ですが、今後態度を改めた息子を見れば、みな認めてくださるでしょう。何より見目の麗しさにおいては格別な子です。本心では結婚したいと思っているご令嬢はたくさんいるのですから」

 肝心の好いた相手には心底嫌われているがな。長いこと困らされているくせにあの執着のことは忘れているのか?

 それはまあ、どうでもいい。しかし、嗚呼、やっぱり、プレヌは嫌いだ。プレヌに限らず、この国の人間のほとんどが嫌いだが。

「まあ、好きにすればいい。俺は別に公爵家の後継選びに口出しする権利はないからな」

「いえいえ、占い師様からご助言をいただけるならば、我らは喜んで拝聴いたします」

 聞きたいことしか聞き入れるつもりもないくせに。俺が公爵邸を訪問したという事実に舞い上がっている。

「そうだな…俺としては当主交代を焦る必要はないと思うぞ。公爵家の将来に関わる重大なことだ。君たちもまだまだ現役だろ?多少年月をかけても困りはしない」

「あ…そうですね。子の教育には親の背中を見せることが何よりも有効でしょうし、しばらく私たちが息子の手本になれるようにいたします。占い師様、ご助言ありがとうございます」

 公爵夫妻が恭しく礼をとった。俺は助言も励ましもしたつもりはないが、俺から導きと思える何かを言ってもらえたということで重要なのだろう。

 すぐにでも嫡男が爵位を継げば、辺境伯夫人を手に入れるために内紛すら起きかねない。本当に迷惑なやつだ。嫡男が権力を持つ時期が遅くなればそれでいい。嫡男の教育がどうなろうが、後継者が誰になろうが、その結果公爵家がどうなろうが、俺の知ったことではない。

 次男はまた別の機会に見てみるか。



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