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春39:決戦の日-央士と夏希の場合


 文化祭当日、他の人たちと同じようにおれは朝早くに学校に来て、みんながクラスや部活の出し物や発表の準備をしているなかで、おれは夏希と一緒に午後のペアダンス選手権で披露するダンスの練習をしていた。


 前にT-FACEの手芸屋さんへ買い出しに一緒に行った神奈さんとひめりさんに、おれが夏希と一緒にコンテストに出る話をすると、手芸部に所属しているふたりはおれと夏希のためにダンス用の衣装を作ってくれることを提案した。


 ただでさえクラスと部活の発表で忙しいのに、そのうえおれたちの衣装を作るなんて大変だっておれは断ろうとしたけど、ふたりは「大丈夫大丈夫!」と笑って答えて見せた。


「もともと別の時に作った型紙をふたりの体型に合わせてちょいちょいっといじるだけだから。いい感じのやつがあるんだ。期待しててよ」


 それならってコトで頼んだコスチュームが出来たのが三日前、それからは練習の時は必ずコスチュームを着て、ジャージを着てやるよりちょっと動きづらい、本番と同じコンディションの中でダンスの振り付けをひたすら繰り返して、身体に動きをなじませていった。


「ここは腕を広げたらピタッと止める。もう一度ここの動きを見て。腕を広げた後に腕全体が少しブレているでしょ」


 練習用に開放している武道場で、この数週間おれたちのダンスの振り付けとコーチをした同じ学年のダンス部のジー・メイが、いまの通し稽古を撮った動画を携帯で再生しながら、数秒戻したり一時停止をしておれたちに細かくダメ出しを入れた。


「ここはバシッ、バシッと決めのポーズを次々に見せるところだから、こうやって少しでもブレが出るだけでここの一連の動きの印象が悪くなる。しっかりと腕がブレないように、かつ肩に力が入って動きが固くならないように気をつけて」


「はいっ」


 おれと夏希が気をつけをしてメイに返事すると、メイは再生していた動画の画面を閉じて携帯の時刻表示を開いた。


「そろそろ私も部の練習に行かないとね。あんたたちのことは話してるけど、こっちにもちゃんと顔出せって先輩にどやされるからさ」


「ありがとう、メイも大変なのにおれたちの面倒見てくれて」


 おれは携帯をポケットにしまうメイに向かっていった。


「いやいや、こっちこそ。たまには振り付けとコーチやるのもけっこう楽しかったよ。いい気分転換にもなったし、ふだんエラそうにしてイバってる先輩の気持ちも判ったしさ」


「おっ、めいめいもけっこうワルになったねえ」


 冗談を言ったメイに、夏希がからかって肩を叩いた。


「まっ、冗談はさておき、私から最後にもうひとつアドバイス」


 メイはそう言って人差し指を立てた。


「判ってると思うけど、ペアダンスで大事なのはお互いの動きをシンクロさせるコト。そしてそのためにはお互いのリズム、波長、フィーリングを合わせなきゃいけない」


 メイがおれと夏希の顔を交互に見ながらおれたちに話す。


「幼なじみのふたりだからその辺はわざわざ私が言うまでもなくバッチシだと思うけど、今日の残りの時間は練習だけじゃなくて一緒にあちこちのブースを回ったりしながらふたりの親睦を深めて、最高の状態で本番に臨んでね。コーチ以上に、友だちとしてふたりのこと応援してるから」


 メイはそう言うとおれと夏希の肩に、それぞれ手を置いた。


「ありがとう。そっちもダンス部の発表、頑張って。お互い楽しくやろう」


 おれは肩に手を置くメイの手首を握った。


「いい文化祭を」


「いい文化祭を」


「いい文化祭を!」


 おれの言葉に、夏希とメイが応えた。


「雑念が抜けたね」


 メイがいなくなった武道場で、地べたに座って自分たちの練習の動画を見返してると、となりにいる夏希がおれに言った。


「雑念ってどういう?」


「ずっと凛さんのコト心配で気にしてたでしょ。それでトチって集中しろってめいめいにだいぶ叱られてさ」


「夏希にも叱られた」


「そりゃあ怒るよ。アタシと踊ってるのに、別の女子のコト考えてるんだもん」


 夏希は体育座りをして、目線をおれから携帯で流れてる動画に戻した。


「凛さんのコト、まだ心配?」


「ちょっぴり」


 おれも夏希と同じように動画に目を向けたまま答えた。あまり動画の内容は頭に入らなかった。


「でもおれが気にしたってしょうがないって気づいた。それに……」


「それに?」


「凛音さんは自分がやらなきゃって思ったコトをしっかりやろうとしてる。だからおれも、自分のしなきゃいけないコトをちゃんとしなきゃ」


 おれは床から立ち上がると、座っている夏希に向かって手を伸ばした。


「だからおれたちはおれたちの心配をしよう。もう一回通しでやろうぜ、夏希」


 おれがそう言うと、夏希は頷いておれの手首を握った。そしておれは腕を引っ張って夏希を立ち上がらせた。


「一度と言わずに、何度でも」


 夏希がそう言った通り、それからおれたちは一回どころか頭から最後まで何回も通しでリハをした。


 このダンスのコンテストに参加するのを提案してきたのは夏希からだった。理由は簡単、「せっかくだから」の一言だった。


 あんまりハッキリとした理由じゃないけど、おれもダンスの大会に出る機会なんてめったにないし、面白そうだと思って一緒に出るコトに決めた。


 だからメイの言う通り、おれたちはお互い相性がバッチシなのかもしれない。こんなふわふわした理由で、ガンバって一緒にダンスの大会に出ようとするんだから。


 そして七回目か八回目かの通しの練習をしている時、武道場にあるスピーカーからチャイムが鳴って、チャイムに続いて校内放送が流れた。


『おはようございます。こちら西吾妻高校文化祭実行委員会です。このあと九時より体育館で開会式を行います。まだ準備をあ行っている皆さんは、速やかに体育館への移動をお願いします』


 最後にチャイムがもう一度流れると、周りで練習をしていたほかのグループは音楽を流すのに使っていたラジカセを片付けたりして撤収を始めた。


「そんじゃ、行くとしますか」


 夏希が周りと同じように自分の携帯から流していた音楽を止めると、衣装のポケットの中に入れて部屋の出口に足を向けた。


「ああ、うん……あのさ、ひとつ訊いてもいいかな」


 おれは先に武道場を出ようとした夏希を呼び止めた。


「どしたん?」


「おれ、この格好で一日いなきゃダメなの?」


 おれは手芸部の二人に作ってもらった、いま自分が着ているコスチュームを改めて見下ろした。


 夏希が用意してもらって着ているのはお屋敷の執事さんをモチーフにしたタキシードで、そしておれが着ているのは夏希が着ているのとは正反対の、お屋敷のメイドさんの着るフリフリのレースがついたドレスだった。


 つまりおれはいまメイドの格好をしてダンスの練習をしていて、これから文化祭の間一日じゅうこの服を着て過ごさなきゃいけないってわけだ。


「トーゼンじゃん。せっかく作ってもらったんだから、満喫しなきゃもったいないっしょ」


 カッコいいタキシードを着た夏希は、楽しそうに小躍りしながら武道場の出口へ向かっていった。


 言っとくけど、ミスでおれと夏希の衣装が入れ替わったワケじゃない。最初から手芸部のあのふたりはおれたちにこの衣装を着せるつもりだったんだ。


 出来上がった衣装を見たおれにふたりはこう言った。


「だって、このほうが黛くん可愛いもん♪」


 ……いや、付いてたんだよ、言葉の最後に音符みたいな感じなのが。


 しょうがない……もう開き直って、一日中これで堂々と通すしかない!


 おれは半分やけになって胸を張ってその場から歩き出した。


「おっ、いいねえ。それでは、ご一緒しましょう」


 おれが夏希と横に並ぶと、夏希がおれと腕を組んで、そのままおれたちは一緒に体育館へと向かっていった。


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