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1 追放

 闇夜に紛れ、今日も裏世界を跋扈する。

 暗殺者とは、どんな方法であっても決してバレずに人を殺す者だ。

 そして今、遠距離狙撃と毒殺、この二つの方法がこの世界で最も多用されている。


 だが、俺は今窒息殺を愛用している。

 理由は二つだ。

 一つ目は自殺偽装が容易だと言うこと。

 多くの人たちが自殺の時に使うのがロープだ。

 二つ目は警戒できないと言うことだ。

 各国の要人は、基本的に毒殺を警戒し、レディーファーストを使ってくるのだ。

 ただ、一見違和感無いその状態に油断を誘うことができる。

 俺の二つ名は、一般では『証拠なき毒殺魔』と言われている。

 まず、何故このような二つ名が通ったかと言うと、俺の窒息殺は特殊であるからだ。

 兵器として使えるレベルのアイテムである、光学迷彩の2人羽織。

 それに加え、肉体に酸素と誤認させ、血液に流してしまった瞬間カフェインと化す、死酸素を生み出すことが可能になってしまう、空気を無限に出すことができる瓢箪(ひょうたん)を一族の家宝として使っている。


 そんな俺だが、今多大な危機に陥っている。

 それは死の前兆とでも言うべき者だ。

 裏世界の住人に囲まれているのだ。

 そして、それは恐らく客がいるからこそ動いたのだろう。

 つまり既に、俺は手を出しちゃあいけない依頼に手を出したってことになる。

 見当はついた。奴らが目をつけたものをやってしまったのだろう。

 あほみたいに金を積まれて、やった危険度十のやつだった。

 あれは難易度が低い代わりに恨みを買うものだ。そう言う類のやつなのだ。

 まあ引き受けるんじゃなかったな。増長していたのかもしれない。


「お前みたいな若造が『証拠なき毒殺魔』だったのかよ。

 確かにお前のその、持っている瓢箪(ひょうたん)の力は凄い。

 お前の足運びや所作、それに射撃能力や、工作能力はずば抜けている。」


 その言葉に無言を貫く。

 言われなくてもわかってた。

 この世界ではこれぐらいできて‘当たり前’だと。

 だからなんだろうか。

 この、『無音の鬼』や、『罠神』、『無味無臭の毒ガス使い』や、『拷問狂い』など、人としての何かを捨てている奴らがあまりにも多すぎる。

 まるで、人としての大事なものと等価交換で得たような力だ。

 それ比べて俺は『証拠なき毒殺魔』と言われているが実情は道具頼り。

 何も捨てずにこいつらの横に立てたと一瞬でも思ったことを後悔した。


「毒使いは俺だけで十分だ。

 しかし、それは研究しがいのあるものだな。

 おい、お前らに俺報酬譲ってやるから、この瓢箪(ひょうたん)俺によこせや。

 どうせお前らもこいつの使い道わかんねーだろ?」


「口を挟むなよ、『無味無臭の毒ガス使い』。

 さて、先ほどの悟りの促し(教育)の続きでもしようか。

 お前は一般人より優れてはいるが、それは所詮‘入門’だ。

 若造が入門するのは俺らのやる、ゴミみたい仕事が減る。

 その反転、お前みたいな若造が得ていいもんじゃないその道具に頼り俺たちの不安を煽った。

 それは即ち、死に値するってことさ。」


「成程、どうも説教をありがとう。

 じゃあな。」


 そう言い、俺は()()()()瓢箪(ひょうたん)を取り出す。

 そうそれは無味無臭の毒ガス。だが、色付きだ。そしてこれは、心臓の近くに向かう習性のある毒ガスだ。

 そう、俺はこいつらを道連れにする。


 そう思いながら瓢箪(ひょうたん)()()


 その意味を察したのか、先ほどまで余裕の笑みで、俺に教育がどうの言ってたやつは眉間に皺を寄せた。

 しかし、その瞬間、濃く、黒い霧が霧散した。



「やっぱり。ここまで読み通りとは思わなかったよ。

 隠し玉があるのは読み通りだったようだね。

 ところでさあ、『無音の鬼』さあ。

 私に、あいつに隠し玉なんて、あるわけないだろ。とか言ってたわけじゃないですかあ。

 報酬一割よこせやおらあ!」


 中性的な声があたりに響く。

 まずいかも


「一体何だってんだ!?」


 思わず声が溢れた。

 これは現状事前準備がなきゃ防ぐことなんてできないものの筈……


「はあ、何でって顔してるね!

 教えて差し上げよう!この『罠神』がね!」


 その言葉の真意に気づいた俺は口をあんぐり開けてしまった。


「もしかしたら気付いたのかな!?

 チンパンジーでもわかるんだから君はチンパンジーと同類なんだ!?

 奇跡だよお。

 簡単に言えば、君がわかる程度の罠を仕掛けて誘導したんだよね。

 面白いぐらいに上手くいくからね。

 装具に頼り切っていた過去の自分に言ってやりなよ。」


 俺が負ける?そんな事あるはずがない。

 そんな考えは増長だ。今すぐ捨てろ。

 過去の自分に言ってやったが現実は虚しく、、、


「そんなことはどうでもいい。

 さっさと私に拷問をさせろ。新しいやつを持ってきたんだ。」


 その瞬間俺は恐怖に震えた。

『拷問狂い』の拷問は、5分でちびり、30分で気絶し、1時間経てば許しを乞う。

 半日経てば精神が狂い、1日経てば人間卒業。

 こんなふうに言われているのだ。


「俺は最初から最後までこうなのか……

 おい、『無味無臭の毒ガス使い』。

 お前にこれは渡さんからな。」


「なんだい?まだ秘策でもあったのかい?」


「勿論だ。」


 そう言い()()()瓢箪(ひょうたん)を砕く。

 その瞬間、俺の意識は闇の中に落ちてゆくのだった。



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「産まれたか?」


「暗殺者貴族一家に名を連ねる者として、10歳になるまでは育てねばならんが、役立つ者ではない限り捨てねばならないな。」


 結構やばい内容話してないか?つまりなんだ。

 あの最後のブツは転生のためのキーだったってわけか。

 俺の力を確認できないことが本当に辛いものがあるな。

 現状把握できるだけでどれだけ大きく変わるのだろう。

 そう思いながら耳を傾けると、思ったより声が聞こえるのだ。

 しばらくは情報収集に勤しむとするか。

 暗殺者稼業の鉄則だな。



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 わかったことをまとめよう。

 この世界では魔法があると言うこと。

 一人につき2属性あると言うこと。

 この暗殺者稼業の世界では光魔法が最弱であると言うこと。

 稀にだが1属性しか持ってない人間があると言うこと。

 そしてこの家はラーオン辺境伯家兼国家直属の影であり、俺の名前はラーオン=ローランドであると言うこと。

 2属性持っている人間が習うのは、並列起動で複合魔法を放てるようになるため、剣より魔法が強いとのこと。

 属性は火、水、土、風、草の5つの、基本的な物に、剣術、拳術、双剣術、大剣術、小剣術、五感鋭敏、脚力強化、腕力強化、鎧化である。

 そして、稀にだが、希少属性が現れる。

 これは、炎、氷、岩、嵐、自然の上位属性の5つと、闇、光、回復の特殊な属性であり、全身強化、剣聖、拳聖は、武術系統の上位属性である。召喚、従属は、魔物を従えるが、魔力が多くないと召喚できないし、従えられない。

 そして、最強の属性と言われているのが魔力量倍化である。

 これは無色判定を受けるが、他より以上に魔力総量が多くなっていたりする。だが、獲得したらこの世界最高峰の自由魔法剣術学園ファンファーレに入れると言うこと。因みに希少属性持ちは簡単で入れる。

 まあ本人がわかるのだから、自己申告しないと基本的にまずいことになったりする。

 例えば、嫉妬の視線にさらされるとか。

 俺は思う。別にそれぐらいいいんじゃねと。

 言わないが。恐らく俺もこれに当てはまる。びっくりしたが、おそらく聴力強化は確定だろうと思い肩を落とす。

 今世では自由な学園生活を謳歌できる可能性がある。

 そんな期待に胸を膨らませる。

 これが今わかっている最大の情報である。



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 遂にやってきた。

 この人生の一大イベントが。

 そう、10歳の誕生日に適正属性検査をするのだ。

 この、よくわからない玉に手を乗っけるだけで良いそうだ。


「わっ」


 魔法玉が光ったのだ。

 これは…

 光属性と、剣聖属性だとっ?


「ふむ、異端児だな。放逐だ。」


 おうおうおう、超ベリーハードな急展開がいきなり来てしまった件。

 まじかよ、あんなによく聞こえたのは生まれつき耳が良かったってことなのか?

 そんなことはどうでもいいが。


「ちょっとお待ちください。

 剣聖を持っているのですよ?

 流石に路銀を与えてはどうです?

 金には余裕があるでしょうに。」


「ふむそうだな。

 ほれ、これを持ってゆけ。

 贅沢しても半年は暮らせる。

 家を買うなりなんなりして騙されぬよう生きることだな。」


 そういいって銅貨三枚を投げられる。

 明らかに笑われているな。

 しかも銅貨三枚なんてパン一つ買えればいいほうだぞ。

 これは最悪の展開かもしれない。

 ここでの放逐だろう?


「光属性ひとつしかない者など暗殺者の風上にもおけんわ。

 恥だわ。我が家には光属性使いは要らないのだ。」


 これを、納得して出ていくか?

 最近まで、森で暮らしてて、こんなところがあるなんて知らなかった。

 こう言う筋書きでいくしかないか。


「父上、母上、僕は悪者みたいですから出て行きます。

 産まれてきてごめんなさい。」


 この言葉を無表情で言う俺に、さすがの父も戸惑いを隠せなくなったようだ。

 眉間に皺が寄っている。

 俺を訝しんでいる目だ。

 さっさと家から出ていこう。


「困っても良いですよ。さようなら。」


 惑いを隠せなくなったようだ。

 恨まれても仕方ないと、呪詛を吐かれるのは当たり前だと思っていたのだろうか?

 眉間に皺が寄っている。

 俺を訝しんでいる目だ。

 さっさと家から出ていこう。

 母は、今にも鬼の形相をしていた。


「今まで、あんな高級な生活をさせてやってたのにも関わらず、こんな親不孝は出て行け。」


 ん?ちょっと待て。


「今まで俺には野菜しか出されなかったけどね。横領していたんじゃないのですか?」


「嘘をつかないようにしなさい。」


「困っても良いですよ。さようなら。」


 そんな、家族を尻目に自由になった俺は

「何しようかな。」

 外套のフードを被りながら心底楽しそうな声でそう呟くのだった。

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