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春43:超人力兄弟


「よし、いけっ、ジャンプ!」


「そのまま前にダッシュ! あ、やばっ、ぶつかる!」


 プロジェクターの前でバタバタと足踏みをしているオーバーオールに口ひげ、赤いボウシをつけた男の先輩に向かっておれと夏希が声を飛ばすと、先輩はおれたちの声に従ってジャンプしたり、プロジェクターに写っている映像の右側へバタバタッと動いた。


 ここはうちの学校のeスポーツ部の部室だ。


 ふだんはパソコンで格闘ゲームとか、どれだけ早くゲームをクリアできるかタイムアタックをしているeスポーツ部だけど、今日の文化祭では特製のゲーム『スーパー人力じんりきブラザーズ』を出展している。


 目の前の壁に移されたプロジェクターにはゲーム画面が流れていて、プレイヤーはその画面の前に立つeスポーツ部部長の菊池きくち晴雄はるお先輩……じゃくて、『スーパーハルオ』に声で指示を飛ばしながら、ハルオをスタート地点からずっと右側のその先にあるゴール地点まで辿り着かせるという手に汗握る超本格アクションゲームだ。主に汗をかいているのはおれたちに命令されながら目の前で走ったりジャンプしたりしてるハルオだけど。


「あー、やられちゃった」


 プロジェクターのゲーム画面に出てくる敵キャラにハルオが正面衝突してしまうと、画面には"GAME OVER"と真っ黒な画面に白い文字が表示された。


「どう? うちの出し物。面白かった?」


 おれたちの横でプロジェクターに繋がれている首の長いカメラ(書画カメラっていうんだって)を操作していた一年のeスポーツ部員の蘇我そが直哉なおやが、ニコニコしながら満面の笑みでおれたちに訊いた。


「うん、サイコーだったよ。燃えちゃったね。それにしてもよく思いついたなあ、こんなの」


 おれは直哉が動かしていた首長のカメラと、その下に敷いてある『スーパー人力ブラザーズ』のステージの背景が描かれた長い紙を見下ろした。


 おれたちがゲームをしている間、直哉はおれたちが命令するハルオの動きと連動させながら背景のコースの紙と、画用紙で描いて切り取って作った敵キャラのコマを動かして、まるで本当のマリオのゲームみたいにゲーム画面をプロジェクターで表現していたのだ。あ、マリオって言っちゃった。


「ただ来場者に普通のゲームをやらせるだけっていうのも、芸がなくて面白くないからな。だからこうやってちょっと工夫を入れてみた次第だ」


 スーパーハルオ……じゃなくて、赤いボウシにもさもさした付けひげをたくわえた部長の晴雄先輩がおれたちの前に出た。さんざん走ったりジャンプしまくったからか、おでこには汗が流れている。


「夕方にはリアルタイムアタック大会をお披露目する。ゼルダの『ブレス・オブ・ザ・ワイルド』を部員三人で一斉にやって誰が一番早くクリアできるか競争するんだ。どうだ、来てくれないか」


「へえ、タイムアタック競争か。見てみたいけど、おれたち、夕方は体育館でやるダンスの大会に出るんです」


 いま体育館は二年生が各クラスでそれぞれ順番で劇をやっている。全部のクラスの発表が終わると、軽音楽部と合唱部の発表があって、最後に大トリとしてペアダンスコンテストが行われるのだ。


「それは仕方ないな」


 ハルオ姿の晴雄先輩は腕を組んで言った。


「すみません」


「気にするな。うちの大会の様子はネットでライブ中継をするんだ。アーカイブを残しておくから、よかったらあとで見てくれ。ダンス、頑張れよ」


「にしてもやべーな」


 直哉が座っていた椅子から立ち上がって、おれや夏希や晴雄先輩の姿を見回した。


「メイドに執事にマリオって、コスプレ会場かよ、ここ」


 晴雄先輩や直哉に見送られてeゲーム部をあとにすると、おれと夏希は次にどこに行こうか、文化祭のパンフレットを開いた。


「この近くなんかやってないかな」


「アタシこれ気になる。『星巡りの館』っての」


 夏希はパンフレットに書いてある地図の、いまいる第二校舎の二階にある物理実験室のところを指さした。


「聞いたコトない? アタシらの同じ一年の黒井川くろいかわハル」


「いや、判らないな。有名なの?」


「女子の間じゃね。占いの評判いいんだ」


 じゃあ知らないな。おれたち男子がする話で占いなんか出たコトないし。テレビで朝やってる星座占いくらいしか知らない。


「評判いいってコトは、よく当たるんだ」


「アタシが聞いた話だと、ずっと前に彼氏にプレゼントしてもらったキーホルダーを無くしたって子が、その黒井川さんのところへ彼氏と一緒に相談しに行ったら、その子と彼氏の話を聞きながらトランプのカードと天球儀を使って、キーホルダーがある場所を占いで当てちゃったんだって」


「えっと、トランプとその、てんきゅうぎ……? ってのを使って? それで見つけたの?」


「黒井川さんいわく、『貴女の双子の惑星にある』って。で、占いを見てもらった子、双子のお姉ちゃんがいてさ、調べてみてたらそのお姉ちゃんが持ってたのよ」


 へえ……双子の惑星、ってコトはカンペキに的中したってワケか。すごいな、その黒井川さんってヒト。


「でもなんで双子のお姉さんが、彼氏からもらったキーホルダーを持ってたんだ? わざわざキーホルダーなんか貸し借りしないのに」


「それはねー、実はそのお姉さんも妹の彼氏のコトが好きだったのよ。三角関係ってヤツ。それでシットに駆られて、妹から好きな人が贈ったキーホルダーを盗んだってワケ。事態が発覚して姉妹はもう大荒れよ」


「こわー……」


 ぶっちゃけさっきの占いの話よりインパクト強くてショックなんだけど。


「そのあとどうなったか聞きたい? 実はその彼氏ってのが悪いヤツで、もともと本当は双子のお姉ちゃんの方が好きだったんだけど、妹に告白されて顔が同じだし、まあいいやってカンジで付き合ってたのが、お姉さんが自分のコト好きだったって知って、妹をフッてお姉さんのほうを──」


「いいよいいよもういいから!」


 これ以上そんな怖い話聞きたかないよ! 妹がそのあとどうなったか気になるけど、聞いたらなんか後悔しそうな気がする! 怖すぎる、三角関係。身の回りで起きてほしくない。


「あ、そう。でまあ、その占い同好会の黒井川さんなんだけど、アタシらのライバルになりそうじゃない?」


「……おれたちは占いやってないけど?」


「そうじゃなくって、占いで探し物見つけちゃったってトコ。悩み事や頼み事を引き受けるなんでも部としては、黒井川さんは同業他社ってコトになるワケじゃん?」


 どうぎょうたしゃ。学校の部活でもそういうのがあるらしい。初めて知った。


「だから偵察に行こうよ、どんなカンジでやってるのか、実際にアタシらの探してる物を占いで見つけてもらいながらさ」


「別にいいけど、それって偵察って言わないんじゃないか? ふつうに乗り込んで、占いをしてもらうってのは……」


「それはアレだよ、偵察って言い方のほうがカッコいいからだよ」


 まあ、気持ちは判るけど。


「探し物をしてもらうってコトは、夏希、なんか無くしたものでもあるの? そんなのあったっけ?」


「探してる物ならあるでしょ。アタシじゃなくて、央士が探してる"ヒト"が」


 夏希はパンフレットから目を離すと、おれと視線を合わせた。


「央士が昔遭った、結婚の約束をした女の子だよ」


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