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陽だまりに手を引く  作者: 真昼
扉はまだ開かない
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プロローグ


久しぶりの投稿になります!

宜しくお願いします!

 








 君が好きだよ。

 だから、その願いが叶えば良い。




 








 夢を見た。

 朝日を背にして、幼いころの婚約者が笑う。


 不機嫌を形にしたように白いシーツのベッドで、薄青のワンピースの少女は苦笑しながら小指を俺に差し出した。


 人が訪れることはほとんど無い屋敷の片隅。彼女はベッドの縁に座って、サイドテーブルには季節の花が飾られた花瓶と、適当に選んだ本が置かれていた。

 薄灰色の髪や瞳に朝焼けの金を混じらせた婚約者は、やくそく、と薄い唇を動かす。


 そのほそい指を俺は、どうしたのだったか。




 §




 目を覚ます。寒かった。

 ベッドの天蓋と天井、窓枠の向こうのうっすらとした朝日。


 まだ、普段目覚める時間には早いらしい。

 ぼやける頭をそのままに、鈍痛を訴える節々を動かしてベッドから降りる。


 自分の呼吸以外何一つ音のない部屋を見回して、最後に扉に視線を合わせる。

 扉はまだ開かない。彼女が訪れることはない。


 どうして、と疑問が浮かんで思い出す。

 現れるはずの婚約者は―――シーリアは、遠くに行っているのだった。

 

 軋む身体を動かして、幼い頃からそうだったようにクローゼットにかけられた服に袖を通す。

 カフスを留めてから、デスクの上の万年筆を見た。彼女から預かった、濃い藍色のそれ。

 この室内で―――引き裂かれたカーテン、足の折れた椅子、割れて破片の飛び散った窓硝子など、なにもかも壊されたこの部屋の中で唯一つ傷のない太軸を、胸ポケットに挿す。


 柔らかな手つきで、これのキャップを外す婚約者を思い出す。俺が持つよりずっと鮮明な藍地は彼女に似合っていた。

 不慣れな場所でこれがなくて、彼女も不便がっているに違いない。

 戻ってきたら返してやろう。だから早く目の届く所に、触れられる所へ。


 そう思考を巡らせながら、人気の全くない廊下に出る。こなさなければいけない執務を数えながら、足は彼女のために用意した部屋に向かう。


「……シーリア」


 自室のとなり、青を基調とした彼女が好んだものか、好みそうなものだけを集めた部屋。

 王家御用達の商人達の努力の甲斐もあって、ドレスなどは2つ目のクローゼットを圧迫するほどに揃っている。



 どれも彼女に―――シーリアに、よく似合うだろう。

 だから早く、ほんの少しでも早く、戻ってきて欲しい。









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