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夏7:激甘マシュマロドーナツ


「……なあ、黛君。聞こえてるのか、黛君!」


 ぼーっと意識が飛んでいたおれの耳もとに誰かの声が飛んできた。


 おれがはっとなって周りを見回すと、おれに声をかけてきたのは生徒会長の小柳鏡鐘郎先輩みたいだった。長机に座る先輩の横には同じく生徒会役員の人たちや、同級生や二年の先輩たちがずらっと並んで一斉におれを見ていた。


 前に先生たちに呼び出されたあの会議室で、おれは学校見学会にボランティアで参加する人たちのミーティングに加わっていた。もちろん隣の席には、おれと一緒にボランティアを頼まれた夏希がいる。


「日暮中の生徒の誘導について話していたんだ。君たちの持ち場だぞ。きちんと話を聞いてくれないと困る。君がしっかりしないと後輩たちに迷惑をかけるコトになるんだからな」


「ス……スミマセン」


 おれたちのもとからいなくなってしまった凛音に何もできなかった後悔に沈んでいたおれは、恥ずかしさと自分自身に対する情けない気持ちで、さらに沈むような気分になった。


 こっちを見て顔をしかめる小柳先輩に、おれはその場で座ったまま縮こまっていると、小柳先輩の隣にいる生徒会の副会長の赤斎賀柚月先輩がニタニタした顔を浮かべた。


「はん! だらしねえヤツ」


 口を開くと、赤斎賀先輩は生徒会にいるヒトとは思えないような荒っぽい口調でおれにキツイ言葉を浴びせかけた。


「どうせ女の部員がいなくなってそれでガン萎えてしてんだろ。追い出されたあの恋愛脳みたいに、なんでも部には脳内激甘マシュマロドーナツみてえな連中しかいねえのかよ」


 赤斎賀先輩がヘラヘラ笑いながらおれにそう言うと、部屋にいる人たちがくすくすと小さな笑い声をあげた。


 そんな寒気がするような雰囲気におれが何も抵抗できずにいると、隣で「どうだか」と夏希が両脚を組んだ。


「アタシらのコト恋愛脳だかなんだか言うけど、そうやってヒトの不調を恋愛のせいにする先輩の方がよっぽど恋愛脳なんじゃないっすか?」


「……ワタシが、恋愛脳だって?」


 さっきまで意地悪な笑みを浮かべていた赤斎賀先輩の眉が、ぴくりと動いた。


「もう一遍言ってみろよ。ワタシがおめえらみてえに軟弱な恋愛脳だって、そう言いてえのか?」


 赤斎賀先輩がそう言って立ち上がると、背筋にぞわっと嫌な波が走ったような気がした。


 そしてあたりの様子を見るに、それは他のみんなも同じみたいだったけど、夏希はそんな赤斎賀先輩の気迫に動じずに脚を組んだまま冷めた目で先輩を見ていた。


「ダサっ。たかが一年の言葉に動じすぎでしょ。ひょっとして、図星なんすか?」


「あん? どうせお前だって同類だろ。大好きなカレが困ってるから助けたい〜なんて張り切りやがって」


「あーそっかそっか。先輩には守りたい人とかいないからそんなコト言えちゃうんですね」


「テメエ……さっきから舐めた口ばっかりききやがってっ」


()さないか!」


 部屋のなかの空気が凍りつき、マズい化学反応が起こってる二人に誰も手が出せないでいる状況で、赤斎賀先輩の隣に座っていた小柳先輩がぴしゃりと言い放った。


 すると小柳先輩のその一言で、興奮していた赤斎賀先輩の熱がすっと収まっていった。赤斎賀先輩は不満そうな顔をしながらも、腕を組んでそのまま自分の椅子に座りこんでしまった。


「二人ともみっともないぞ! これでは我が校のいい恥晒しだ。まず柚月、君は生徒の模範たる生徒会の一員なんだぞ。それでよく生徒会役員が務まるな」


 身内だからか、小柳先輩はとびきり厳しい口調で赤斎賀先輩にそう言った。


 確かに、なんで生徒会役員になれたんだ、このヒト……


「君もだ、奥寺さん。今回の活動は、君たちなんでも部にとっては汚名返上のチャンスでもあるんだぞ。これ以上周囲にトラブルの元を撒き散らすんじゃない」


 小柳先輩は夏希とおれにそう言うと、ため息をついて背もたれに背中を預けた。


「まったく、先が思いやられる……」


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