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夏13:インスタント・カーマがキミを直撃!


 八尾乃月港の視界に赤斎賀柚月の姿が映った。


 この高校の生徒会副会長という柚月は服装こそ規則から逸脱しないその地位に見合った整った身なりをしていたが、スカートのポケットに両手を突っ込み、腰のあたりまで伸ばした明るい茶色の髪を揺らして、二足歩行する狼の様に肩を怒らせて歩くその姿に優美さなど微塵もなかった。


 港は体育館の扉から伸びている連絡通路の先にある校舎の出口から出ると、そのままこちらに向かって歩いてくる柚月と相対するように彼女の前に立った。


「あ? お前は……」


 柚月は港の姿が目に入ると足を止めて、港の頭から足の先までを舐めるような目つきでじろりと見た。


「こんにちは、赤斎賀副会長。日暮中の八尾乃月港と申します」


 港は礼式に則った挨拶をすると、柚月に軽く会釈をした。


「知ってるぜ、なんでも部の一味。愛する"センパイ"に会いたくて来たのか?」


 柚月はポケットに手を突っ込んだまま、ケラケラと残忍な笑みを浮かべた。


「お前にさっきのあいつの姿、見せてやりたかったよ。女の私がちょっと凄んだだけでビビり散らかして情けねえのなんの。きっと幻滅モンだぜ」


「央士センパイにイジワルしたんですか?」


 さきほど黛央士に見せたのと同じ態度を向ける柚月に、港は平然とした眼差しで柚月を見つめ返した。


「イジワル? あんなのイジワルでも何でもないな。軽くちょっかいかけただけだ」


「央士センパイにちょっかいをかけた理由は復讐ですか? 恋愛に振り回された過去の自分を埋め合わせるための?」


 港がそう言うと、柚月に浮かんでいた残忍な笑みが急激に凍りついた。


 目も合わせる価値もないと足元を見ながら、港や彼女が好意を寄せる人物をせせら笑っていた柚月はゆっくりと顔を上げて、濁った目で目の前にいる港の顔を見た。 


 こちらを見る港の目はどこか空虚で、そこには何の感情も感じられなかった。


「お前……何を言って」


「赤斎賀柚月。出身中学は北丘台(きたおかだい)中学校。素行不良な劣等生として教師陣の頭痛の種となる中学生活を送っていたものの、ある男子生徒との出会いが彼女を一変させた」


 柚月の言葉を遮って、港は淡々と言葉を口で綴っていく。そんな港を前にして柚月は自分が着ている衣服の下の肌の背のあたりに、冷たい液体がゆっくりと流れていくのを感じた。


「中学校の生徒会長だったその男子生徒は一匹狼として孤立していた彼女に手を差し伸べた。最初は偽善だと彼を拒絶したものの、繰り返しこちらに接触する彼にいつしか彼女は心を許してしまい、そして彼に恋を」


「黙れっ」


 柚月が血走った目を港に向けて叫び声を上げた。そこにさきほどの嘲笑するような余裕のある笑みはなかった。


 そして逆に港のほうは、柚月に向けて愛玩動物を愛でるような微笑みを浮かべていた。


「知ってるんですよ? その生徒会長さんに身も心も虜になって牙を抜かれた貴女が、結果として彼から屈辱を受けたことを。彼には他に恋人がいて、貴女は彼にとって単なる気晴らしの遊び相手だったんだって──」


 港がそこまで話した時、彼女の胸ぐらを柚月が掴んで握りしめた。


「何が言いてえ! 人様の重箱の隅突いて、ヘラヘラしやがってっ」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ、赤斎賀先輩」


 柚月のすぐ目の前にいる港の顔から表情がまた消えた。興奮する柚月と対照的に、港は無感情な冷たい態度を柚月に向けていた。


「個人的な八つ当たりなんてくだらない理由で私の大事なセンパイを傷つけようとした報いを、必ず受けさせます」


 港はそう言うと、柚月から目線を外してあたりを見回した。


「ところで先輩。今の状況、周りに見られたら、だいぶマズくないですか?」


 港のその言葉で、柚月ははっとなって周囲を見回した。


 すると周囲のあちこちで、中学校の制服を着た男子や女子たちが、自分たちに向かって携帯電話のレンズを向けているのが見えた。


 まさか、こいつが用意したのか、と柚月が再び港の顔を見た。


 すると港は身を屈めながら、大袈裟に怯えるような素振りを見せた。


「キャ〜ッ、助けて〜! 私、この学校の人に暴力を振るわれてま〜す!」


 港が素っ頓狂な悲鳴をあげる。


 柚月の全身から力が抜けていく。だが、手もとから力が抜けなかった。港の胸もとを掴む手を、柚月は解くことができなかった。


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