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春46:最低の下


 『星巡りの館』から出ると、おれと夏希は別のクラスや部活の展示に行かずに近くの廊下の壁にもたれかかりながら、黒井川さんが最後におれたちに言った言葉を思い出していた。


「おれたちの近くにいる男と女、ってコトは……」


「凛さんとナギサ・シラヌイ氏しかいないでしょ」


 夏希がおれの隣でしゃがみながら言った。だよなあ。


「でもふたりに何が起こるってんだ? ここからふたりに悪いコトが起こるなんて、想像つかないな」


「前に央士から聞いたハナシじゃ、ふたりの間の関係は既に一旦最低のトコロまで行ったらしいからねー。これよりもっと下ってコトになると、これは相当エラいことになるよ」


 ……いまの夏希の言いかたは最低だけど、実際その通りだ。


 十年以上ずっと大事な友だちだったふたりの仲が、ひとりが片思いしたコトから全部コワれてしまった。それだけで最悪の事態なのに、これ以上ヒドいコトが起こるって?


「ああ、もう、気にしてもしょうがない! ケッキョク黒井川さんが言ったのはただの占いなんだ。本当に起こるなんて思うコトないんだ」


「ふーん? そのワリには昔あったコノハちゃんが元気にしてるってハナシ、完全に信じてるみたいだったけど?」


 う。


 そっけなく言う夏希の言葉がおれの背中にザクっと刺さった。


「い、いまさらそういうコト言うなよ! だいたい! 黒井川さんに占ってもらえって言ったのは夏希のクセに!」


「は? アタシは占いを見てもらったらって言っただけで、占いを信じろなんてヒトコトも言ってないし」


 夏希はおれと目も合わせずに、無愛想なカオでしゃがみながら頬杖をついていた。


「なのにあんな舞い上がっちゃってさ。アタシの幼なじみ、単純すぎでしょ」


「ようし表出ろ。出るトコ出てやる!」


「ああ? こちとら上等よ。アタシと口ケンカで勝てたコトないのに、よく言うわ」


 しゃがんでいた夏希が立ち上がって、おれと向き合ってニラみ合う形になる。お互いの目と目の間にバチバチっと電流が走った。


 するとあたりに人が集まってきて「どうしたどうした?」とおれたちを囲んだ。


「執事とメイドだ」


「執事とメイドがニラみ合ってる」


「でいうかコイツら、なんでも部の黛と奥寺じゃね?」


「え!? このふたりケンカとかするの!?」


 するよ、わりと。


「なんでも部? いまなんでも部って言いました?」


 周りががやがやしていると、人ごみのなかから女子の声が聞こえてきた。


 どこか聞き耳なじみのある声だった。夏希もそれは同じだったらしい。おれと夏希はお互いから目を離すと、声のしたほうに顔を向けた。


「すいません、通ります……やっぱり! 黛先輩と奥寺先輩! いつも姉がお世話になってますっ」


 集団の中から出てきたのは凛音に似た雰囲気の、中学生くらいの女の子だった。顔つきは凛音さんとほとんど同じで、鋭い目つきにやや太めの眉。違うのは少し低めの身長と短く切った後ろ髪だ。


「姉? ってコトは……」


「はい! 鵜野森凛音の妹、鵜野森琴音です!」


 琴音さんはおれに元気よく返事すると、おれと夏希に向かって頭を振り下ろしておじぎした。


「わあ、いいですね、そのカッコ! 彼氏彼女でコスプレ大会出るんですか?」


 琴音さんは頭をあげると、おれと夏希の着ている服を見て目を輝かせて言った。


 おれと夏希はお互いの顔を見合わせた。そして琴音さんのほうを向くと、声を合わせて言った。


「彼氏彼女じゃない!」「彼氏彼女じゃない!」


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