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春10:そろそろ部活の話を


「グッモーニン、色男くん。昨日のデートはどうだったかい?」


 月曜日の朝、教室に入ると先に学校に来ていた夏希の声が飛んできた。


 夏希は背もたれの部分を前にして大股になって、両肘を組んで背もたれに乗せて前にもたれかかっている。


「昨日の? うーん、まあまあうまくいったんじゃないかな」


 おれはカバンを自分の机に置きながら夏希に向かって言った。


 いや、待てよ。うまくいったようで、結局何も問題は解決してない気がするぞ。うやむやにして、いい感じにゴマかしただけなような……


「その顔は何かあった顔でしょ。目ぇ泳ぎまくってるよ」


 夏希がおれの思っていたことを言い当てたので、おれは夏希に昨日凛音さんと出かけていた間に起こったことをひとつひとつ順番に説明していった。


「ふーん、そんな感じであの子、幼馴染にフラれちゃったんだ。でもその彼も、フラないでキープしときゃ良かったのにね」


 夏希がミもフタもないことを言い出した。


「いいのかよ、女子の立場から好きな男子がそういうムーブしだすの」


「だってさ、仮に最初は恋愛的な目で見られなかったとしても、そのうち何だかんだ恋人としてイケるって思うようになるかもしれないじゃん。チャンスくらいあったってアタシは良かったって思うけどねー」


「うーん……そういう考え方もアリ、なのかなあ」


 納得できるような、できないような。


「そのヒトさ、他に好きなヒトがいたって話とかあった?」


「いや、聞いてないけど」


 少なくともそんな話は出なかったし、いたら話に出ただろう。


「だったらなおさらだよ。アンタみたいに心に決めたヒトがいるってんならともかく、せっかく告られたんだったら付き合っておけばいいんだよ。ダメだったらその時別ればいんだし、うまくいったら本当にゴールインまでいけるんだからさ」


 確かに、夏希の言うことにはかなり納得できる。


「でも問題は、もう完全に手遅れってことなんだよなあ」


「だねえ。当人たちはやり直す気とかないのかな」


 やり直す気……か。


 “君といたら、渚のことを忘れられると思ったんだ。これからは昔の思い出に縛られずに済むって”


 不知火くんはなんとか凛音さんと仲直りしたがっているような感じだけど、凛音さんは不知火くんとのことは、もう全部忘れてしまいたいって思っている。


 だからもう、あのふたりが恋人同士になることも、元のように仲のいい幼馴染どうしに戻ることはないんだろう。


「じゃあ、本当にもう望みはないね。ふたりとも、それぞれ新しい幸せを見つけるしかなさそうだねえ」 


 夏希が身体を逸らして天井を見上げながら言った。


 おれとしてはこんな終わりかたはあんまりだと思うし、なんとかしてあげたいと思うけど、でも、凛音さんがそう思っていないのなら、どうすることもできない。


 でもなあ。もっと何かやりようはあったとは思うんだよなあ。もう少し、みんなが前向きになれるような結末があったはずなのに……


「落ち込まないの。央士はやれるだけやったよ。あとは本人たちに任せるだけなんだから、アタシらはアタシらがやらなきゃいけないコトをやらなきゃ。というわけで”なんでも部”のことなんだけど」


 そうだった。今日までが部を作る期限だ。放課後までに部の設立の申請を出すか、他の部活に入るなら入部届を出さないと。


「他に部員は見つけられた?」


 おれは前の席に座る夏希のほうに身を乗り出して訊いた。


「こっちでも入部希望者を当たってはみたんだけど、もうダメだね。みんなもうよその部活に入ってるか、断られた」


 やっぱりか。先週の木曜とか金曜のあたりでもうキツそうな気がしたんだよなあ。


「だからこうなったらもうアタシらでよその部活に一年入って、そこにいながら二年からどうするか考えるのがいいと思うんだよね。ボランティア部とか新聞部とか、あちこちに動きやすい部がいいとは思うんだけどね」


 夏希は新入生歓迎会の時に配られた部活紹介のパンフレットをおれの机の上に広げた。


「いっそのこと、マサのいる文芸部にお邪魔するって手もあるけどね」


「そんな手はない」


 椅子に座るおれたちの頭の上から雅臣の声が聞こえた。


「あ、おはよう、雅臣」


「おっはー」


 おれと夏希は机の隣に立っている雅臣の顔を見上げていった。


 最近、雅臣は朝早くに文芸部の部室に行って、朝早くの小説の執筆活動に励んでいるらしい。


「何で文芸部にアタシらが入ったらダメなのよ」


 夏希が訊くと、雅臣は眉と眉の間にシワを寄せ始めた。


「いいか、俺は入部する時に”なんでも部”の騒ぎを部内に持ち込まないことを約束したんだ。なのに、”なんでも部”そのものを部内に持ち込もうとするんじゃない! 第一お前ら、文芸部に入っても小説を書くつもりないだろ!」


「ないよ」


 夏希はきっぱりと言った。


「そこはせめて嘘でも書くと言えよっ」


「これじゃ文芸部はやめだね。作文はキライだし。よそをあたろう」


 夏希が言うと、おれと夏樹はもう一度部活紹介のパンフレットを眺めた。


 パンフレットに書いてあるそれぞれの部活の紹介文を読んでいると、胡桃さんが体験入部をしていた女子バレーボール部のことも書いてあった。


「ここはダメだね。下級生をパシッてるし。第一女子と男子に分かれてたら、央士とは別の部活になっちゃうもんね」


 夏希がそう話すと、おれは凛音さんと初めて会った、いや、合格発表の日は別にして、凛音さんと初めて面と向かって会った日のことを思い出した。


 体育館の前で、胡桃さんの部活が終わるのを待ってたんだっけ。で、凛音さんのほうも体験入部をしてないから、あの時間までおれたちみたいに待ってて……


 ……あれ? そういえば、凛音さんはどこの部活に入るつもりなんだろう?


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