夏3:少し遅れての後日談
おいでんの花火大会の数週間前……
色々ゴチャついた騒ぎが起こった文化祭が終わってすぐあと、おれ、夏希、凛音の”なんでも部”の三人は先生たちから呼び出しを受けた。
「何の件で呼び出しかな」
「そりゃまあ、アレしかないっしょ」
「うん……アレ、だろうね」
放課後、学校の会議室の中に入ると、そこには長机にずらっと並んだ十何人もの先生たちと、生徒会役員の先輩たちの顔があった。
一番奥の席にいる校長先生は、机の上に手を置いて組みながら、向かって先のほうにいる長机の端っこのすぐそばに立つおれたち三人を見た。
「先の文化祭での女子バレー部出展スペースにて発生した、弁天橋胡桃さんと他校の生徒とのトラブルに関して、その原因は君たちなんでも部、正確に言えば部長の鵜野森凛音さんにあるとの証言を得ています。西御門先生、藤堂先生、そうですよね?」
校長先生はそう言うと、机に座る先生たちのなかにいるなんでも部の顧問の梢先生と、前におれたちと少しだけ関わったバレー部の顧問の藤堂先生のほうをそれぞれ見た。
「ええ。私には鵜野森から直接申し出がありました」
校長先生からの視線に応えるように梢先生が軽く手を挙げて話すと、今度は藤堂先生が腕を組んで口を開いた。
「私は現場に居合わせた、うちの部の朝比奈から報告を受けました。まったく、えらいマネをされたもんです」
関西弁混じりの甲高い声で藤堂先生はそう言うと、おれたちに睨みつけるような目を向けた。
「はっきり言って、他の親御さんからの君たちの評判は最悪です」
校長先生は梢先生と藤堂先生から目線を離すと、再びおれたちのほうを見た。この部屋にいる人たち全員が一斉におれたちをじーっと見つめている。
「実際なんでも部を潰せという要請を何度も受けてきました。あそこは騒ぎばかり起こすならず者の集まりだとか、自分の子どもが君たちが起こしたトラブルに巻き込まれただとか、我が校の平穏を乱す反乱分子だとか」
そう話す校長先生たちに視線を向けられながら、おれと夏希と凛音は黙って突っ立ったまま、お互いの顔をチラチラ見ているコトしかできなかった。だって、心当たりしかなかったから……
「いちばん酷いのは、私もそれらの意見に同意できてしまうという点です。それでも、我々教師陣がこれまで君たち"なんでも部"を見逃してきたのは、最終的に君たちが困っている人の助けとなってきたからです。だからこそ君たちの活動を極力阻害しないよう努めました。生徒の自主的な活動を妨げたくはないですからね」
校長先生はそこまで言うと、両肘を机の上に乗せて手を組んで身を乗り出して、「しかし今回は話が違う」と口にした。
「あの日、あの現場を誰かが撮影して、それがインターネット上に拡散されるような事態にならなかったのは幸いでした。しかしそれでもあの場には多くの目撃者がいた。鵜野森さん、貴女は我が身を守るため明確な悪意を抱き、結果として友人を傷つけ、大勢の人に迷惑をかけた。勉学や部活に励み、我が校の名誉を高めた人々の努力を貴女は貶めたのです」
「……それはちょっと言い過ぎじゃないですか」
それまでただ黙々と先生たちの話を聞いていたおれだったけど、思わず口が開いて言葉が出た。
「今度のコトは凛音……ええと、鵜野森さんが直接コトに及んだわけじゃないのに、そんな全部凛音のせいみたいに大げさに言わなくてもいいんじゃ」
「今後彼女が自らのエゴを守るために本当に他人を傷つけるコトがないと言いきれますか?」
校長先生はきっぱりと言っておれの顔をじっと見た。
おれはその視線から逃げるように校長先生の顔から目を逸らして横にいる凛音のほうを見ながら、しどろもどろになりながら質問に返そうとした。
「それは……多分、ないと思いますけど。もう懲りたと思うし……」
凛音と目が合った。おれと目が合うと、凛音はそのまま視線を下に落として沈んだ顔をした。
「多分? 担任教諭でも、部活の顧問でもない、ましてや友人でもない私が言うのも憚られるが、彼女になんでも部の舵取りを任せれるとは思えません」
そう言うと校長先生は深く息を吐いた。
「今度の件で彼女に対する信頼は完全に失墜しました。成績優秀で、中学校では生徒会役員を努めた、清廉潔白な方だと思っていましたが」
「それで、先生たちはアタシたちにどうして欲しいんですか」
夏希が後ろに腕を組みながら言った。この場の空気に飽き飽きして、早く終わらせて帰りたがっているみたいだった。
「少なくとも現状、鵜野森さんがいる状態でのなんでも部の存続を、学校としては認めるコトはできません。彼女には部から降りていただきたい」
「わたしは退部……ですか」
凛音はそう言って、自分の胸もとを軽く掴んだ。
「そうです」
「ちょっと待ってください」
凛音の言葉にうなずく校長先生に、おれは口を挟んだ。
「凛音がまたやらかすなんて、決めつけなくてもいいじゃないですか」
確かにあの文化祭で、凛音のワガママと思い込みのせいで、不知火くんや胡桃や、色んな人に迷惑をかけたのは本当のコトだ。
でもあの失敗で凛音は相当落ち込んだし、後悔もしたはずだ。なのにコイツはまたやらかしそうだからダメみたいな言いかたするコト、ないじゃないか。
「それに、おれたちここにいる三人でなんでも部は全員ですよ。部活が成立するのは部員が三人から。凛音がいなくなる、つまりひとりいなくなるってコトは、なんでも部はもう終わりってコトじゃ」
「まあ待ちなよ」
突然おれにそう言ったのは、机の端の方に座っていた生徒会会長の小柳鏡鐘郎先輩だった。小柳先輩の隣には、副会長の赤斉賀柚月先輩もいる。
「先生がたと生徒を代表して僕等で協議したんだけどね、やっぱり鵜野森さんにはなんでも部を退部して欲しいって思ってる。人が過ちを犯した時は、やはり代償を支払わなければいけないからね」
ここから校長先生がいる場所よりは近い席で、小柳先輩はおれたちに軽く微笑みながら言葉を続けた。
「とはいえ鵜野森さん以外の君たち二人、黛くんと奥寺さんにとって、これでなんでも部解散というのは少々理不尽だ。今度の件に関しては君たちは完全に無実だからね。なのでひとつ提案があるんだ」
小柳先輩はそう言うと、人差し指をぴんと立てた。
「鵜野森さんの代わりに、新しい部員を探すってのはどうだい? もし見つかったら、なんでも部の存続を認めよう。これでどうかな?」




