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春31:ご相伴に預かります


「なんであんなコトしたんだよ。なんでおれの邪魔なんかしたんだよっ」


「“おれ”の邪魔なんだね。”先輩”の邪魔じゃなくて」


「君だって、好きな人に告白して後悔したから先輩を止めたくせに……」


「そう、残念。黛くんってそういうコト言う人だったんだね」


「じゃ、ふたりともお疲れ様。それじゃあね」


 あやみ先輩とのコトで、凛音さんと喧嘩別れしたのが金曜日。


 そのあと土日は凛音さんとは一度も連絡もせずに過ごして、そして週末が明けて学校に戻ってからも、凛音さんとは顔も合わさなかった。


 いや……本当は違う。おれが学校で廊下を歩いている時に、何度か凛音さんとすれ違うコトがあった。


 凛音さんとすれ違うたび、おれは向かい側からやってくる凛音さんから目を逸らして、そのまま横を通り過ぎてしまった。


 凛音さんもおれに声をかけたりはしなかったから、向こうがおれのコトをどう思っているのか全然判らなかった。


 そしてそんな感じで、まる一週間も経ってしまった。


 この一週間の間、なんでも部に依頼はひとつも来なかった。


 凛音さんの妹を探した時と、体育館の調整室でうっかりスピーカーをオンにした時の騒ぎで、短い間にヤバめのトラブルを二回も起こしたのがマズかったのかもしれない。


 ようやく次の週明けの月曜日になって、同じクラスの智美ともみさんからおれと夏希に依頼が来た。


 智美さんから頼まれたのは、トシの離れた弟の面倒を見て欲しいってことだった。


 智美さんの弟は小学三年生で、いつもお父さんとお母さんの仕事の帰りが遅くて、おまけに今日は自分が入ってる演劇部の新入生発表会で発表があるから帰りが遅くなるってコトで、おれと夏希に家でひとりの弟を見て欲しいと智美さんはおれたちに頼んできた。


「ねーちゃん、いつまでおれのコト子どもだって思ってんのかな。ベツにおれ、ひとりでヘーキなのに」


 アパートの智美さんが暮らしてる部屋のリビングで、弟の真奈人まなとくんはソファーに座って夏希が貸した『たまごっち』の面倒を見ていた。


 お姉さんにそっくりの真奈人くんは、お姉さんと同じように目が大きくてまるまるっとしていて、髪もお姉さんみたいにつやつやしている。


 真奈人くんの隣に座っている夏希は、最近はもう『たまごっち』に飽きてきたみたいで、こんな感じに人に押し付けて……えーっと、貸して、代わりにたまごっちの面倒を見てもらってるみたいだ。


「おっ、ごきげんがマックスになったね。助かったよ、ありがとー」


 夏希が真奈人くんが持ってるたまごっちの画面をのぞき込んで頭を撫でてあげると、真奈人くんは照れたのかそっぽを向いてしまった。


「……おねーさんいいのかよ。カレシがいるのに、おれにこんなコトしてさ」


「央士のコト? 央士はカレシじゃないよ」


「よくカン違いされるけどねー!」


 台所でみんなが食べる晩ごはんのチャーハンを炒めながら、おれはすぐ近くのリビングにいる真奈人くんに向かって声をあげた。


「……じゃあ、あのにーちゃんとはどういう関係なんだよ」


「央士とアタシはカレシよりも大事な関係」


 たまごっちのボタンをプチプチ押しながらぼそっと言った真奈人くんに夏希が返した。


「ま、アタシは今んとこカレシいないけど。あ、それじゃあさ、まなくんアタシのカレシになってみる?」


「は、はあ!? ベ、ベツにいーし!」


 からかってくる夏希に真奈人くんは顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。もったいないコトしたな、真奈人くん。夏希、けっこう学校じゃモテるんだぜ。


フライパンのなかにタマゴを入れて具とかき混ぜていると、部屋のインターホンが鳴った。


「あれ、ともとも(智美)帰ってきた? もう部の発表会終わったんだ」


 インターホンの音に反応して、夏希が部屋の玄関があるほうを向いた。


「おれが出るよ」


 おれはコンロの火をいったん消すと、台所から出て部屋の玄関に向かった。


「おかえり、早かったね──」


 扉を開いた時、おれの目の前にいたのは智美さんじゃなかった。


 玄関の前にいたのはクラスの担任兼、なんでも部顧問の梢先生だった。


「よ、ご苦労さん。君らがここにいるって聞いて来たんだ。あれ、エプロンしてる? なんか作ってた? お、いい匂いするねえ。先生、お腹すいちゃった」


 それから十分くらいたって、部屋のテーブルにはおれと夏希と真奈人くんと、そして梢先生が座って、それぞれの前にあるチャーハンに向かって「いただきます」と手を合わせた。


「なんでおれんち、こんなやたら知らない人集まってるんだよ……」


 おれの隣の席にいる真奈人くんがフクザツそうな顔をしながらボソッと言った。


「ごめんな。おれのチャーハン、分けようか?」


「……もらう」


 おれはレンゲで隣の真奈人くんの皿に自分のチャーハンをいくらか分けてあげた。


「いいねえ、絶品だよこのチャーハン。黛くん、料理うまいな! しかしこう脂っこいもの食べてるとお酒が欲しくなるね。黛くん、お酒ない?」


 梢先生が向かいの席でチャーハンをもしゃもしゃ食べながらおれに言った。


「出すワケないでしょ、人んちだし。それに先生、おれのコト料理うまいって言うけど、チャーハンくらい誰でもふつうに作れるでしょ」


「いやー、先生がムカシ大学生の時に冷蔵庫の余った納豆使って、チャーハンに突っ込んで納豆チャーハン作ろうとしたんだけど、これがもう苦すぎて激マズで最悪でさ。二度と自分で料理なんかしないと思ったね」


「ちゃんと納豆洗ってネバネバ取りました? 納豆チャーハンは納豆を水洗いして作るんですよ」


「え? そうだったの? どーりでオカシイと思ったんだよな」


「で、先生はわざわざアタシらとチャーハン食べるために来たんですか」


 チャーハンを食べながら夏希は先生に目線も向けずに言った。


 夏希に言われて、先生は手に持っていたレンゲを皿の上に置いた。


「きょうホームルームが終わった後に、学校の図書室に資料を借りに行ったんだ。すると図書室で鵜野森さんが司書の新ヶ咲(にいがさき)先生の手伝いをしていてね。それもヒトリで」


 梢先生はテーブルに両ひじをついて、両手を組んでその上に顔をのっけた。


「顧問としては見逃せないな。私の知らない所で部が分裂状態に陥っているというのはね」


 ……凛音さんと口をきかなくなってからのコトは、梢先生には一度も話していなかった。


 おれたちの担任の先生なんだから、黙ってても近いうちにバレるんだろうなとは思っていたけれど……


「じゃ、どうするんですか? 部内会議でもやるんですか?」


 夏希がそう訊くと、梢先生は「いや」と首を小さく振った。


「キミらに仕事を持って来たんだ。いまのキミらにうってつけの仕事さ。明日はホームルームが終わったらそれをやってもらうよ。汚れてもいいように、着替えだけ持って来てね」


「着替え? 何やるんですか? それにそれって、凛音さんも一緒ですか」


「トーゼンでしょ。むしろ彼女もいてくれなきゃ困るよ。キミらの間に何があったのか知らないけど、逃げるなよ」


「……はい」


 おれが梢先生に気まずいカンジで返事していると、隣で真奈人くんがレンゲを動かす手を止めていたのに気がついた。皿の上にはまだまだチャーハンが残っている。


「……おれがチャーハン食べてる横で、ワケわかんない話しないでほしいんだけど」


 真奈人くんがまたフクザツそうな顔をしながらボソッと言った。


「ごめんな。おれのチャーハン、もっといる?」


「いる」


 おれはレンゲで隣の真奈人くんの皿に自分のチャーハンを分けてあげた。うーん、おれのチャーハンの量、だいぶ少なくなっちゃったな。


「あ、先生もチャーハンもっと欲しい。黛くん、分けて」


 梢先生がおれにチャーハンをせがんできた。いつの間にか梢先生の皿の上のチャーハンはだいぶなくなっていた。


「あげません!」


 そもそもいきなりここに上がり込んだアンタのせいで、おれのチャーハンの取り分減ってるんだよ!


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