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夏19:灼き尽くすような熱情を-前編


 私、男が嫌いだったんです。父親みたいに力で女を押さえつけて傷つけるから。


 女も嫌いでした。母親みたいに泣いて屈することしかできないから。


 なんか全人類嫌いみたいな感じに聞こえるかもしれないけど、実際そうだったかもしれないです。自分以外みんな嫌い、何だったら自分もたいして好きじゃない。そんな感じで中学生になるまで生きてました。


 今の話で判ったと思いますけど、私、親に虐待される家で育ったんです。


 父親は外面はいいイキった小金持ち。みんなが羨むような大きな屋敷を持っているけど、外で気に喰わないことがあったら家の中で母親や私に当たり散らかして憂さ晴

らし。


 職場の部下や夜の街とかで目をつけた女の子にお金をちらつかせて気を引こうとして、それに失敗するたびにお荷物のお前らがいるせいだからとか、俺の見えないところで邪魔するからだとか被害妄想拗らせて蹴る殴るグチョグチョにするのDV三昧。


 母親も父親に似てツラはいいけど中身スカスカのどうしようにもない泣き虫女。自分で自分を守ることもできやしない。


 父親の手が私に伸びても逆らったら余計怒らせるだけ、本当は家族にこんなことしなきゃいけないお父さんのほうが辛いとかワケ判らないコト言って私に泣きつく有様。男に欲情されて子どもを孕ますこと以外何もできない存在。


 ま、こんな連中の間に産まれたお陰だかなんだか知りませんけど、自分を守れるのは自分だけだって価値観を身に付けることはできました。


 警察や施設? 頼りませんでしたよ。身近の大人がこんななのに、見ず知らずの大人なんてもっと信用できないし、それに誰かに弱音を吐いて泣きつくなんて、あの弱い母親と同じ存在に成り下がるみたいで、それだけは何があろうと絶対になりたくなかった。


 でも中学に上がったあたりで気づいたんです。毎朝鏡を見るたびに、そこに映る自分の姿が母親に近づいていくことに。


 止まって欲しいのに変化は止まらないし、それどころか日を増すごとに身体も顔も何もかもがあの女と同じになっていく。


 そして周りの男たちに下賎な眼差しを向けられるようになって、いつか自分も母親みたいに、あの父親のような連中に喰い物にされるんじゃないかって想像するだけで頭がおかしくなりそうになる。


 全身の肌を掻き毟って、喉の奥から血反吐を吐きたくなる気持ちを堪えながら、それでも自分は強くいなきゃいけないと思いながら正気を保ちながら生き続けていました。


 ……中学一年の秋、上の学年の男子生徒に強引に迫られたんです。


 私はそいつをぶん殴ってあしらったけど、そいつはどっかの部のエースで、しかも女子からの羨望を集める人気者。


 すぐ大ごとになって男子生徒は処分を受けたけれど、男子は前にも増して好奇の眼差しで私を見るようになり、女子からは僻まれて白い目を向けられて指を指してくるようになりました。


 おまけに家では父親からお前はトラブルの種を撒き散らす厄介娘だって折檻されて、母親はどうしてお父さんの言うことを聞けないのと喚き散らかす。


 顔以外の全身の灼けるような痛みに屈しそうになり、地を這ながら見上げた母の顔は、毎朝鏡を見て映っている女と瓜二つでした。


 ここまで来ちゃ、もうツッパリ続けるのは無理でしたね。


 気がついたら私は外に飛び出していました。


 街灯も何もない場所で立ち尽くして、それから当てもなく彷徨っていると、どこかの高台に辿り着いていました。


 その高台の縁には転落防止の低いフェンスがついていました。


 私は自然とフェンスに向かって足を向けると、そのままフェンスの上に立とうとしたんです。


 でも、震える足で細い足場に立つなんて出来るわけありませんでした。


 足を滑らせてフェンスから転げ落ちると、私はコンクリートで固めれた地面に背中から倒れ込み、落ちた瞬間肺をバットで思い切り叩かれたような衝撃が走りました。


 かはっ、と喉の奥から空気を吐き出すと、地面に大の字になって倒れている私の前には青みがかった夜空と、嫌味なぐらいキラキラと輝いている星々が浮かぶ景色が映ってたんです。


 神様なんて信じたことはないけれど、この途方もないくらい大きくて、広い虚空をを見つめていると、なにか得体の知れない大きな存在が私の矮小さと無力さを嘲笑っているように思えました。


 ちくしょう、と絞り出すような声で悪態をついて、倒れたまま拳を握って地面を叩きつけると、私は星と星の間の闇に向かって睨みつけました。


 そんな時、タッタッタッと地面を蹴るような音が聞こえてきて、次第にその音が大きくなってくると、今度は大きな影が私の頭上に覆い被さってきました。


 影は人の形をしていて、その影が地面に倒れる私の顔を覗き込んでくると、口を開いて私の名前を呼びました。


「キミ、八尾乃月港だろ」


 それが央士センパイと私の最初の出会いでした。


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