第3話 美少女と魔族の国
魔族の国、ヴァルディア国の手前の大きな街で遊んだミモリとビキカは旅を続けて歩き出す。
ヴァルディア国とピーニ王国との国境に着くと、空が紫色に変わり、雰囲気が変わったのを感じた。
「魔族ってどんな人たちなんだろう。」
魔族の街を探すがどこにも見当たらない。
今日の宿は見つけられなそうだと思った瞬間、木のうろから黒色の手が伸びてミモリの足を掴む。
「へ?下から?」
「ミモリさん!」
穴の中に引き込まれた先には街が広がっている。
人間族を恐れて地下に住んでいるようだ。
どうやらミモリたちを侵略者だと勘違いしているようだが、弁明する手段がない。
「ミモリさん、どうしましょう。」
「こういうどうしようもない時は…許してにゃん?」
さすがに牢屋に入れられた。
最大限の優遇はあるものの、牢屋に入れられては旅を続けられない。
かといって脱出しても、この先しばらくはヴァルディア国を通るため、結局捕まるかずっと追われる身となってしまう。
「どうにかして害がないことを証明しないと。」
「冒険者カードも見られています。難しそうです。」
冒険者カードはパスポートのように国ごとに違っていて、ピーニ王国の冒険者カードは野蛮な人達が持つものだとしてヴァルディア国とフリージュ共和国では警戒されている。
「ねえねえ、私たち本当に世界を旅してるだけで、侵略とかじゃないのよ。」
「たしかに侵略しに来た装備じゃないが、一応警戒しておかないとな。」
「私たちむしろ襲われる側なのよ。それに、この国を通りたいだけで何もしないから。」
「では見張り付きで旅を特別に許可します。可愛い子を閉じ込めておく訳にはいきませんし。」
見張りの兵士が二人つくことになった。
馴染みのない真っ黒で鋭い爪の生えた姿は少し怖く感じた。
だが魔族にも可愛いという概念があって安心する。
「ふう。旅を続けられるみたい。ここで終わったらなにも達成せずにまた転生するところだった…。」
魔族の街を見て回る。
建物も魔族用に特殊な形をしていて面白い。
ビキカは宿を発見した。
「ミモリさん、あそこに泊まれそうですよ。」
「あそこがいちばん大きい宿かな?よし、あそこで1晩とまらせてもらおう。」
魔族の宿は中身は意外と素朴なものだった。
それというのも、ヴァルディア国はあまり栄えておらず、その経済力はピーニ王国の足元にも及ばない。
この首都のヴァルディ以外の街は村のようなもので、ただの木の下の洞窟で暮らしているのがほとんどだ。
「まあこの宿は我慢できないほどじゃないし、使わせてもらおう。」
一晩寝て翌朝、街を出て旅を再開する。
木のうろからよじ登って外へでると、天気は相変わらず紫色の曇りだった。
「開けてるから盗賊が来たら逃げられない。見張りが着いてむしろ良かったかも。」
しばらく道なりに進んでいると、道が木に向かって続いている。
ここに村があるようだ。
「ヴァルディアの村は立ち寄らないことをおすすめします。」
「なんで?」
「昨日みたいに捕まる可能性が高く、首都ヴァルディは公正な審査と処罰ですが、地方の村は私刑のところが多いんです。」
村は貧困なのもあって危険なのだと言う。
しかし、ミモリはこの旅の中で困っている人を見捨てたくない。
出来ればヴァルディアの村もフィヨド村のように救いたい。
「わかりました。私たちが話をつけましょう。ただし、目的が済んだら直ぐに村を出ます。」
「はい。そうします。」
ミモリとビキカは兵士に守られながら村を見て回る。
村はほとんど洞窟そのままでそこら中に住人が寝ていたり、作物を収穫していたりしている。
「見た感じ生活はそこまで困ってなさそうだけど。」
「いいえ。ほら、例えばあそこではお金が無い人達が作物をめぐって争っています。」
武器もないので爪で戦いあっている。
このように事件が些細なことで起こってしまうのだろう。
「これも貧困ね。ヴァルディアはなぜ貧乏なの?」
「ヴァルディアは魔族の国です。もともと魔族が少ないのと、魔族ではピーニ王国との取引ができないので小国との作物のやり取りでしか収益がありません。」
ここでも種族間の差別が悲劇を産んでいる。
一刻も早くビキカを活躍させて差別を撤廃させなければならない。
「ごめんなさい。今は助けることが出来ないけど、この旅が終わったら助けに来ます。」
ミモリとビキカは村を後にした。
それはそうと、村に留まれないのであれば今日の宿がない。
今夜は野宿することになった。
「ご飯にしますけど魔族の人たちって何食べてるんですか?」
「基本そんなに変わりませんよ。肉とか野菜とか木とかですかね。」
「木?実じゃなくて?」
「はい。魔族は木を加工してたべます。なにしろ地下に住んでいるので作物は育たないのです。」
せっかくなので魔族料理の木を食べてみることにした。
「固い…。」
味も匂いも固さも木そのままだった。
夕食を食べ終わると、片付けている最中に盗賊が現れた。
兵士が戦う準備をする。
「まって!傷つける前に試したいことがあるの。」
ビキカは拘束魔法を放った。
「拘束魔法、トース!」
「からの、脱衣魔法、ヌヌエード!」
しかし魔族の盗賊たちは既に裸だ!
あとは可愛いで押し切る。
魔族にも可愛いという概念があることは街で既に知っている。
「ねぇ…見逃してくれなぁい?おねがい♡」
「ぐへへへ。だが、俺はそこらの盗賊とは違う。」
「私からもおねがぁい♡」
「ぐわあああ!」
盗賊を追い払った!
追い払うだけなので経験値は入らない。
「なるほど、装備とレベルがどうりで弱いわけです。」
ミモリとビキカは装備を攻撃力でも防御力でもなく、脱ぎやすさで選んでいる。
「さあ、今日は寝て、明日はダンジョンに行くよ!」
テントで一晩を寝過ごす。
翌朝、異様な暑さで目が覚める。
「これは地下の方が涼しそうね。」
「まだ朝早いのにこんなに暑いの?」
「ここはヴァルディア国のなかでも熱帯の地域です。一年中この蒸し暑さですよ。」
テントを立てる場所を間違えたかもしれない。
予定より早いが、やることもないので出発する。
「やっと着いた。結構体力持っていかれるなぁ。少し休んでから行こう。」
「道も地面が軟らかくて歩きづらかったです。」
日陰で少し休む。
ヴァルディで買った木の実ジュースを飲んでみる。
「ん!すごく甘い!シロップ飲んでるみたい!」
「しろっぷ…?とりあえず飲んでみます。」
木の実ジュースはとても甘かった。
ジュースとしては美味しいが、水分補給には向いていないのかもしれない。
「水飲も。」
「ですね。」
暑さもマシになってきたのでダンジョンに入る。
前回のダンジョンよりも敵の数が多く、難易度が高い。
「兵士さんたちいて良かった…。」
「魔法だけじゃ絶対無理ですね。」
ほとんど何もせずに最下層までたどり着いた。
兵士たちは顔を合わせて頷き、ミモリとビキカを壁に追い詰める。
「な、なに?」
「最下層なら誰も来ねえだろ。」
「こんなに可愛い女の子を逃す訳には行かねえんだ。」
ダンジョンで追い詰める計画を前から立てていたようだ。
ビキカは魔法を使って兵士を拘束しようとする。
「拘束魔法、トース!」
「ふっ、この魔法はあらゆる攻撃魔法を無効化する。」
「なら、脱衣魔法、ヌヌエード!」
脱衣魔法は便利系(?)魔法なので鎧の効果を貫通する。
兵士Bは裸になった。
その隙に拘束魔法で拘束する。
一方ミモリは魔法が使えない。
今までは可愛さで何とかしたが、今回は可愛さが仇となっている。
「このっ!離せっ!せいやっ!」
ズムッ
「ぐわああああ!」
昨晩の晩御飯の魔族の食べる木を残しておいたものを咄嗟に掴んで殴ると、みごとに目にクリーンヒットした。
「あれほんとに食べ物かな。」
「木を食べるとは聞いたことがあるので本当でしょう。」
お楽しみのお宝部屋には、宝箱がひとつ置いてある。
よほどの高価なものが置いてあるのだろうか。
「宝箱、開けます。」
「こ、これは!?」
「…木?」
「しかも大っきいですね。」
一応持ち帰った。
地方の村に売ったら大喜びされた。
ヴァルディアを抜けて小国、アステリア公国へ向かう。
「ヴァルディア国の旅も成功ということで!カンパーイ!」
「か、かんぱい…。」
「やっぱり甘い…。」
「やっぱり固い…。」
食べ物の美味しさの大事さに気づくふたりだった。
こんなに書いても4000字いかへん。
そんなに省略もしてないけどな。
戦闘があっさりしすぎか?
でも戦闘メインの話じゃないし…。と迷いながら書きました。
読んでくれてありがとうございました!
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