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春34:セントラル・エリアふたたび〜蓮雅臣の野望


 西吾妻高校に入学して一ヶ月。


 水泳部のプール掃除を手伝ったり、ゴールデンウィークにあちこちの部活の練習試合の助っ人に行ったり、そのあとにある中間テストのテスト課題をひーひー言いながら凛音さんの助けを借りてやっつけて、なんとかテストで赤点を回避したりしているといつの間にかもう一ヶ月経って、今度は文化祭の時期が近づいていた。


 そんなわけでおれは今、駅前のT-FACEにある手芸屋さんに買い出しに出た女子の荷物持ちとして付き添いをしている。


「いやー、マジで央士くん来てくれて助かったわー!」


「うんうん。アタシらだけじゃこんな荷物、学校まで持ってけないもんねー」


 同じクラスの神奈かんなさんとひめりさんが、おれの手もとにある自分たちが選んだ布やボタンが入ったレジ袋に目をやった。


 文化祭に向けて学校じゅうのクラスや部活動がそれぞれの出し物を用意しているなかで、おれたちのクラスはフォトスポットを作るコトになった。


「それにしても蓮くんってセンスあるよねー。いつもおカタいカンジでどんなヒトかよく判らなかったけど、映画の登場人物になりきって写真を撮れるって聞いてときめいちゃった」


「そうそう。わたし『タイタニック』大好き過ぎて、あの船首が目の前に出来たらマジで泣けちゃうかも。あ、想像するだけで目がうるうるした」


 神奈さんの言葉に、ひめりさんはあいづちを打って答えた。


 そう、このアイデアを出したのは旧なんでも部所属の我らが蓮雅臣だ。映画が好きな雅臣が提案したのは、人気の映画の場面を再現したセットを三つ作って、お客さんがそのセットに入って映画の登場人物になりきって写真を撮るというものだ。


 あらかじめパソコンで企画書を作って、クラスの人数分コピーして印刷までしてきた雅臣のプレゼンはあっさり通って、そのまま雅臣がメインになってフォトスポットの制作は始まった。


 クラス会議のあと雅臣がいる文芸部にお邪魔すると、雅臣はおれと一緒に来た夏希にこんな話をした。


「俺の本命は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のポスターを再現した、デロリアンにまたがるマーティになりきれるブースだったんだ」


 雅臣の言う通り、雅臣がクラス会議で出してきた企画書には雅臣が好きな映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のフォトスポットの案が実際の映画のポスターの画像と一緒に入っていた。


「これでデロリアンの模型を作れさえすれば俺としては満足なんだが、それだけじゃクラスの半数いる女子を味方につけるのは難しい。なのでもうふたつ、『ローマの休日』の真実の口のシーンと、そして『タイタニック』の船首のシーンを再現したフォトスポットのプランを入れるコトにした」


 今雅臣が言ったこの二つの案も、プレゼンの資料に入ってあったものだ。『ローマの休日』は観たことがない映画だけど、実物の写真を見せてもらったら「あっ、コレね」とすぐ元ネタが判ったし、『タイタニック』は有名すぎてクラス全員がすぐピンと来たと思う。


「どっちも恋愛映画の名場面だ。これで女子連中の関心を引くことができる。結果はお前たちも知っての通りだ」


 おれと夏希にそう話す雅臣は今まで見たコトないくらいゴキゲンな顔をしていた。


「うっわあ、ソレってあるイミすっごい偏見じゃん。女子はみんな恋愛もの好きに決まってるみたいな言いかたしてさあ」


 雅臣の話を聞いて夏希は腕を組んでニヤニヤしながら、雅臣にからかうように言った。


「今の話、クラスの子たちに言いふらそっか」


「やめろ!」


 雅臣は子どもを人質に取られた親みたいな顔をした。


 言わないであげるコトにした。


「そういえば今日買ったものに入ってなかったけど、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の衣装の素材はどうするの? また別で素材を調達する?」


 買い出しが終わって、T-FACEの建物のなかをエスカレーターで降りながら、おれは衣装係の神奈さんとひめりさんに訊いた。


 映画に出てくる衣装を作ってお客さんに着てもらうコトを雅臣に提案したのは、このふたりをはじめとした女子のみんなだ。


 お客さん全員に丸ごと服を着替えてもらうのは大変だから、衣装の正面の部分だけを作って、作ってない後ろの部分をエプロンみたいにヒモで留めて着られるようにするらしい。


「いや、あの映画の服は作るんじゃなくて元々ある服を使うの」


 おれの質問にひめりさんが答えると、神奈さんがそれに続けた。


「ジーンズは家にあるお古のものを切って使って、Gジャンはそのままお客さんに羽織ってもらう。ベストはあたしの父さんが持ってるの借りてくるつもり」


 確かに、わざわざ作るよりそのまま実物を持ってくるほうが手っ取り早い。それに考えてみれば、ダウンベストってどうやって手作りで作るんだ。


「ちょうどレッドのやつがあってね、フォトスポットの話を父さんに話したら喜んで貸すって。あの映画、好きなんだって。あたしは観たコトないけど」


 神奈さんはけろっとした顔でそう言った。うーん、この話を聞くカンジ、雅臣の作戦は大成功だったみたいだな。


 建物の一階まで降りて外に出ると、出口のすぐ近くにある停留所にバスがやってきて停まったのが見えた。


「こっから学校まで歩いて帰るのだりー。バス使わない?」


「ダメだよ、バス使うお金ないんだし。それに一番キツいの荷物持ってる黛くんなんだから、わたしたちも頑張って帰るよ」


「悪いね、遠慮させちゃって」


 バスから降りる人たちを横目で見ながら、おれたちは学校へ歩いて向かおうとした。


 だけど、バスから降りる人たちの中におれの知っている顔があったのに気がつくと、おれは思わず即座にその足を止めた。


 おれの横を、ワイヤレスのイヤホンを耳に付けたお団子頭の女子が通り過ぎて、おれは彼女が向かっていくほうに目を向けた。


 するとそのまま通り過ぎようとしていた彼女のほうも、ぴたりと足を止めると、付けていたイヤホンを外しておれのほうに振り返った。


 やっぱり……間違いない。


 ずっと前、凛音さんがなんでも部に入るより前、凛音さんが好きだった幼なじみと会った時に、一緒にいた……


「黛くん、どうしたの?」


「その人、黛くんの知り合い?」


 目の前にいる、見ず知らずの女子と黙って向き合っていたおれにクラスメイトの女子ふたりが声をかけてきた。


「……知り合いってほどじゃないけどね」


 おれはバスから降りてきた女子のところまで歩いていって、「やあ」と声をかけた。


「犬飼さん、だったよね」


「うん……こんにちは」


 犬飼さんはとまどいながら、遠慮がちにおれに返した。


「えっ、なにコレ、訳アリなカンジ?」


「もしかして、夏希とかには言えないようなハナシだったりする?」


 後ろから神奈さんとひめりさんがやって来ると、ふたりはおれの背後でコソコソしながらなんか盛り上がっていた。


 おれはため息をついてうつむくと、もう一度目線を上げて犬飼さんと向き合った。


「……この後、時間空いてる? どこかでふたりで話そうか」


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