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夏14:敵、あるいは味方


 学校の会議室でおれの前にある長机には何十人もの先生たちと生徒会役員の先輩がずらっと並んで座っていて、みんな険しい顔をしていた。


 ……なんかつい最近似た感じの光景を見たような気がするけど、その時と違うのは先生たちに白い目で見られているのがおれや一緒にここにいる夏希のなんでも部の部員じゃなくて、生徒会の赤斎賀先輩だってコトだ。


 この部屋にいるオトナたちから一斉に視線を集めている赤斎賀先輩は、さっき体育館で絡まれた時の何にでも噛み付くオオカミのような様子から打って変わって、奈落の底に放り込まれたチワワのように青ざめた顔で小さくなってぶるぶると震えてしまっていた。


「事実なんですね? 彼女が君たちの後輩に暴行を働いたというのは」


 長机の一番端に座っている校長先生は机の上で手を組んで眉間に皺を寄せながら、おれたちに向かって訊いてきた。


 視線を向けられたおれは隣にいる夏希と顔を見合わせると、もう一度校長先生のほうを見て口を開いた。


「えっと、まあ……本人が言うには、そうらしいです」


 なんでも一時間くらい前、学校の中を見学していた港に赤斎賀先輩が一方的に絡んできて、先輩に殴られそうになった……らしい。


 そしてその現場を近くにいた学校見学の参加者の中学生たちが大勢目撃して、おまけに携帯で動画を撮られてしまった……というコトで、緊急でこの会議が開かれたみたいだ。


「君たちの後輩の、八尾乃月さんの様子は?」


 校長先生が続けておれたちに質問してきた。港の代理としてここに呼び出されたおれと夏希は、もう一度お互い顔を見合わせた。


「怯えてます。面会謝絶です」


 夏希が校長先生に答えた。


「こんな怖い思いをするなんて思わなかったと」


「嘘だ!」


 夏希の声にかぶさるように赤斎賀先輩が叫び声をあげた。


 ……うん。嘘だ。


 おれと夏希がここに来る前に港のところへ行った時、港に落ち込んでいるようなところなんて微塵もなかったし、むしろどこか上機嫌でゴキゲンな様子だった。


「全部仕込みでしょ、アンタの」


 赤斎賀先輩に酷い目に遭わされたと聞いて駆けつけたおれたちだったけど、港の姿を一目見るなり夏希は腕を組みながら呆れたようにため息をついた。


 そんな夏希を前にして、港は「てへ♪」と頭に軽くこぶしをコツンと当てて、ペロっと舌を出した。


「全部! 全部あいつが仕組んだコトなんだっ」


 重い空気が流れる会議室の中で赤斎賀先輩は席から立ち上がって、おれたちのほうを指さした。


「みっともないぞ! 柚月!」


 青ざめた顔のまま興奮する赤斎賀先輩に、隣の席に座る生徒会長の小柳先輩が一喝すると、小柳先輩は追い打ちをかけるように言葉を続けた。 


「将来後輩になるかもしれない中学生に対して君が暴力を振るおうとしたのは紛れもない事実なんだぞ! それも大勢にその光景を撮られている! それを相手のせいにして、責任から逃れようとするなっ」


 小柳先輩にまくしたてるように叱りつけられた赤斎賀先輩はそのまま凍りついたように固まると、膝から崩れ落ちるようにがくっとまた席についた。


 いまの一連の流れで会議室の中がしんと静かになると、校長先生がごほん、と咳払いをした。


「判りました。なんでも部のふたりはもう退出して構いません。あとはこちらから赤斎賀さんから話を訊いて判断を下しましょう。今日中に西御門先生を通じて連絡をします」


 こうして針のむしろになってる赤斎賀先輩を置いておれと夏希が会議室から出ると、扉のすぐ近くの壁にもたれかかっている港の姿が目に入った。港はおれたちを見るとこっちに向かって笑いかけて、小さく手を振った。


「良かったね、八尾乃月に好かれてて」


 おれと一緒に部屋から出てきた夏希が、耳もとでボソッと言った。


「でなきゃ、あのワンちゃん先輩みたいに、ああだよ」


 立てた親指で会議室の扉を指す夏希と、目の前にいる港を見ながら、おれはため息をついた。


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