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プロローグ:誰某(だれそれ)

 こんにちは!作者です!

 執筆活動の歴はあまり長くありませんが、描きたいものを書いていきたいと思っています。お時間があれば是非読んでください!

 黄昏時、まだ蒸し暑さが残る教室の中に俺はいた。余りの暑さに唸りながら学校指定のネクタイを緩め、ワイシャツの第一ボタンを外す。更に汗ばんだ額に引っ付く前髪を引き剝がす。

 もう8月が終わったというのに未だ猛威を振るう酷暑がどうにも憎たらしい。そんな気持ちを紛らわせるために都市伝説が書かれたネットの掲示板を見ながらスマホをつつく。


 「健吾お疲れー!」


 ピシャリと開いた扉から制服姿の友人が教室に入って来る。黒部(くろべ)だ。

 

 「ちげぇよ、俺の名前は健司だ。何回間違えるんだよ?いい加減覚えてくれ」


 「あぁそうだった、そうだった」


 「というかバスケ部は?今日は筋トレの日だって嘆いてなかったか?」


 「いやぁ、俺思うんだよ。こぉんな暑い日に湯気が見えんばかりのトレーニングルームで筋トレするのは健康上良いのかも知らない。だけど精神衛生上良くないよ、絶対」


 「ほう、つまりサボリか」


 「筋トレ疲れるしバスケで使う筋肉はバスケやれば鍛えられるだろ?つまり今日みたいな日は旧友と駄弁りながら日がな1日過ごす方がよっぽど生産的…だろ?」


 「よくもまぁ抜け抜けと....」


 「正当で論理的な理由さ...よっこらせ」


 俺の隣に黒部がドッカリと座った。しかしスラリと彼の長い肢体には高校の机も椅子も小さいらしく、枠からはみ出ている。

 思わずため息が漏れ出る。


 「なんだよ?せっかく唯一の友人が遊びに来たんだ、もう少し喜んでくれても良いんだぜ?」


 「唯一じゃないし….」


 「本当に?」


 「そうだ、黒部の他に俺にはもう1人友達がいる」


 「その人の名前は?」


 「....別に誰でもいいだろ」


 「やっぱりいないんだぁ?」


 「....ホント、何しに来たんだ?わざわざ部活をサボってまで俺の機嫌を損ねに来たのか?だったら帰れ」


 「そう邪険に扱ってくれるなよ、謝るから。それに今回はちょっと面白い都市伝説の噂を持ってきたんだ。健司こう言う話好きだろ?」


 「都市伝説なら何でも良いわけじゃない」


 「願い事が叶う系のやつだぜ?」


 「....」


 「優しい優しいオトモダチが健司君の大好きなお話を持ってきたんだよ?聞かなくていいのぉ?本当に帰っちゃって良いのかなぁ?」


 込み上げる舌打ちを噛み殺してチラリと見ると黒部はしたり顔で俺を見下しているのがムカついた。プラスで今にもフフンと言い出しそうな口許が余計に神経を逆撫でする。イライラするし暑いしコイツ張り倒してやろうかな。


 「話した方が良いかな?け・ん・じ・く・ん?」


 「勝手にしろよ。お前も話したくて堪らないんだろ?」


 「釣れないぜぇ」


 そう言った黒部はキリッと姿勢を正す。


 「この町に天川美香(あまのがわみか)って名前の女神様がいるって知ってるか?」


 「なんだそれ?」


 「深夜も深夜、夜と朝の狭間に女神様が発見されてるんだ。俺は見た事ないんだけど、どうやら老若男女問わず色んな人がその時間帯に女神様を見たんだってさ」


 「何で女神って分かるんだ?ただの深夜に出歩いてる人かも知らないだろ?」


 「巫女服を着てて、それに雰囲気も神々しくて一目見ただけでわかるんだって」


 「深夜徘徊コスプレヤーなんじゃないの?」


 「いや、それがさ!何でもその女神様を見たって言う人全員に幸運が舞い込んだらしいんだ!それにたまたま会話出来た人は今や人生の有頂天なんだと!」


 「ふーん」


 この手の都市伝説は殆どがガセだ。噂を流した奴がいて、それっぽいのを見た奴らがいて、プラシーボよろしく思い込みの力を借りて存在しない存在を作り出すのだ。奇跡なんてこの世にあってはならない。

 ガックリと落とした俺の肩を黒部ががっちりと掴み、揺らす。


 「という訳で今夜俺と一緒に女神様を探そうぜ」


 ブンブンブン


 「嫌だ、絶対ガセだもん」


 ブンブンブン


 「そんなのちゃんと見てから決めようよ!」


 ブンブンブン


 「....分かったよ。行く、行くから揺らすのやめて、首もげそう」


 「本当!?よし、じゃあ...」


 そこからは集合場所とこれまでの女神の発見場所を共有して解散した。


         ******


  「ていう事で女神様を探して行こう!」


 「深夜だぞ今」


 「…女神様を探して行こう」


 小声にしてもまだやかましいという言葉を飲み込み、疎らにある街灯の明かりと懐中電灯の光を頼りに俺たちは目撃情報がある場所へと向かった。

 とある交差点や病院前、各種神社仏閣など様々な所へと足を運ぶも女神のめの字も見つからないまま空も大分白くなってしまった。


 「あれぇ?時間も場所もあってるはずなのに...女神様はどこにいるのかな?」


 「....だから言ったんだガセだって」


 「女神様はいるもん!」


 「女児かよ」


 「…昔もこうやって町中探検してたよなぁ」


 「急に変えるな、話を」


 「小学生の時はさ、公園とかの人気(ひとけ)の無い所は全部秘密基地だったよな。中学生の頃なんかは変な合図まで作っちゃってさ」


 「昔の事なんてそんないちいち覚えてねぇよ」


 「あ〜あの頃に戻りたいなぁ」


 「....そうだな」


 いつもの調子で話し、いつものように歩く。深夜に歩き回る緊張感や恐怖も和らぎ始めたころ、不意に手に持っていた懐中電灯が何かを照らした。


 「何だ?」


 「な、生肉?」


 常識的に考えて路上に生肉など落ちているはずもないのだが、恐らくこれを見た人間は10人中100人は生肉と形容するだろう。近づけばその感想はより強固になり、薄い赤色や街灯に照らし出される艶、微かに香る匂いまでもが完全に生肉だ。だが、一つだけ普通の生肉とは異なる点があった。


 「ねぇ...何か動いてない?あれ...」


 わずかに黒部の声が震えている。


 「....」


 ソレは確かに動いているのだ。蠢いていると言った方が正しいかもしれない。


 「やばくね?」


 黒部のその言葉と共にソレの動きが止まった。直感でこれはまずいと思い、逃げようとするもまるで岩のように重くなった足は動いてくれない。

 そのまま1秒、5秒、30秒と何も起こらない時間が経過していく。緊張感の中忘れていた瞬きをした瞬間、ヒヤリと背筋に冷たいものが走った。

 人型へと変形したソレと目が合った。

 

 「うわああああああ!」


 叫ぶ黒部に半ば引きずられるように俺も後ろへと走り始めた。

 後ろからはペチャペチャと音が近づいてきている。人型の肉塊が追いかけてきている姿が脳裏に浮かぶ。更には「ウッんー、ン~」という呻き声もすぐ後ろから聞こえてくる。一刻も早く離れたいのに一向に距離は変わらない。


 「健司、もっと速く!」


 「む、無理....」


 「ムー!んン~!」


 急に走り出したため帰宅部の俺の体力は早々に尽き始め、黒部の背中が段々と小さくなっていく。それと同時にヤツとの距離が縮まっていく。そのことに気を取られた俺の脚は遂に絡まり、勢いよくコンクリートの地面へと身体を擦り付けるように転んだ。


 「ウうん~!」


 耳元で聞こえる声に俺はうつ伏せの姿勢のまま固まった。次いで足首、太もも、腰、うなじと順番に生温かい感触に襲われる。身体を撫でられている理解したとき、全身の毛が逆立つ。何度も何度も撫でられる。駄目だもう助からないと理解したその時だった。


 ーピチャ、ピチャ、ピチャ


 と3回聞こえた。ヤツが撫でる手を止めて地面を叩いているのが視界の端でなんとなく見える。


 「ぇン.......ゴぉ?」


 「.....え?」


 そんな訳はない。そう思いながら俺はほぼ反射で地面を指先で5回つついた。


 ―とん、とん、とん、とん、とん


 ーピチャ、ピチャ、ピチャ

 

 「ゴ...ん...ちゃ?」


 「あっ.....」

 

 その瞬間、俺の中で1つの仮説が生まれた。コイツはもしかしたら.....


 「そいつから離れろよっ!」


 グチャという破裂音と断末魔が深夜の町に響く。


 「ギぃィぃィ!」


 見ればソレは顔を手で押さえて地面でのたうち回っており、黒部が俺を守るように立ちふさがっていた。その手には資源ごみと書かれているシールが貼られた金属製のバットが握られている。

 よろよろと立ち上がる化け物に黒部が叫ぶ。


 「来るなら来い!ぼこぼこにしてやるからよ!」


 「ンぐ...んぐ....ギエエエエェェ!」


 「あっ...」


 けたたましい咆哮と共に化け物の腕が凄まじい速度で伸び、文字通りあっという間にバットがへし折られてしまった。

 危険がなくなったと判断したのか獣のような荒い呼吸を繰り返しながら一歩また一歩とヤツとの距離が縮まる。街灯激しく点滅している。それに呼応するように心臓も早鐘を打つ。


 「んふー...フー」


 「あー嘘嘘、やっぱ来ないで!?」


 「アアあああァ!」


 「待ってあ.....」


 俺がそう叫びかけた瞬間、どこからともなくその女性は現れた。


 「荒らい給るる彼の魂(か たま)よ。我が名、御影に従い、来たり降るる御一振りを以って在りうべきに送らん」


 正しく神速の速さで鞘から放たれた彼女の剣戟は瞬く間に物体を、空気を、恐怖を一挙に切り伏せた。その連撃に化け物は音もなく灰燼と化す。まるで元からそこには何もなかったように。


 「ふぅ、やかましい声に来てみれば...トンだ凡夫だったな」


 「おぉ...紅白の巫女服に短い髪。それにこの神々しい雰囲気!もしや貴女いや、貴女様は女神の...」


 「如何にも!妾の名は天之か...」


 「天川美香様ですか!?」

 

 「...ごめん誰それ?」


 「「えっ?」」


 朝日が淡く町を照らすなか、俺達のそんな素っ頓狂な声が空へと吸い込まれていった。


 

 

 

この度はお読みいただきありがとうございました!

 今回のお話は面白かったでしょうか?誤字・脱字がありましたらご指摘をお願いいたします。この先の展開を楽しみにして続きをお待ちくださいませ。


 こんにちは作者です。春は何某プロローグ『誰某』をお読みいただきありがとうございます!いやはや如何だったでしょうか?続きは気になりますかね?気になりますよね?大まかな世界設定は一話以降で少しずつ語られていきますのでごゆっくりお待ちいただければと思います。

 では今回はこの場で今作の制作秘話について語ってます。今作は他作品と差別化をするべく、ハイファンタジーではなく『ローファンタジー×剣と魔法』で行こうという無駄っぽい無駄な心意気から始まりました。また私が続けるのを断念してしまった作品の系譜を弾き続ける意味合いも込めております。全体的な仕上がりとしては『ノラガミ』や『東京喰種』っぽくなりたい(願望)!この2作品のどちらかもしくは両方が好きな皆様は楽しめるかなと思いますのでどうかお付き合い、御慈愛下さいませ!ではでは今宵はこれにて失礼。この作品を読んだ全ての存在に幸あれ!

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