第五話 後悔
ここは、東京都M区にあるアパート。
あの日、二日酔いで目が覚めると、嫁と6歳になる
一人息子が姿を消していた。
昨日はだいぶ暴れたのだろう。部屋の壁は穴だらけ、割れ物の破片が散乱している。
昼頃、だらだらと起き上がり辺りを見渡す。机の上には、嫁の判が押された離婚届がむなしく置かれていた。
すぐに嫁に連絡をとるも、もはや音信不通だ。
ここで、ようやく現実を理解しても、また意味もなく酒に逃げる。
こんな俺に夫や親父が務まるわけがないのだ。
第五話 後悔
数日後、弁護士だと名乗る男がアパートを訪ねてきた。
嫁と子どもに対するDVの証拠はすでに抑えられていること。
もはや、離婚を回避することはできないこと。
そして、今後一切、嫁と子どもに関わらないように念を押されたこと。
この条件が飲めなければ、刑事事件として警察に通報するということ。
といった内容を言い渡された俺は、すぐに区役所に離婚届を提出した。
区役所からの帰り道、俺は今までの人生を振り返っていた。
元嫁との出会い、結婚、そして、息子が生まれた日、本当に暖かな気持ちだった。
しかし、情報商材を扱っていた勤め先が倒産した日から、次第に俺は酒に逃げるようになっていった。
再就職も難航した。
当時、大学生をカモにした悪質な情報商材ビジネスが蔓延していたこともあり、
情報商材の営業をしていたと言うだけで、詐欺師のような扱いを受けた。
そして、無職、アル中、DV…。
「まるで絵に描いたような転落人生だ…。」
あらためて、思い返す。
息子が生まれて以来、俺は嫁さんの笑顔をみたことがあっただろうか。
息子は一度でも、俺をみて笑ってくれただろうか。
初めて自分に矛先を向けた。
俺がしなければならなかったこと、
それは、二人が笑顔にしてやることだったのだ。
もう、二人には会えない。合わせる顔もない。
でも、せめて残りの人生だけでも真っ当に生きよう。
俺はこの日から酒をやめた。






