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春24:星のあやーみぃ


「ごちそうさまでした」


 凛音さんはラーメンどんぶりの前に敷いた紙ナプキンの上にお箸を置くと、顔の前で両手を静かに合わせた。


 どんぶりのふちのあたりには、いまおれたちが寄り道をして晩ご飯を食べている中華料理屋”シンロン”のロゴがプリントされている。


「え、凛音さんもう食べ終わったの? 食べ終わるの早くない?」


「たぶん理由は親がふたりとも教師だからなのかな」


 チャーハンが乗っかったレンゲを口の前に持っていこうとしていたおれの手が止まると、凛音さんはテーブルの上にある備え付けの紙ナプキンをまた一枚取って、それで口の周りをふいた。 


「ほら、教師って給食の時間は生徒よりも遅く食べ始めて、そして生徒よりも早く食べ終わるでしょ? だから家で、家族で集まって食事してる時も、それに引きずられてみんなの食事する時のスピードが全体的に早くなってね」


 納得。そういえば凛音さん、お父さんとお母さんが共働きだって前に言ってたっけ。そっか、学校の先生だったんだ。


「だけどわたしが一番早く食べ終わったのは、わたしの食べる速さ以前にわたしよりみんなの食べる量のほうがずっと多いのが理由なんじゃないかな」


 凛音さんに言われて、おれは自分が注文した料理の乗っているトレーを見下ろした。


 醤油ラーメンを単品で頼んだ凛音さんと違って、おれはこの店のイチオシのチャーハン定食を注文した。


 この定食には豚肉と玉ねぎをたくさん使って、強い火でガンガンに焼くように炒めたチャーハンに、ミニラーメンとギョーザが三個、プチトマトが乗ったサラダにすっぱいつけものとデザートで杏仁豆腐がついていて、おれがこの店に来たら必ず頼んでいるメニューだ。


「凛さんは逆にそれだけでいいの? ラーメン一杯だけじゃ物足りなくない?」


 エビチリ定食を注文した夏希が凛音さんに言った。夏希の頼んだエビチリ定食も、おれのチャーハン定食と同じようにミニラーメンとギョーザ、サラダとつけものと杏仁豆腐が付いている。


 いつもチャーハン定食を頼んでいるおれと違って、夏希は毎回違うメニューを選んで試してみるタイプだ。


「普段あんまり動かないタイプだから、ふたりと較べてあまりお腹に入らないのかも。ましてや、運動部の先輩とは比べ物にならないよ」


 凛音さんはそう言って、テーブルの隣の席に座っているあやみ先輩に目をやった。


 あやみ先輩が頼んだのはおれと同じチャーハン定食だ。でもチャーハン定食はチャーハン定食でも、おれのと違って”特大”チャーハン定食だ。


 まずチャーハンが大盛りで、ラーメンはおれと夏希の定食に付いてたミニラーメンじゃなくて、凛音さんが食べたのと同じ大きさの一人前ラーメンで、サラダと杏仁豆腐に加えて、なんと唐揚げがひとつ付いている。それもけっこう大きめのやつ。


 そんな大ボリュームの定食を、バレー部二年生のあやみ先輩はがつがつと食らっていた。


「ふう、熱いもの食べてると汗かいちゃった」


 あやみ先輩がおでこに流れる汗をぬぐって自分のコップの水を一杯飲み干すと、キッチンのほうから水と氷が入ったピッチャーを持ったおばさんがおれたちのいるテーブルにやってきて、空っぽになった先輩のコップにキンキンに冷えた水を注いだ。


「ワタシお姉さん好きヨー。オイしくイッパイ食べてくれるカラ」


 外国から日本にやってきてこのお店を開いた店長のおばさんが笑って先輩に言うと、先輩も微笑んで「ありがとうございます」と返した。


「そうだ。デザートに胡麻団子を追加でお願いします」


「ハイ、胡麻団子ネ。杏仁豆腐と一緒に持ってきまスー」


「え、先輩もっと食べるんすか!?」


 サラダとラーメンを食べ終えて、チャーハンをかなり食べ進めたところでおれのお腹はけっこういい感じに仕上がっていたのだけど、それ以上の量を食べているはずの先輩はまだまだ物足りないらしい。すごいぜ、運動部の胃袋。


「中華料理屋に来て胡麻団子を食べずに帰るわけにはいかないもの。それに、今日は黛くんが迷惑かけたおわびに私の頼んだぶん、おごってくれるんでしょ。なら頼めるだけ頼まないと」


「う」


 店に来る前に先輩に言ったコトを出されて、おれはぎくっとなった。あの時は「余計なお世話」って先輩に突っ返されたはずなんだけど。


 えーと、今までの量に胡麻団子でいくらになるのかな。凛音さんと出かけた時の出費も考えると、今月、だいぶヤバい感じになるんじゃ……


「……喜んで払わせていただきます」


「冗談。自分のお金で払うに決まってるでしょ。私が自分のご飯代を後輩に払わせるようなヤツだと思った?」


「そ、そーですよねっ! あははは!」


 おれは顔を引きつらせて笑った。


 心の中では全然笑えなかった。だってさっき先輩、真顔で言ってたから、マジで言ってるかと思ったんだもん……


「まあ黛くんの起こした騒ぎのせいで、私の友だちは全員、私に彼氏を寝取られるんじゃないかって超疑心暗鬼になってるけど。いまラインがすごい勢いで来てる」


 先輩が言ってるそばで、テーブルの上に置いてある先輩の携帯がラインの通知で何度も振動している。このお店に来る前からずっとこんな感じだ。


 あやみ先輩は友だちの恋人のコトが好きになったって話は、生徒指導室で凛音さんがでっちあげた作り話だけど、それを知らないはずの人たちの間でもなんか自然とそういう話ってコトで広まっているらしい。


 先生が好きだって本当の話がバレるのとどっちが良いのかは判らない。どっちもどっちな気がする……


「黛くんも見てみる? ラインの内容」


 携帯を手に持って通知がたくさん出ている画面をこっちに向ける先輩に、おれは首を横に振った。


「……エンリョします」


「冗談よ」


 先輩はふっと笑うと携帯をテーブルの上に戻して、チャーハンの残りをレンゲですくいはじめた。


 ……さっきも思ったけど、この人の言う冗談、いちいち笑いづらいよ!


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