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一三

 志津が亡くなった際、病院長の君島圭吾と話し合って、誰ひとり身寄りがないことが分かったので、仕方なく瑤子が遺骨を預かることになってしまった。遺骨供養のことなど考えたこともなかったので、気軽に了承してしまったのだ。志津が元気な頃、身寄りがない自分が死んだらお願いねとか、冗談交えてお互い話し合ったことが何度かある。おそらく、美咲への手紙と同じ頃に書いたのだろうか、その遺品の中にその冗談話をきちんと整理した内容にして、自身のことを丁寧に記載したノートを見つけた。それによれば、志津の故郷に吉川家の菩提寺とも云うべき、浄福寺と云う寺があることが分かった。その境内の霊園には吉川家先祖代々の墓があることも知ることになり、訊けば無縁仏の状態らしいので、寺の住職に事情を話し、その霊園内に新たに志津個人の墓として墓標を立てて納骨した。

 次の日曜日、それはクリスマスイブ。瑤子と美咲は私鉄を乗り継いで志津の生まれ故郷へやってきた。

「駅からちょっと歩くけど…、大丈夫?」

瑤子は美咲を見て微笑んだ。

「あたしは大丈夫だよ。瑤子かあさんのほうが大丈夫じゃないんじゃないの?」

美咲は志津の手紙を読んでから、志津のことを志津ママ、瑤子のことを瑤子かあさんと呼ぶようになった。

「ふーん、ここが志津ママの生まれたところなんだよね?」

美咲は駅のホームに立ってぐるっと見渡した。

「うん、そうなんだけどね。おうちはもうなくなってるんだって」

瑤子はどんよりした冬空を見上げた。

「へー、そうなんだ」

「あたしも詳しいことわかんないけど、土地も知らない人に渡っていて、その場所は何にもない更地になってるらしいよ」

10分ほど歩くと左へ折れる脇道の角に浄福寺を示す標識があった。そこ折れて50メートルほど行くと、右側に立派な四脚門が見えた。

「瑤子かあさん、なんかすごいね。ここ」

美咲はあたりをきょろきょろ見廻しながら、何故か感心している。

「はい、これが志津さんのお墓」

瑤子が境内を抜けて、霊園に入ってすぐのところで立ち止まった。そこにナースキャップを形取ったモニュメントが付いたお洒落な現代風の墓標があった。


いつもありがとう

あなたのことはずっと忘れない

増井瑤子・美咲


墓標の正面に彫り込んである。

「あたしと美咲の気持ちを刻んでもらったのよ。すべてオリジナルのお墓だよ」

瑤子は墓標を見つめたまま呟いた。

「瑤子かあさん、あたしにはお母さんが2人もいる。こんな子はクラスにいないよ。だから、これからもずっとあたしのお母さんでいてほしい。お店も手伝わせて。志津ママのことはもっと知りたいから、瑤子かあさんが知ってること全部教えてほしい」

瑤子が見上げた冬空からは、白いものが落ち始めている。美咲はフエルトで作った雪だるまを3つ、墓標の前にそっと置いて呟いた。

「志津ママ、あたしも看護師になるから」

瑤子は初めて聞く美咲の言葉に、少し驚きながら美咲を見て微笑んだ。


おわり





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