序
ただ、自分で決めたかっただけ。
雀忠太は来賓のあいさつを聞きながら、そう思いました。
学園の誇る多様な学科も、人工島という珍しい環境も関係ありません。生まれた時から地元にいて、進学先も地元で、一生をそこで終える。ふと考えてみたとき、なんとなく嫌だっただけです。言ってしまえば消去法でした。
それにしても、すごく立派な入学式です。
学園の入学式は、ドーム会場で行われます。小・中・高を含む、3万人以上の児童生徒が通う、大きな学園だからです。このドームは学園の所有で、収容人数はおよそ4万人。
6歳から18歳までの児童生徒と、新入生の保護者、教員等の学園関係者、来賓など、多くの人が入学式に参列しています。地元の入学式と違い、知らない人ばかりです。
落ち着かずそわそわしている間にも式は進み、終わりに近づいていました。
入学式の最後のプログラムは芸能科男子――、つまりアイドルによるもの。忠太にとって人生で初めて鑑賞するアイドルのライブステージです。
ステージ上に立つ3人の男子生徒を、スポットライトが照らします。
曲の始まりと共に、彼らは歌い、踊り、観客を夢中にさせました。
金髪の生徒は、王子様のような外見とは裏腹に、挑発的なパフォーマンスです。自分のテクニックを見せつけるようにアレンジを加え、その度に会場が沸きました。
銀髪の生徒は、長身かつ筋肉質で、安定感抜群のダンスを披露します。彼が自分以外の2人を魅せる動きをし、誘導したことで、観客の眼はステージ上に釘付けになりました。
そして、栗色の長い髪をした生徒は、痛々しいほど集中しています。少女のような儚さからは想像もできないほど、研ぎ澄まされた歌とダンスです。その姿に涙を浮かべる人すらいました。
おなじ芸能科の生徒たちも、思わず声を漏らします。
「あのセンターのやつ、1年じゃなかったっけ?」
「今年の新人王は決まりだな……」
「てかあんなん、2・3年生でも無理でしょ」
ステージ上の彼らを観て、芸能科の生徒のほとんどがこう思いました。
敵わない。
そして、そう思わなかった生徒の1人が忠太です。
(すごい)
視線の先にいるのはステージ上の3人を観るたくさんの人たちです。興奮して体を揺らす人、集中していてまばたきもしない人、感動のあまり泣き出してしまう人。誰もがきっと、最高の気分でしょう。
(おれも、いつかあんな風に――)
彼の名前は、雀忠太。高等部芸能科の新入生です。