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春26:朝比奈あやみの手紙

 藤堂とうどうまこと先生へ


 朝比奈です。こうやって先生に手紙を送ることなんて、三年生になって部活を引退する時までないと思っていました。


 今回、私は先生と直接向き合って言葉で伝えることが難しい話をしたくて、手紙を書くことにしました。


 おととい、体育館で私たちが起こした騒ぎで先生には心配をおかけしました。申し訳ないと思うのと同時に、先生が私を気遣ってくれたことが私はとても嬉しかったです。


 あの場で私は、友人の恋人に恋をしたことで悩んでいると先生にお話しました。


 白状します。あそこで私たちは先生に嘘をつきました。


 あの時、私は私が悩んでいることを正直に言うことができない理由がありました。あのなんでも部の三人はその理由を知っていて、私を助けるためにとっさに嘘をついて私を助けてくれました。


 だけど本当のこともあります。それは私が誰かに恋をしていて、そして叶えられる見込みのないその恋にひとりで抱え続けることに耐えられなくなって、なんでも部に助けを求めました。


 あの時は怖気づいて口にできなかったけれど、今こそここで本当のことを書きます。


 藤堂誠先生、私はあなたのことが好きです。生徒として尊敬する気持ちだけじゃなくて、女性としてあなたという男性のことが好きなんです。


 入学してバレーボール部に入った時、失礼かもしれませんが、最初私は先生のことを近寄りがたい人だと感じていました。


 一年生のころ、私は先生の厳しい指導にいつも怯えていて、先生が近くにいる時は常にプレッシャーを感じていました。


 いつ先生の怒鳴り声が飛んでくるのか、そのことが頭をよぎるたびに身体がこわばってミスをして、集中しろと何度も叱られました。


 今だから言えるけれど、あの頃はバレー部をやっていて、全然楽しくありませんでした。


 二年生になって部活に所属しなくてもよくなったら、さっさとこんな場所から出て行ってやるっていつも思ってました。


 そんな私の気持ちが変わったのは、去年の秋ごろでした。その日私は、はじめて先生に褒められました。


 その時のこと、先生は覚えていますか? きっと覚えていないかもしれません。


 あの日の練習中、私はコートの端に飛んでいったボールを返そうと一気に駆け出したのですが、遠くに飛んでいったそのボールをレシーブすることができないまま、私は思いっきり滑って転んで、ひざをすりむいてしまいました。


 情けないミスをして地面に滑り込んだ私のところに、先生が駆け寄ってきているのに気がついて、ああ、私はまた先生に叱られるんだと思いました。


 だけど違いました。先生はケガをした私を心配して傷の手当てをしてくれて、そして拾うことが出来ないかもしれない球でも、諦めずにくらいつこうとしたと私をほめてくれました。


 いつも厳しい先生に褒められて、私は初めてこの部活に来てよかったなと思いました。


 それから私は先生に認められたい一心で、練習に打ち込みました。


 もちろん練習は大変だけれど、先生が褒めてくれるたびに苦労したことやつらかったことなんてどこかに飛んでいってしまいました。


 そんなことを思いながら毎日部活に来ている間に、私は先生にとってもっと大切で、大きな存在になりたいって思うようになりました。


 私が先生に思っているのと同じことを、先生にも私に思ってほしいって思うようになったんです。


 今の私は、先生なしではいられません。先生がいるから私は部活に打ち込めて、もっと努力したいって思えます。


 でも、先生にとってはそうじゃないことは判ってます。


 私以外にもバレー部の部員は大勢いるし、バレー部以外でも、先生が担任をしているクラスの人たちとか、授業を教えてる人たちもいて、先生には大切にしなきゃいけない人たちがたくさんいるんでしょう。


 でもだからこそ、私はその人たちよりもずっと大切な、先生にとってたった一人の存在になりたいんです。


 先生に家族があることは知ってます。奥さんがいて、お子さんがいることだってもちろん知ってます。


 私はその人たちより大事な人になりたんです。


 初めて先生に褒めてもらった時みたいに、私はチャンスを諦めたくありません。


 お返事ください。ラインでも、私みたいに手紙でも、ふたりっきりで会って教えてくれるのでも構いません。


 私のこの思いが先生にも通じてくれることを祈っています。


 大好きです 朝比奈あやみより


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